第98話 今出せる全力の力
突然の勧誘に戸惑っている俺にかまわず、ドラコという吸血鬼は言葉を重ねていく。
「私の眷属たちは最近狩られてしまってな。
丁度使える人間を探していたのだ。
どうだ名誉なことだろう?」
「いや……何言ってんだお前?」
「……何?」
「嫌に決まってんだろうが、何処が名誉なんだよ」
「三百年もの時を重ねた最強種の吸血鬼に、その命尽きるまで仕えるのだぞ?
名誉なことではないか!」
俺は反応に困ったのでエルザの方を見ると、ドラコを怖がっているのか震えていた。
同族として恥ずかしいと言われて、悲しんでいるのかもしれない。
どちらにせよ、今はドラコの方が危険だな。
「配下云々にはあまり関係ないが、3つ聞いておきたい」
「なんだ?」
「アレクサンドルをグールにしたのはお前か?」
「アレクサンドル?……あぁあの体格だけデカイ男のことか。
グールになってもそれほど使えなかったので放置していたが、それがどうかしたか?」
「そうか、じゃあ次の質問。
森の辺りで人が血を吸い取られて死んでいたんだが、それはお前の仕業か?」
「小腹がすいてな。
全く美味くない血だったがな」
「そうか、じゃあ最後の質問だ。
彼のグール化を解く気はないか?」
「何故私がそんなことをしなければならん。
それに幾ら役立たずでも肉壁位には成るだろう?」
あぁ、コイツとは分かり合えそうにないな。
グール化は解けそうにないか。
いやそれ以前にコイツ……手加減できる相手じゃなさそうだな。
アレクサンドルの件は諦めるしかないか……タバサになんて言おうか。
「OK、分かった」
「そうか、なら貴様を私の眷属に「お前はここで消す」して……なんだと?」
「聞こえなかったか?
ここで、お前は、消す。
俺はそう言ったんだ」
ドラコは俺の言葉が想定外だったのか、目を見開いて茫然としている。
まぁ価値観が違いすぎるし、俺はグールになんかなりたくない。
「アンタ! 分かってんの?!
相手は三百年生きた吸血鬼なのよ?!
私と一緒だと思ったら大間違いなのよ?!」
「なんだ? 心配してんのか?」
「そんなんじゃないわよ!
アンタは私の眷属にする予定だったんだから、グールにする前に木っ端みじんにされたら困るじゃない!」
「……いや、お前の眷属になる気は微塵もないぞ?
アイツの眷属になる気もないが」
っていうかこいつ、こんなこと考えてたのか……ドサクサにまぎれて噛まれないように気を付けよう。
「はは……ははは……中々舐めたことを言ってくれるなぁ、人間」
「あぁ再起動したのか?」
「たかが人間風情が、この私を消す?
ははは……あまり私を怒らせるなよ?
最後のチャンスだ人間。
私の眷属に成れ」
さっきまでは気配が稀薄だったが、今は凄まじい殺気が俺の方に向けられている。
バジリスクの時に感じた獣じみたものではなく、俺を殺すという意思が凄まじいくらいに込められている。
恐らく断った瞬間に戦いが始まるだろう。
「答えは……NOだ」
「そうか、残念だ。
なら貴様が死んだ後、その死体を駒として使うことにしよう」
そう言ってドラコはエルザよりも数段速いスピードで、俺に接近して爪を振るってくる。
俺も伊達に鍛えている訳じゃないが……これは少しヤバいか?
一応今のところ当たっていないけど、このローブじゃなかったら服はズタボロだっただろう。
「ほぅ……貴様もまだ力を隠していたというわけか。
ますます貴様のことを欲しくなった」
「いや、気持ち悪いから勘弁してくれ」
「本当に残念だ」
俺は腹部に向かって放たれた抜き手をバックステップで避ける。
しかしそこで予想外のことが起きた。
「な?!……グッ!」
「人間は脆いなぁ……腹を貫かれただけで致命傷になるのだから!」
アイツ、抜き手の瞬間に爪だけ伸ばしやがった!
くっそ……すっげぇ痛ぇな。
取りあえず前蹴りで距離を取ったけど、このままだと出血死しちまう。
それにしても防御特化のポケモン二匹でも貫通するってドンだけ爪鋭いんだよ。
「貴様はもう動けまい……さて次は貴様だな?」
「え? 私?」
奴は俺から視線を外し、エルザへと向き直った。
どういうことだ?
