第97話 二人の吸血鬼
何故このタイミングで俺に接触を図るんだ?
取りあえず警戒しておいて損はないだろう。
「こんな遅くにどうしたの?」
「村のみんなが、アレクサンドルさんがグールでマゼンタお婆ちゃんが吸血鬼だったって。
そして騎士様が二人を倒したって言ってたから、お礼に来たの」
「そっか、でも俺は今回何もしてないからね。
お礼ならあの二人に言ってあげてくれ」
「うん! 明日言うね!」
こう話している分には普通の女の子だな。
でもこの子が吸血鬼なんだよな……どうしたものか。
「ところでお兄ちゃんに一つお願いがあるんだけど……聞いてもらえる?」
「あぁ、俺に出来ることならね」
「あのね?私森で落とし物したみたいなの。
大事なものだから探しに行きたいんだけど、私一人で夜に探しに行くと怒られちゃうから、お兄ちゃんに着いて来てほしいなと思って……いい?」
これはチャンスか?
彼女が吸血鬼なら何らかのアクションを起こすだろう。
「分かった、一緒に行こうか」
「やった〜!」
俺はエルザと二人で森の中へと入って行った。
吸血鬼(仮)とのデートか……殺伐としそうだな。
森の中を少し歩くと、ちょっと開けた場所に出た。
そこでエルザは足を止め、俺を方を向き直った。
「ここ、私のお気に入りの場所なの!」
「そうなんだ?」
「うん、私とお兄ちゃんだけの秘密だよ?」
「あぁ、分かった。
ところでここに大事なものとやらを落としたのかい?」
「多分そうだと思うの……一緒に探して?」
「ここまで来たからね、見つけるために一肌脱ぐよ」
俺は一先ずしゃがんで地面を探すふりをした。
しばらく探していると、ふと背後に気配を感じ、振り返るとそこには俺の首筋に狙いを定め、大きく口を開いたエルザの姿があった。
やっぱりこの子が吸血鬼だったか……。
俺は一先ず横に転がって吸血行為を避けた。
「残念……あとちょっとだったのに」
「一応聞いておこうかな?
どういうことなのか……教えてくれるかい?」
「もう分かってるんでしょう?
私が吸血鬼だってこと……困るのよねぇ、私の餌場で暴れられると」
餌場か……話し合いで解決は無理そうだな。
でも一応提案だけはしておくか。
「アレクサンドルのグール化を解いてくれないか?」
「あぁ、あれのこと?
あれは私のせいじゃないわよ?
私が来た時にはもうグールだったもの」
「なんだって?!」
「あぁ、それで私の誘いに簡単に着いてきたのかぁ。
大方あの可愛らしい騎士様達を守るためってところかしら?」
「気付いてることもバレてたか……」
それにしてもこの子がグールにしたんじゃないとしたら……一体誰が?
おっと! あぶない。
「いきなり飛びかかってくるなんて淑女にあるまじき行為じゃないか?」
「いいのよ、ここにはあなたしかいないのだからッ!」
そう言い終わると再び、俺に飛びかかってくる。
避ける、来る、避ける、来る……それを何回か繰り返すと、エルザは大きく距離を取った。
「あなた……一体何者?」
「いたって普通の傭兵だよ?」
「普通の傭兵が吸血鬼の攻撃を余裕を持って回避できる訳ないじゃない!」
「じゃあちょっと異常な傭兵ってことで……。
さて、お前の攻撃は当たらない。
そろそろ俺のターンに移らせてもらおうか」
「くっ……でもまだ私の魔法は味わってないでしょう?」
そうだった! 吸血鬼は魔法が使えるんだった!
どんな魔法を使う気だ?!
「ふふふ、喰らいなさい!
’チャーム’!」
「うおっ!?………あれ?」
俺に向かってなんかピンク色の光が来たが、特に異常はない。
何がしたかったんだ?
「え?なんで!?’チャーム’’チャーム’’チャーム’!
ハァハァハァ……これでどう?!」
「………何がしたいんだ?」
「そんな……アンタもしかして女?」
「れっきとした男だ!!」
でもなんで効かないんだ?
……もしかして装備しているポケモンの性別か?
確かに今装備しているのはどっちもメスだけど……まさかそんな理由で?
俺が何故魅了の魔法が通じないのか考えていると、エルザはズーンという擬音がピッタリな表情で凹んでいた。
「動物相手だったら大丈夫だったのに……。」
「人に試したことなかったのか?」
「だってバレたら危ないじゃない!」
「お前もしかして……「そうよ! まだ生まれて50年も経ってない若輩者よ!」……そうか」
「人の血だって小さい頃にお父様とお母様のお零れしか貰ったことないし……一人立ちしてこの村で少しずつ眷属を増やそうと思ったら、既に他の吸血鬼が手を付けてるし!
気付けば騎士まで派遣されて、今はアンタと戦ってる!
私はどうすればいいのよ!」
俺に聞かれても……なぁ?
俺が戸惑っていると、第三者の声が森に響いた。
「これが同族とは……全く嫌になるな。」
「誰!?」「誰だ!」
「先ほどから見ていたが、エルザとか言ったな?
お前は私たち吸血鬼の恥だな。
人間に存在を知られることを恐怖し、今そこの人間に恐怖している。
見ていて不愉快だ」
誰だこいつ……そんなことより、俺が微塵も気配を感じなかった?
父さんの隠密行動でも多少は気配を感じるのに?
「さっきから言いたい放題言ってくれるわね……だからあんた誰よ!」
「貴様に名乗るのは気が進まないが、そこの人間には興味がある。
故に名乗ってやろう、私の名前はドラコ・ツェペシュ!
三百年の時を生きる吸血鬼だ!
ヘイと言ったな、貴様に私の配下に成る権利をやろう」
……いきなり何言いだすんだコイツ?
ツェペシュはヴラド・ツェペシュからとってます。
オリ敵出しましたが、そんなに長い間出すつもりはありません。
っていうか次回でサヨナラします。