第108話 二人のフロイライン
フーケを捕らえた夜、俺はフリッグの舞踏会に出ていた。
まぁ当たり前だが俺だけじゃなく、生徒達、そして一緒に破壊の杖を取り換えしに行ったメンバーも一緒だ。
既に舞踏会は始まっており、俺とタバサはこの後楽しい楽しいお出かけなので、夕食を食べる暇がないためここでひたすら料理を食べている。
「タバサ嬢、ちょっとそこの肉取ってくれないか?」
「もきゅもきゅ……ん」
「ありがとう」
なんか凄い勢いでハシバミ草が無くなっていくな……。
俺は最初に少し分けて貰ったし、この苦みを好む人はそう多くはないために、それ程問題はない。
そんな会話も少なく、黙々と夕食を食べていると少し会場がザワザワしてきた。
「なんだ?」
「誰か来た」
「ヴァリエール公爵の息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・プラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな〜り〜!」
何度聞いても長いな……それにしてもずいぶん綺麗になったな。
俺が時の経過を感じつつ、ルイズ嬢を見ていると足に衝撃がやってきた。
「……痛いんだけど?」
「きっと気のせい」
「いや、僕の足の上にタバサ嬢の踵が……」
「気のせい」
ツボツボ付けてるからそこまで痛くないけど……何でいきなり?
俺は首を傾げながら再び料理に集中した。
しばらくすると再び会場が賑わってきたようだ。
「ルイズ嬢とサイト君か……」
「目立ってる」
先ほど会場の視線を一気に集めた彼女が、使い魔とは言え平民と踊る姿は生徒たちの度肝を抜いた。
何処からか「おでれぇた」という声が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
俺は知らず知らずの内に拳を軽く握っていた。
この感情は娘は嫁にやらん的な感情なのか、それとも……。
俺が自分の感情を持て余していると、タバサが俺の袖を軽く引っ張り俺の視線はタバサへと向いた。
するとそこには一礼したタバサの姿があった。
「踊ってくださいませんか?」
「……僕とですか?」
「……嫌?」
俺がサイトを見て羨ましがっていると思ったのかな?
俺はそんな彼女の気遣いに、小さく微笑み一礼を返した。
「いえ、滅相もない。
今宵壁の花に成りつつある僕に声を掛けていただき、ありがとうございます。
もしよろしければ僕と踊っていただけませんか?」
「……私が誘った」
「こういうときは男が誘うものかなと思ってね」
「……そう」
俺は小さな彼女の手を握り、隅の方で小さく舞踏会を楽しんだ。
二人とも決して上手とは言えないが、基礎は出来ているために無難なものになった。
でも久しぶりのダンスは楽しかった。
音楽が一旦止みパートナーを変えるタイミングになると、俺とタバサは互いに一礼して、俺は少し笑い、タバサは恥しくなったのか赤い顔を少し顔を背ける。
「食事に戻る」
「僕は少し会場を回ってくるよ」
「後一時間で任務に向かう」
そう呟いて彼女はテーブルに早足で戻っていった。
俺は小さくありがとうと呟いて会場を回り始める。
生徒たちはかなり楽しんでいるようで、ギーシュはモンモランシとダンスを踊り続けているようだ。
因みにギーシュの表情は至高の喜びを顔で表現している。
キュルケは相変わらずとっかえひっかえ男子と踊っているようだ。
今はサイトと踊っているようで、周囲の男子の視線がヤバいことになっている。
そしてルイズ嬢は……今俺の眼の前に居る。
「こんばんわ兄様」
「こんばんわルイズ嬢」
「兄様は何時までも私を呼び捨てにしてくれませんね……少し寂しいです」
「この呼び方で慣れてしまったからね」
「何時かルイズと呼んでもらいたいです」
「……頑張ってみるよ」
「で、兄様?
目の前に美少女がいて、ここは舞踏会。
何かやることがあるのじゃなくって?」
やること……あぁあったな!
「綺麗になったね、ルイズ嬢」
「な!?
そ、そうじゃないわよ!
………嬉しいけど」
違うのか……あぁそっかダンスに誘えってことか?
そういえば昔は誕生日会のたびに部屋で踊ってたな。
なんか踊っている途中でカトレアさんが乱入してきたりしたけど……。
「ではレディ、一曲踊っていただけませんか?」
「喜んで」
ゆったりとした曲に合わせて、俺達は流れるように足を動かす。
「ねぇ兄様」
「なんだい?」
「兄様猫かぶってるでしょ?」
「……何のことかな?」
キュルケ辺りが口滑らしたか?
「何でキュルケの前では出して、私の前だと猫を被るの?!」
「僕は猫を被らないと、口が少し荒くて貴族っぽくないからね。
ルイズ嬢の前で素の口調じゃないのは、昔からこの口調だったからかな?」
「でも!」
「でも、そうだね……少しずつ治していくことにするか。
それで勘弁してくれないか?」
「……分かったわよ」
俺が嘘を言っていないと分かってくれたのか、渋々引き下がってくれた。
でもテンションは下がってしまったようだ。
「それにしても、さっきは会場の視線を一人占めだったな」
「さっき?……あ?!」
「いやぁ……まるで物語の様だったよ」
「ち、違うの!
さっきのは今回サイトが頑張ったからご褒美に踊ってあげただけで!」
「平民の剣士と公爵家の御令嬢……滅多にない組み合わせだから周りの生徒達も目を疑っていたよ」
「だから違うの!」
その後必死になって弁解しようとしているルイズ嬢と、俺は曲が終わるまで踊り続けた。
でも何であんなに必死だったんだろう?