第101話 追跡する者される者
虚無の休日の前日。
夜、俺は久しぶりにルイズ嬢の部屋に居た。
「兄様、今日はどうしたの?」
「あぁ、明日予定入っているか聞きに来たんだけど……お邪魔だったかな?」
俺は視界の隅っこにサイトがボロ屑の様な状態で転がっているのを見て、苦笑した。
何をやったのやら……。
「明日? 特に予定はなかったけど……どうかしたの?」
「あぁ、ちょっと一緒に買い物に行かないかい?」
「何?! レッドさん……それはデートの誘いってやつか?!」
俺がルイズを買い物に誘った瞬間、いきなりサイトが復活して会話に乱入した。
流石ギャグ補正だな……。
「アンタは、話に入ってこなくていいの!!」
「あぁ、サイト君も来てほしいな。
君の剣を買いに行くのがメインなのだから」
「「え?!」」
「いざという時のために、武器は持っておいた方がいいよ?
それに見栄えもよくなるしね。
あぁそれからサイト君、君は文字の読み書きが出来ないんだったね?」
「あ、あぁ」
「文字の読み書きと貴族については勉強しておいた方がいい。
特に貴族に対する態度は、そのままルイズ嬢の評価としてみなされることもあるからね。
毎日授業が終わってから図書室で僕が教えよう」
「えぇ、面倒くさ「アンタ兄様の好意を無駄にする気?!」……分かったよ」
まぁ一から外国語習うようなもんだから大変だよな……俺も大変だったよ。
でも必要不可欠だからね。
頑張ってもらわないと。
「それじゃあ、明日の朝に外に馬を用意して待ってるよ?
じゃあお休みなさい」
「はい、お休みなさい」
「お休みなさい」
俺はそのままルイズの部屋を後にした。
明日のことを考えながら自分の部屋に向かう俺は、俺の姿を見ていた赤髪の女性に気付かずに……。
翌朝、馬を用意して待ち合わせの場所に向かうと、既に二人は来ていた。
「おはよう! 遅くなったかな?」
「いえ、今来たところです」
「あぁ、丁度今来たんだ」
タイミングは丁度良かったみたいだな。
一応三頭連れてきたけど……サイトって一人で馬乗れるよな?
「サイト君は馬乗れる?」
「……多分」
「まぁ、それほど遠いわけじゃないから大丈夫だと思うけど、どうしても無理と思ったら相乗りの形になるけど僕の馬に乗るといい」
「ありがとう!……正直言えば乗ったことなくてさ。
あんまり自信ないんだよ」
「そっか、でも馬は乗れた方がいいから、暇な時にでも練習しといたほうがいいよ?」
「そうするよ」
「サイト! 兄様早く行きましょ!」
「「分かった!」」
そうして俺達は町へと向かい始めた。
〜タバサ side〜
イーヴァルディ……カッコいい。
私はその日、もう擦り切れるくらい読んでいるイーヴァルディの勇者という本を、再び読み返していた。
虚無の休日は何時も読書か任務をしているから、ある意味習慣みたいなものになる。
そんないつも通りの休日に、今日はイレギュラーが現れた。
荒々しくドアがノックされている。
でもロックが掛かっているから入っては来れない。
だがノックは鳴り響いたまま……私は取りあえずサイレントを唱えて読書に戻った。
「続き……」
私が本に目を戻したのと、ほぼ同時に突然ロックが解除されドアが開いた。
こんなことをするのは唯一人しかいない……私は部屋に入り込んだ彼女に気付きながらも、本を読み続けた。
「………!!」
何か叫んでいるようだが、サイレントが掛かっているので何も聞こえない。
故に読書を続けようとしたが、本を奪い取られてしまった。
……彼女じゃなかったら‘丁重’にお帰りいただくところだ。
私は小さくため息をつくと、サイレントを解除した。
「タバサ!!」
「……何?」
「風竜を貸して!!」
「……何で?」
「ダーリンとルイズが出かけたのよ!
きっとデートよ?!
追いかけないと!!」
「……頑張って?
私は読書」
そう言って本を取り返そうとするが、彼女は本を頭よりも上に持ち上げている。
ジャンプしてみたが、届かない。
何でこんな意地悪をするんだろう?
「そんなに睨まないでよ……でも二人を追いかけたいのよ!
あ……二人じゃなくて、もう一人男の人がいたわね。
遠くて見えなかったけど……」
「もう一人?」
ルイズと仲の良い男子は数が限られている。
と言うよりもいないに等しい。
ギーシュは普通に接しているが、系統魔法を使えず、コモン以外の魔法は全て爆発する彼女に近づきたがる男子はいない。
でもギーシュはこの間、虚無の休日にモンモランシと遠乗りすると、朝の訓練の時にレッドに話してた。
なら誰?
「昨日の夜レッドがルイズの部屋に居たみたいだから、レッドだと思うわ」
「………」
レッドが、ルイズと町に?
何故だろう……モヤモヤする。
私はキュルケから本を奪い取り、しおりを挟んで閉じる。
そして杖を持つと、窓を開けてシルフィを呼んだ。
「きゅいきゅい(どうしたのね?)」
「タバサも気になるのね……。
でもダーリンは譲らないわよ?」
「いらない。
シルフィ、馬三頭を追って……食べちゃ駄目」
「きゅい! (食べないのね!!)」
「待ってなさいよルイズ、ダーリン!
今微熱のキュルケがそこに行くからね!」
……久しぶりにレッドの体験談の続きを聞こう。
最近暇が無かったので続きを聞く機会がなかったレッドの昔話を聞くことを目的に、シルフィに乗って三人を追いかけた。
でも……さっきのモヤモヤはなんだったんだろう?