第107話 タバサとの最後の任務
学院に戻ってきた俺達は、報告のために一先ず学院長室に向かうことにした。
「おぉ皆無事の様じゃな……ん? ミス・ロングビルの姿が見えないが?」
「それについても含めて今から説明させてもらいます」
俺は森での出来事を説明していった。
破壊の杖を手に入れたこと、ゴーレムと戦ったこと……そしてロングビルがフーケだったこと。
最初は無言で聞いていた学院長だったが、フーケの正体について話した時は流石に目を見開いて驚いていた。
「そうじゃったか……ロングビルが……」
「そう言えば酒場で働いているところをスカウトしたと聞きましたが、何故スカウトを?」
「それは尻を触っても怒らな……ゲフンゲフン。
生活が厳しいからもっといい仕事が欲しい、と呟いておるのを聞いてのぅ」
……本音漏れてたぞエロ爺。
まぁ後半も理由の一つだろうけど、前半が駄目すぎる。
俺以外の皆も冷めた目で学院長を見ている。
学院長もその視線に気付いて、慌てて話題を変える。
「お、お主達に褒美を与えなければならんの!
取りあえずミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストーにはシュバリエの称号を戴けるようにしておこう。
ミス・タバサは既にシュバリエの称号を持っておるので、別に何か用意しておこうかの」
「ありがとうございます……あれ? サイトと兄様は?」
「レッド君は給金のアップ、サイト君は………スマン何も用意しておらんのじゃ。」
「そんな!?」
流石にそれはどうかな……。
でもきっと何かしらの褒美を出すんだろう。
「いや、俺は別にいらねぇよ。
でも代わりと言っちゃなんだけど、この破壊の杖について聞かせてくれないか?」
「良いじゃろう、他の者たちはこれにて解散。
夜にあるフリッグの舞踏会の準備をすると良いじゃろう」
サイトを一人残し俺達は自室へと戻っていった。
いや……もう一人を除いて。
部屋に帰ってきた俺はローブを脱いで、一旦部屋着に着替えた。
するとドアをノックする音が聞こえた。
「はい、開いてますよ」
「失礼します」
「タバサ?」
俺の部屋に入ってきたのは、さっきまで一緒に居たタバサだった。
何の用だろう?
「どうしたんだ?
何処か怪我でもしたのか?」
「違う」
「じゃあどうしたんだ?」
「任務」
いや、俺にそれを言ってどうする。
まさかとは思うが……
「何で俺にその事を?」
「………着いて来てほしい」
やっぱりか、でもいつもはシルフィが強引に連れて行こうとするのにどうしたんだ?
すると俺の考えていることが分かったのか、少し申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。
「いつもごめんなさい……」
「……」
「貴方の協力でとても助かっている……レッドが自分の存在を他者に知られたくないのは分かってる。
任務を手伝ってくれるのは今回が最後でいい……だから今回は手伝ってほしい」
「……何でそこまで俺の手を借りたい?」
「……今回は違法カジノの調査、男女のペアの方が疑われにくい」
「今回で最後なのか?」
「……(コク)」
はぁ……まぁ良いか。
今回は戦闘とかなさそうだしな。
「分かったよ……で何時行くんだ?」
「今夜」
「今夜!? それは……急だな。
ってことは舞踏会の途中で抜けるのか」
「ごめんなさい」
「あぁ、受けたからにはしょうがないさ。
それに踊る相手もいないだろうしな」
ルイズの相手はサイトがするだろうし……なんか少し気になるけど。
「わた……」
「わた?」
「何でもない」
「そっか?……じゃあ要件はそれで終わりかな?
それじゃそろそろ舞踏会の準備しないと間に合わないぞ?」
「……分かった」
「じゃあ後でな」
「また」
俺はタバサを見送って、自身の用意を始めた。
「取りあえず舞踏会用の服を久しぶりに出すとしますか!
それに一応あの装備も持って行った方がいいかな……いや、かさ張るからいいか。
でも仮面だけは持っていこう」
そろそろ時間か……そうだ、舞踏会で肉を少し拝借してシルフィにあげるとしよう。
あの子は参加できないだろうからな。
〜タバサ side〜
私はさっき何を言おうとしたの?
「私がいる?」
何でそんなことを言おうと思ったのだろう?
私はどうしたんだろう?
そんな疑問が私の頭の中を埋め尽くしていく。
でも今夜には任務がある。
こんな心理状況では失敗してしまうかもしれない。
それは許されない……この事については後で考えることにしよう。
「舞踏会の料理……楽しみ」
「私もなのね、きゅいきゅい!」
「あなたはお留守番」
「何でなのね?!」
「竜が舞踏会に出るのは駄目」
「なんなのね!
竜差別なのね!
私は断固抗議するのね!」
シルフィは不貞腐れてしまった。
どうもこの子は少し子供っぽい部分が目立つ。
今回の任務では気をつけないと……疑われるのは今回の任務では一番気をつけなければならないことだ。
「お肉持ってきてあげる」
「ホント?!
やったのね!! るーるー。
レッドにも分けてあげるのね!」
「……何でここで彼の名前が出てくるの?」
「レッドと一緒にご飯の食べると、胸が暖かくなるのね!」
何故か……少し感情が乱れた。
取り合えず持ってくるお肉にハシバミ草を乗せて食べさせよう。