第104話 盗賊討伐隊
翌朝、俺と昨日あの場に居た四人は学院長室に呼び出されていた。
学院長室に入ると、学院の教師が全員揃っており、一斉に俺達に目を向けた。
「話は分かっておるじゃろうが、昨日の話じゃ
昨晩お主達が見た泥棒の正体は、土くれのフーケと言う怪盗じゃ」
「土くれのフーケ?」
「アンタは知らなくてもしょうがないわね」
「土くれのフーケ……土のトライアングルクラスで貴族から高く売れそうなものを盗んでいく」
「そうなのか」
フーケのことを知らないサイトへの説明も終わったところで、キュルケが疑問に思ったことを質問する。
「何で犯人がフーケだと?」
「それは本人が書き置きを残していったからのぅ」
「「「は?」」」
「宝物庫の壁に‘破壊の杖を頂戴しました 土くれのフーケ’と書かれていたから分かったんじゃよ」
なんでフーケはそんなことするんだろう?
普通に盗むだけの方が明らかにいいと思うんだが。
俺がそんなことを考えていると、その場にいたギトーが口を開いた。
「現場に居ながらそんな賊を取り逃すなんて……レッド先生は一体何をしていたんですかねぇ?」
「それは……すみませんでした
捕まえようとはしたのですが、逃げられてしまいました」
「謝って済むことなんですか?
破壊の杖と言えば学院長が恩人から戴いた大切なもの
それをみすみす盗まれてしまうなど、言語道断!
学院長、彼に処罰を!」
ギトーは学院長に詰め寄ると、俺への処罰を提案した。
他の先生達は我関せずを貫いている。
一人の先生を除いて……。
「それはあんまりじゃないでしょうか?」
「コルベール……先生」
「確かにレッド先生は、目の前で破壊の杖を盗まれてしまいました
でも土くれのフーケは土のトライアングル
それも凄腕だ」
「……それがどうかしましたか?」
「レッド先生もトライアングルですが、フーケの方が場数は踏んでいる
なら情状酌量の余地はあるんじゃないですか?」
「しかし!」
「それに!!
昨晩の見回り担当は誰でしたかな?」
「クッ!」
あぁそう言えばギトーだったか。
結構皆サボるからな……俺はちゃんと回ってるよ?
ギトーは勢いを削がれたのか、そのまま引きさがっていった。
変わりにシュヴルーズ先生が前に出てきた。
「オールド・オスマン
王宮に報告しないのでしょうか?」
「それは……出来ん」
「何故?!」
「ではなんて説明するんじゃ?
貴族の子息たちのいるこの学院にトライアングルクラスの賊が入り込み、マジックアイテムを強奪したと報告するのか?」
そんな報告をすれば子息たちの親から賠償請求されるだけでなく、王宮から責任を取らされるかもしれない。
そのことに思い至った教師陣は揃って顔を青くした。
「幸いここには優秀なメイジが揃っておる。
誰か、我こそが土くれを捕まえて見せるという気概を持った者はいないか?!」
学院長はそう言って周りを見渡すが、教師陣の顔色は優れない。
それはそうだろう……ここに居る教師の殆どは実戦経験があるわけじゃない。
ましてや高位メイジ相手の戦いなんて早々経験するものではない。
教師の中でトライアングルクラスは俺とシュヴルーズ先生、コルベール先生。
スクウェアはギトーと学院長だけ。
「ミス・シュヴルーズ、お主はどうじゃ?」
「わ、私ですか?!
いえ、私は攻撃魔法をそれほど得意としてませんし……コルベール先生こそどうですか?!」
「……戦いはちょっと」
「そうか……じゃあミスタ・ギトー、お主は?」
「私なら土くれ如き一ひねりでしょう!」
「おぉ! なら「ですが」む?」
「たまたま杖を新調している最中でして……いやぁ本当に残念だ」
うわぁ……そんな言い訳で断るなよ。
っていうかお前が予備の杖持ってるの知ってるんだぞ?
俺がギトーに呆れの顔で視線を送っていると、ギトーはふと俺の方を見てニヤリと笑った。
「私は無理ですが、レッド先生ならいいんじゃないですか?
彼なら昨晩の汚名を返上することもできますし、丁度いいじゃないですか!」
「僕ですか……」
教師の視線が俺に集まる。
そして学院長も少し考え込んで、俺に向かって一回頷いた。
これは……断れない空気だな。
断る気はなかったけど、ギトーに言われたのが微妙に嫌だ。
「分かりました僕が「ちょっと待ってください!」?」
「私も行きます!」
俺の言葉を遮ったのはルイズ嬢だった。
顔には決意の色が見える。
「危険じゃぞ?
それでも行きたいと言うのか?」
「ハイ! それに兄様もいますから!」
「俺も行くぞ! レッドには借りがあるからな」
「ダーリンが行くなら私も行くわ!」
続々と旅の道連れが増えて行く。
そしてタバサも自身の杖を上げた。
「ミス・タバサ、お主もか?」
「……心配」
彼女はキュルケの方を見てそう呟いた。
順調に仲良くなってるんだな……良かった。
「学院長! 危険すぎます!
幾らレッド君がトライアングルメイジとはいえ「待つのじゃ、コルベール君」……」
「確かに生徒を危険な目に会わせるのは心苦しい
じゃが生徒を信じるのもまた教師の役目じゃろう
それに……」
「それに?」
学院長は俺達を順に見て言った。
「ミス・ヴァリエールは爆発の名を冠する、攻撃に特化したメイジ
その使い魔の彼は、ラインメイジを単身倒した剣士
ミス・ツェルプストーは火のトライアングル
ミス・タバサは風と水のトライアングルであり、シュバリエの称号も持っている」
「タバサあんたそんなの持ってたの?!」
「……シュバリエってなんだ?」
「そんなことも知らないの?」
ルイズはサイトにシュバリエについて説明している。
まぁ現代日本にそんなもの居ないしな。
「た、確かに彼らなら大丈夫かもしれませんが、肝心なフーケの居場所が分からないではないですか!」
コルベール先生がそう言うのとほぼ同時に、学院長室の扉が勢いよく開かれた。
そうして入ってきたのはロングビルさんだった。
「ミス・ロングビル?!」
「すみません、怪盗の情報を集めていたら遅れてしまって……でも手掛かりはありました
怪しい人影が森の方へ向かった、という情報を手に入れることが出来ましたから!」
こうして俺達は破壊の杖奪還へと向かうことになった。