第99話 無償の愛
ドラコを倒し、ポケモン三体の装備を外した俺は、もう一人の吸血鬼を前に非常に困っていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんな「いや、もういいから」ヒィ!」
こんな感じで怖がられ続けてます。
はぁ、どうしようか。
「取りあえず足と指持ってきたけど、自分で治せるか?」
「は、はい」
「じゃあホレ」
俺がエルザの眼の前に足と指を置くと、エルザは一回俺の顔を見てから足と指を自分の方に動かした。
じゃあ治している間に少し話しておくか。
「治しながらでいいから答えてくれ」
「はい」
「吸血鬼は人間の血を吸わなければ生きていけないのか?
っていうか人間の食事じゃ駄目なのか?」
「いいえ、でも人間の血は他の食べ物に比べて美味しいですね」
嗜好品ってことか……。
「そうか、では次の質問。
眷属を作ったことは?」
「まだ人間の眷属は作ったことない……」
「人間以外も眷属にできるのか」
「ヘイさんは……私を殺すの?」
それを考えているんだよ。
本人曰く人に危害を加えてないからな……まぁ俺は襲われたが。
でも一般人にとって吸血鬼の能力は危険すぎる。
やっぱり殺した方が良いんだろうか……。
そんな俺の考えを読みとったのか、身体が震え始めている。
「わ、私何でもしますから!
殺さないで!!」
「あ〜……じゃあ村長に話してから決めるか?」
「え……おじいちゃんに?」
正直今回エルザは任務対象外の可能性結構あるんだよな。
俺としても亜人と言う理由で迫害するのもなんかな……。
「今までお前がどれだけ猫かぶってたかを、想像することは難しくない」
「……」
「でも村長がお前に向けていた愛情は、曇りの無いものだったと俺は思う。
だからお前が吸血鬼であるということを村長に話して、おじいさんの対応次第で決めることにする」
「……どうせ、殺してくれって頼まれるからいいよ。
なら今殺して……貴方なら一気に殺す方法もあるんでしょ?」
エルザは俯いてそう呟いた。
「何でそう思う?
村長はお前に愛情を注いでいただろう」
「だって!……だって私吸血鬼じゃない!
直ぐ近くに捕食者がいる状況を許す人なんているわけないじゃない!」
「確かにそうかもしれない。
でもそれは話が通じない場合だ。
……お前が嫌がっているのは、村長に拒絶されることじゃないか?」
「ち、ちが………違わないのかもしれない。
おじいちゃんは、私のことを本当の孫の様に可愛がってくれた。
最初は何回も後ろから血を吸おうと思って近づいたんだけど、その度におじいちゃんはタイミング良く私の方を向いて、頭を撫でてくれた」
「(もしかして……)ならどっちにしても村長に会った方がいい。
きっとここで居なくなったら村長は死ぬまで心配し続けるだろう」
「……分かったわ。
でももしおじいちゃんが私の討伐を頼んだら、苦しくないようにしてね」
「………あぁ、分かった」
多分大丈夫だと思うけどな。
俺の予想が正しければの話だけど……。
「おじいちゃん……ただいま」
「おぉ! エルザ!
何処に行ってたんだ、こんな夜更けに!
心配したじゃないか」
「そ、それは……「そこから先は私が説明します」ヘイ」
「ヘイさん?
貴方も一緒だったのですか?」
「はい、でもそんなことより重要なお話があります。
吸血鬼は退治されました」
「え、えぇ。
そうですね、先ほどまで宴を開いていたくらいですからね」
「マゼンタさんとアレクサンドルのことですか?
あの二人は違います。
確かにアレクサンドルはグールでしたが、マゼンタさんは吸血鬼ではありませんでした」
「!?……そうだったのですか。
では吸血鬼は一体どこに?」
エルザはさっきから下を向き続けている。
吸血鬼と言う単語を聞くたびに肩を震わせながら……。
「森の中で先ほど出会いました。
苦戦はしましたが、なんとか倒せましたので、もう問題はないでしょう」
「そうですか、それは良かった!
大変なお仕事お疲れ様です……あぁ私としたことが、今何か飲み物でも「いえ、今は話を聞いてください」……」
「確かに俺は村人を襲っていた吸血鬼を倒しました。
ですがこの村にはもう一人吸血鬼がいます。」
俺の言葉を聞いて、村長の動きが止まった。
そしてドンドン顔が無表情になっていく。
これはやっぱり……。
「今回はその吸血鬼につい「エルザ! 逃げなさい!」……」
「おじいちゃん!?」
「ここは私がなんとかする!
だから早く逃げなさい!」
「やっぱり知っていらしたのですね……」
俺は村長に羽交い絞めにされながら、会話を続ける。
エルザはこの状況についてこれていない。
「エルザは……エルザは確かに吸血鬼かもしれない!
じゃがこの子は私の命だ!
その子を殺させるわけにはいかん!」
「お……おじいちゃん……」
「じゃあ今後も村長は、この子が吸血鬼であることを村人に隠し続けるんですね?」
「もちろんだ!
もしもバレたとしても、私の命を掛けてでも逃がして見せる!」
もうエルザは膝をついて、ただ泣き続けている。
これでエルザの処置は決まった。
「分かりました。
俺達は森で本当の吸血鬼を倒し、村には平穏が戻った。
そう言うことにしておきます」
「え?」
「おじいちゃん……私頑張るから!
他の人にバレない様に頑張るから!
だから……だからまた一緒に暮らしてくれますか……?」
「後は村長、貴方次第です」
「ヘイさん……分かりました」
村長は俺の顔をしっかりと見つめ、深く頷いた。
「エルザ……これから一層大変な生活に成るかもしれない。
それでも良かったら……また私と一緒に暮らしてくれないか?」
「うん……うん!」
ふぅこれで一件落着かな?
今回はキツイ一件だったなぁ。
あ、そういえばアレクサンドル今頃灰になってるんじゃ……。
後で大変なことになりそうだな。
まっ……でも一応ベストではないが、ベターなエンドだろう。
俺は抱き合っている二人を見ながらそんなことを考えていた。
次で吸血鬼編が終わる。
そして100話目になる。
……外伝案多くて迷うなぁ。