第109話 大人の遊技場
舞踏会の途中で俺とタバサが会場から静かに抜けだしてシルフィと合流すると、彼女は目に見えて不機嫌だった。
「二人ともズルいのね!
二人だけ美味しいものお腹一杯食べて!」
「貴方は竜」
「やっぱり竜差別なのね!
断固としてこの扱いの改善を求めるのね!」
まぁ気持ちも分からなくもないかな?
俺達は華やかな場所で暖かい飯を食ってたけど、シルフィは外で使い魔用のご飯。
そりゃ怒るわな。
因みにアイガは人用の飯が口に合わないから大丈夫だ。
「まぁ落ち着けって、ほら料理持ってきてあげたからさ」
「私も持ってきた」
「そ、そんなもので許したりなんか………まぁ折角だから食べるけど!」
俺とタバサは持ってきた料理をシルフィの眼前に置き、彼女の食事を見守る。
しばらくして綺麗に食べ終わると、彼女は大きく羽を広げて背中に乗るように目配せする。
それに従い仮面を付けた俺と、タバサはシルフィの背中に乗って目的地へと飛び立った。
飛び始めて少し経つと、タバサが今回の任務について話し始めた。
「今回私はド・サリヴァン伯爵の次女、マルグリッドと名乗る」
「レッドはヘイ、私はシルフィとしてお姉さまの従者としていくのね」
「了解。 所で今回は何でカジノの調査なんて?」
「支配人のギルモアが、貴族からイカサマでお金を巻き上げている。
その証拠を探すことが今回の目的」
「それは……直接的な戦闘と言うよりも、頭脳戦に近いな。
俺はあんまり役に立てないかもしれないぞ?」
「大丈夫、貴方の動体視力に期待している」
期待に応えられるか自信ないなぁ。
いや……もしかしたら‘みやぶる’が役に立つか?
もし単純なテクニックなら頑張って自分の眼で見破るしかないけど、もし幻術の類なら見破るでどうにかなるはずだ。
「期待を裏切らないように頑張るよ」
目的地がある街の手前で俺達は降りて、シルフィは人型に成る。
毎回人型に成るときは裸なので、俺は基本後ろを向く。
でも最近シルフィが悪戯心か何か知らないが、その状態で俺の背中に抱きついてくることがあるんだよ。
背中にたわわに実った……いや思い出すのは止そう。
何故かタバサの視線が痛いしな。
シルフィが着替えを終えると俺達はカジノ目指して歩を進め始めた。
「で、今回の目的地は何処に」
「あそこ」
「え?」
タバサが指さした先は……宝石店だった。
どういうことか理解できていない俺は、そのままドンドン進んでいくタバサに置いて行かれないように、足を早める。
店内を見ても、そこは普通の宝石店だ。
「いらっしゃいませお客様、本日は何を御所望でしょうか?」
「これ」
「……お客様、これは売り物ではないのです」
「でもこれ」
「もしお買い上げに成る場合は、二千万エキューに成りますが?」
「買う」
「では手付き金を戴きます」
「これ」
俺は状況についていけてないが、タバサは銅貨を三枚を出す。
いや、少ないんじゃ……と声に出そうと思ったが、店員はそれを受け取った。
「確かに……ではこちらへ」
店員は関係者以外立ち入り禁止のドアを開け、地下への階段を下りて行く。
階段を下りて行くとドアがあり、そこにはドアマンが立っていた。
「メイジの方は杖をお預かりします。
そちらの従者の方の剣も一緒にお預かりします」
「「分かった」」
これは非合法っぽいなぁ。
入るための合言葉、地下、武装の解除。
まさか自分がこんなところに来ることになるとは思いもしなかったな。
「確かに、それでは地下の社交場‘天国’にようこそ!」
ドアマンはそう言ってドアを開いた。
天国か……勝つ人にとっては天国だろうな。
だが負けた人にとっては地獄だろう。
非合法という位だ、レートがヤバいやつもあるんだろうし。
そこで負けたら破産するかもしれない。
「これはお客様方、この度はようこそおいで下さりました。
私は当カジノの支配人、ギルモアと申します」
「私はド・サリヴァン伯爵の次女、マルグリッド。
後ろの二人は私の従者」
「ヘイと申します」
「シルフィなのね」
「マルグリッド様ですね、このカジノは初めてですか?」
「初めて」
「では私が自ら説明させていただきます。」
そこから始まったのは延々と要らない話。
ここがいつできたか、どんな有名な人が来たか、そしてここが合法であるということを何度も言っていたと思う。
俺は殆ど聞き流してた。
シルフィに至ってはもうちょっとで寝るところだったよ。
「あぁ、話が長くなってしまいましたね。
それでは楽しんでいってください」
「ありがとう」
「いえいえ、それでは良い夜を」
そう言い残し支配人は去っていった。
さてここからが本番だ。
「マルグリッド様、どれをやりますか?」
「サイコロ。
貴方達は別のをやっていてもいい」
「了解しました」「わかったのね」
俺とシルフィはタバサから少し離れ、何をやるか探すふりをした。
「シルフィ、マルグリッド様が見える位置で不自然にならないようにギャンブルをしよう」
「分かってるのね」
「じゃあ俺はあっちの方にいる」
「じゃあ私はこっちに居るのね」
「何かあったらマルグリッド様の所に集合でいいな」
「良いのね」
俺達はそう言ってバラけた。
シルフィが向かった先はルーレット。
俺の向かった先はカード。
あんまりギャンブルに集中しないようにしないとな。
それにしても……タバサは、どうやってギルモアの尻尾を掴むつもりなんだろうか?