第100話 吸血鬼の少女
あの後シルフィードの部屋にアレクサンドルがどうなったか確認しに行くと、部屋にはタバサも来ていた。
「あ!レ……ヘイ!
アレクサンドルが!」
「あぁ、そのことについて話がある」
「……捕まえられなかった?」
「あぁ、予想以上に強くて捕まえる余裕がなかった」
後俺の精神状態的に。
やはりタバサは少し沈んでしまったか……。
「残念だったのね……ってヘイ!
お腹の部分に穴開いてるのね!」
「!?」
「あぁ、一回爪で貫かれてな……流石に死ぬかと思「大丈夫?!」った」
タバサが服の袖を握りながら聞いてくる。
心配してるのか?
「あぁ……もう治ってるしな。
でも出会ったのが、タバサやシルフィじゃなくて良かったよ。」
「……何で?」
「そうなのね! 私とお姉さまなら負けないのね!」
「三百年生きた吸血鬼が相手でもか?」
「「………」」
あ、黙った。
確かにあれともう一回戦えって言われたら遠慮したいな。
「流石に20年位の経験じゃ厳しかったよ」
「エルザってそんなお婆ちゃんだったのね、きゅいきゅい!」
「いや、エルザは違った。
俺が倒したのは森であった男の吸血鬼だ。
名前は確かドラコ・ツェペシュだったかな?」
「ドラコ……串刺しドラコ?!」
「有名だったのか?」
っていうか串刺しでツェペシュって……この世界に串刺し公とかいるのか?
「最近、村丸ごと眷属にしたドラコを討伐するため、一個中隊で向かったけど取り逃がした」
「アイツもそんなこと言ってたな……眷属に成れって誘われたし」
「……無謀」
「それは俺がか? それともドラコがか?」
「両方」「両方なのね」
「そりゃ手厳しいな。
なんにせよ、もうこの任務は終わったんだろ?
なら明日の朝一でこの村を出よう。
いい加減授業の準備をしないとヤバい」
「分かった」
翌日の朝。
俺は一人村長の家に居た。
「もうそろそろ俺は行きます」
「そうですか……残念です」
「あとマゼンタさんはどうするんですか?」
「昨日話したところ、親戚の家にお世話になると言って、朝日が昇りきる前に村を出ました……。
自 身が吸血鬼として疑われたこともショックだったようですが、それ以上にアレクサンドルがいなくなったのが村を出る理由だったみたいですね」
「そうですね、仲の良い親子のようでしたから……。
あぁ注意を一つ、エルザのことは話してませんが、バレたらまた騎士が派遣される可能性が高いです。
本当に気を付けてください」
「ヘイさん!」
「はい?」
「エルザのこと本当にありがとうございます!」
「いいえ、偶々ですから……」
本当に大事なんだな。
良かったじゃないかエルザ。
吸血鬼としては半端ものと馬鹿にされても、どんな時でも味方になってくれる人が一人出来たんだ。
それは誇るべきことだ。
「ヘイさん、もし私に何かあったら、あの子を頼みます」
「それは……多分厳しいです。
実は俺はガリア住まいではないのです。
故に直接的に力になることは難しいかもしれませんが、どうしても助けが必要なら黒の鉄球団を頼ってみてください。
彼らなら力を貸してくれるかもしれません」
「黒の鉄球団ですか……分かりました」
後でチャンに話しておかないとな。
流石に投げっぱなしは不味いだろうし……。
「おじいちゃん、誰か来てるの?」
「エルザ、ヘイさんがもうそろそろここを出るって、言いに来てくれたんだ」
「……もう行くの?」
「あぁ、村長と仲良くな?」
俺は小さく「後あの時のことは誰にも話さないでくれよ?」と彼女に耳打ちした。
言いふらすとは思えないが、装備のことは本当にバレたら不味いからな……念のため念のため。
エルザは少し俯き、悩んでから俺の顔見た。
「一つ条件があるわ……少ししゃがんでくれる?」
「なんだ? 俺の血を吸う気か?」
「あなた、私がそんな事しようとした瞬間に殺せるでしょ。
私も死にたくないもの、しないわよ。
ちょっとしたお礼をするだけよ」
お礼?
なんだ子供らしく花の首飾りでもくれるのか?
俺はそんな風に考えながら、しゃがんでエルザを見た。
「じゃあ目を瞑って」
「……本当に血を吸う気じゃないだろうな?」
「どれだけ信用ないのよ私は……いやまぁ当たり前なんだけど、少し位……。
良いから目を瞑る!!」
「はいはい」
「良いって言うまで目を開けちゃだめなんだからね!
すぅ〜はぁ〜……よし!」
何をする気やら……。
なんだ気配が近づいてきて、な!?
俺は頬に柔らかい感触を感じて目を見開いた。
偶々朝食の時下半分の仮面を外してたから……ってそれどころじゃない!
「い、命の危機を救ってくれたお礼なんだからね!」
「あ、あぁ」
「くすくす、エルザ? お顔が真っ赤だよ」
「おじいちゃん!」
俺は少し茫然としていたが、さっきされたことを思い出して、顔が一気に赤く染まる。
二人で顔を真っ赤にしている中、村長はずっと微笑んでいた。
「また……来なさいよ?」
「頻繁には来れないけど、ガリアに来た時は寄らせてもらうよ」
「後……何か困ったことがあったら、一回だけ助けてあげる」
「寧ろ俺が助ける側に成りそうだけどな。」
「良いから! 分かった?!」
「あぁ、分かったよ。
これから大変だろうけど……頑張れよ?」
「分かってる、この日常は壊さないわ。
折角拾った命だもの、大切にするわ」
「それなら良かった。
じゃあ、またな」
「……またね」
あの後俺はいつも通り黒の鉄球団が集まる酒場で、タバサとの待ち合わせの時間まで時間を潰した。
その時にチャンに亜人について、どんな感情を抱いているか聞いてみると「見た目が面白い人間」という素晴らしい回答を返してきた。
その回答を信じ、俺は「何時かここに亜人の子が来るかもしれないから、その時は匿ってやってくれ」と頼み込んだ。
チャンは少し悩んで「いい子なのか?」と聞いてきたから、俺は「あんないい子はそういないさ」とチャンの顔をジッと見てそう答えた。
結果「分かった。その時が来たら任せろ」と頼もしい答えが返ってきた。
これでエルザはきっと大丈夫だろう。
その後はいつも通りドンチャン騒ぎして、タバサと一緒に学院に帰った。
そう言えば最近ルイズ嬢と授業以外で会ってないな……よし今度の休日はルイズ嬢を誘って、何処かに出かけるかな。
次は外伝だ。
何書くかな……。
若干修正。