「何で……私も吸血鬼なのよ?」
「貴様は吸血鬼ではない。
只の臆病者だ。
そんなものが我らの同族と思われると、困るのだよ。
人間が我らに向ける感情は恐怖でなければならない。
決して自分が上位と思わないほどの恐怖……貴様はそれを感じさせるだけの力も才能もない。
ならここで同族としての優しさを持って、引導を渡してやろう!」
「そ……そんな……嫌!」
エルザはドラコに背を向け走り出すが、速さで奴に勝てるはずもなく、あっけなく足を切り落とされてしまった。
走った勢いそのままに転がったエルザを、ドラコはまるでボールの様に蹴り飛ばす。
流石にこの光景は見ていてキツイものがあるな・・・・・・。
彼女とは先ほどまで命のやり取りした仲だが、見た目は可愛い人間の女の子に過ぎない。
「あぁスマナイ、貴様が小さくて手が滑ってしまった」
「アァァァァァ!!!!」
「しかし五月蠅いな……もう少し傷めつければ静かになるか?」
そう言って奴はエルザの頭を掴み、自分の眼前まで持ち上げた。
そして手を小さくふるうと、地面に白く小さな4本の指が落ちる。
また大きな悲鳴が響く。
その声が不快だと言い、また指を落とす。
なんだこの光景は……。
子供が壊されていく?
あぁ駄目だ、これは駄目だ。
不快だ、不愉快だ。
目の前の存在が不愉快だ。
ならどうする?……全開で叩き潰す。
俺は今まで人の眼と力の大きさを気にして、使ってこなかったものを使うことにした。
「(装備AIDA、こうてつ、セレビィ)‘じこさいせい’」
「なんだ?」
俺の声を聞いて奴がこっちを振り向く。
既に腹の傷は表面上塞がっている。
「……誰だ貴様?」
「さっきお前が腹に穴開けた奴だよ」
今俺の姿は髪の毛がセレビィの様に緑に成り、腕はギラティナを模した黄色と黒の鉄鋼の様なものに包まれ、ローブの下はメタグロスの特徴、胴体に×印が付いて青く染まっている。
「へ……イ?」
「正直助ける気は毛頭なかったんだけどな……やっぱり子供が壊されていくところは見たくない」
「幾ら貴様の姿が変わろうとも、人間には変わりなかろう!」
ドラコはエルザを投げ捨てて、俺に向け先ほどよりも早いスピードで爪を突き立てる。
奴は先ほどの様に俺が倒れると思い、笑みを浮かべている。
「やはり人間は所詮「で?」にん……げん?」
「今度はこっちの番でいいな?
‘アームハンマー’」
俺は今だ腹部に突き立てている奴の腕に拳を叩きつける。
すると何の抵抗もなくその腕は殴った部分だけが千切れ、物凄い勢いで地面に叩きつけられた。
「何?」
「あぁ済まない、手が滑ったんだ。
あまりに触れられていることが不愉快で、ついやっちまった」
「私の……腕が……私の腕、私の腕がーーーーーーーーー!!!!」
ドラコは自身の腕を押さえながら俺から距離を取った。
エルザも突然の展開に目を見開いている。
「人に見られると困るから、早めに終わらせるぞ」
「なん・・・・・・だと?」
「シャドーダイブ」
俺は沈むように自身の影に潜り移動を始めた。
「何処に行った!!」
「ここだよ」
「な?!」
奴の影から素早く出てきて、抜き手で奴の胸を貫いた。
意趣返しと言うわけではないが、少しだけスッとした。
「追撃だ、シャドークロー」
「ガハッ!」
俺はそのままドラコの胴体を影の爪でなぎ払って、上半身と下半身を分断した。
奴の息はまだあるようだが、念には念を入れることにする。
「‘かいふくふうじ’、そして……。」
「止めろ!私は三百年の時を生きた吸血「関係ないな」貴様!」
「じゃあな、‘サイコキネシス’」
サイコキネシスで奴の身体に圧力を加えて、磨り潰していく。
ギチギチと言う音と、時折聞こえるボキッという骨が折れる音。
しばらくするとそこには赤い血溜まりしか残っていなかった。
一応錬金でその場を元の状態に戻し、血は水で流した。
「これでやっと終わりか……あぁ痛かったな。
一応もう一回掛けておこう。
‘じこさいせい’」
これでダメージは消えた。
さて次はエルザをどうするか……。
俺は今だ状況が掴めずに、血溜まりがあったところをジッと見ているエルザを見ながら、これからのことを思った。
はい、ドラコしゅ〜りょ〜