第103話 盗賊の狙い
あの後はキュルケがルイズに隠れて剣を買ったり、ケーキ屋で皆で喋ったりした。
そして学園に帰ってくると、もう夜になっていた。
「もうすっかり遅くなってしまったね」
「タバサがあんなに御代りするから!」
「……美味しかった」
ケーキ屋でタバサはビックリするほど食べた。
フードファイター顔負けに食べた。
かなりカカオが効いていて苦かったのだが……。
「そう言えばダーリン! 貴方剣持ってなかったわよね?」
「え? いや、今日ルイズに買ってもらった剣があるんだけど……」
「あんなボロボロの剣よりも、こっちの剣を使った方がいいわ!」
そう言ってキュルケは店主曰く、有名な鍛冶屋のシュペーという人が打ったという大剣をサイトに手渡した。
明らかに装飾が多いその剣を見て、デルフが喋り出す。
「そんなの剣じゃねぇ。
インテリアだ!」
「何よ?」
「確かにこの剣は、戦うために作られたものじゃないみたいだ」
デルフだけじゃなくサイトにも駄目だしされ、剣を薦めたキュルケは店主への恨みごとを呟き始める。
タバサはそんな親友の姿を華麗にスルーして、普通に本を読んでいた。
「何を読んでいるんだい?」
「口調……」
「……学院ではこのままだよ」
「そう」
「で、何の本を読んでいるんだい?」
俺がそう聞くと、彼女は背表紙を俺の方に向けてくれた。
そこに書いてある文字は「イーヴァルディの勇者」。
この世界における有名な英雄譚だ。
「面白いかい?」
「とても」
普段のタバサを見ていると、もっと硬い本を読んでいる印象があるんだけどな……。
気付けばサイトがぐるぐる巻きにされて、建物に吊るされていた。
あれ……この展開知っている気がする。
「シルフィ、彼が落ちそうになったら助けて」
「きゅい!(分かったのね!)」
「何であんな状況に?」
「あの剣を受け取るかどうかで二人が勝負する。
彼を繋いでいるロープを切った方が勝ち」
普通に考えて狂気の所業なんだけど……。
まぁシルフィが助けるなら大丈夫だろう。
それにしても……なんだっけか。
忘れたままっていうのも気持ち悪いので記憶を掘り起こしていると、突如爆発音が聞こえてきた。
「幾ら爆発の二つ名を持っていても、こういったことには向いてない様ね!」
「うるさいわね!」
「私なら外さない。
ファイアーボール!」
キュルケが放った火の玉は見事にサイトを繋いでいたロープを焼き切り、サイトはノーロープバンジーをする羽目になった。
まぁシルフィがキャッチしたわけだけど……。
「私の勝ちね。 ダーリンにはこの剣を貰ってもらうわ」
「直ぐに捨てなさい! 主命令よ!」
「貰うくらいいいじゃねぇか。
そんなことより死ぬかと思ったぁ……レッドも止めてくれよ!」
あぁ一応サイトに、プライベートでは呼び捨てをさせることにした。
なんかさん付けとか苦手みたいだったしね。
「いや、見てなかったので……」
「マジかよ……」
見事に凹んでしまったサイトだが、俺はさっきからずっと原作を思い出そうとしているので、余り頭に入っていない。
既にこの世界に来てから十九年経った。
流石に記憶も薄れてきている。
偶に記憶を掘り起こしているんだけど、それでも思い出せない部分も少なくない。
「何を悩んでいるの?」
「いや……何でもないんだ」
「……」
タバサは深くは聞いてこない。
しかし心配そうに見てくるので、俺も困る。
そんな時地響きと共にゴーレムが俺達の前に現れた。
そうか! ここがフーケ編の最初だったか!!
「何なのアレ?!」
「デカい……逃げるぞルイズ!」
「レッドどうするの?!」
タバサ以外の皆が一斉に慌てだす。
そりゃそうだよな……目の前に出てきたのは10メートル級のゴーレム。
俺とタバサがいればなんとか出来るけど……俺の場合あまり火力があるタイプじゃないし、相性が微妙なところだ。
水で斬り倒すのはいい手なんだが、すぐ直されてしまうだろう。
土系魔法では刺し貫いても、それを吸収されたら状況は悪化する。
あのサイズで限界なら良いんだけど、確かフーケはトライアングルメイジ。
なら20メートル以上のゴーレムも作れるはずだ。
ならば結構な回数壊さなければ……。
「レッド、考え事なら後にして!」
「あ、あぁ。 取りあえずルイズとサイト君は他の先生を呼んできてくれ!
僕とキュルケ、タバサ嬢はあのゴーレムを止める」
「私も残る!」
「いや……ルイズ嬢の爆発は、まだ精度に難があるようだからね」
「そうよ、ここは私たちが何とかしておくから、早く他の先生を呼んできなさい!」
「………分かったわよ! 行くわよサイト!」
「お、おぅ!」
二人は急いで、学院に走って行った。
今ゴーレムは宝物庫に大穴を開けて、その穴を守る様に立っている。
動いてないってことは、中にフーケが入ったか?
「取りあえず僕があのゴーレムの足を止める。
だから二人は追撃してくれ」
「「分かった(わ)」」
「よし、ボトムレス・アース!」
俺はゴーレムの真下に底なし沼を作り出して行動を制限する。
ゴーレムは自らの重さで勢い良く沈んでいく。
腰のあたりまで埋まったが、これを解くと土に戻ってしまうために気を抜くことはできない。
「今ね、フレイム・ボール!」
「ウィンディ・アイシクル」
二人の魔法は見事ゴーレムの上半身を半壊させたが、直ぐ元に戻ってしまった。
どうする? 正直ゴーレムを幾ら倒してもすぐに直されてしまう。
やっぱり術者を倒すのがベストなんだけど……。
「駄目ね……」
「……」
「やっぱり術者を直接叩かないと駄目か」
俺がそう言うのとほぼ同時に、宝物庫から人影が出てきてゴーレムの方を向いた。
一瞬動きが止まったが、フーケはゴーレムを分解して先程よりも小さめのゴーレムを作り、それに乗って走り去った。
正直に言えば追っても良かったんだけど、相手は手錬の土のトライアングルメイジ。
父さんを相手にするぐらいの気迫で行かなければならない……。
故に俺は見送ることにした。
恐らく明日、フーケを捕らえに行く人を募るはずだ。
それについていくことにしよう。
今回の借りは、そこで返す。