第110話 賭け事
タバサ達と別れてから少し経った。
一応タバサが見える位置にいるが、特に進展はないようだ。
……まぁなんかチップの束は順調に増えてる様だけど。
因みに俺は今ポーカーをやっている。
「(今のところワンペアだな、少し勝負に出てみるか?)二枚チェンジ」
ディーラーは顔色を変えずに俺にカードを二枚寄こした。
流石はプロだな。
俺は渡されたカードをゆっくりと捲った。
「どうなさいますか?」
「そうだな……勝負しよう」
「分かりました」
そう言って手札をオープンした。
彼の役はツーペア。
俺の役は………フラッシュだ。
「おめでとうございます。
お続けになられますか?」
「いや、ここら辺で止めておくよ」
一応持ち金倍になったからね。
シルフィがどうなってるかも、気になるしな。
俺はカードの台を離れると、シルフィがいるルーレットの台へと向かった。
「またハズレ?!」
俺の進行方向から、そんな声が聞こえてきたのは気のせいかな?
若干行きたくなくなってきた……でも一旦合流したいしな。
「シルフィ、どうしたんだ?」
「あ、ヘイ!
聞いて欲しいのね!」
「あ、あぁ」
「赤か黒に毎回賭けてるんだけど、全く当たらないのね!
もうお姉さまから貰ったお小遣い無くなっちゃうのね!」
そう言ってもう残り三枚しかないチップを俺に見せる。
……一体どれだけ負けたんだ?
っていうかほぼ二分の一の確率で当たるはずなんだが?
なんにせよ一回この場から離すか。
「シルフィ、一旦話がしたいからここから離れよう」
「でもヘイ!」
「後で肉奢ってやるから!」
「………本当なのね?
嘘だったら今日の夜一緒に寝てもらうのね!」
「な!? こんなところでなんてことを言うんだ?!」
周囲の眼が痛い……男性からは「モゲロ」とでも言いたそうな視線、女性からは「あらあら程々にね」的な視線。
俺は視線に耐えきれずに、シルフィの手を掴んでその場を急いで離れた。
「この間はなんだか有耶無耶になっちゃったから、今回は逃がさないのね!」
「いや、だから今はそれどころじゃないだろ?!
任務に集中しろよ?
一応俺はマルグリッド様を見ていて、特に変わったところが見えなかった」
「私も気になるところは、なかったのね」
「だよなぁ」
「取りあえずお姉さまと合流するのね、きゅいきゅい!」
「そうだな」
俺達はタバサに合流するために、サイコロの台へと向かった。
俺達がタバサの元に着くと、遠くからでは分からなかったチップの全容が分かった。
……すげぇ勝ってるな。
ディーラーの顔引き攣ってるぞ?
「マルグリッド様」
「ヘイ、シルフィ?
まだ楽しんでてもいい」
「いえ、私たちはもう十分遊ばせてもらいました」
実際普通に楽しかったし……。
シルフィは少し膨れてるけど、特に文句は言わなかった。
タバサはそれを聞いて少し俯いたが、直ぐに顔を上げた。
「そう、じゃあ帰る」
「え?」
帰る?
いや任務は?
俺の考えてることが分かったのか、タバサは俺の方を向いて小さく頷く。
いや……分かんないんだけど?
タバサは自分が稼いだチップをディーラーに渡して言った。
「チップを現金に換えて」
するとディーラーはチップを持って何処かに走って行った。
しばらくそこに居ると、ディーラーが戻ってくる。
人を一人連れて……。
「これはこれはマルグリッド様。
随分と大きく勝たれましたね?」
「支配人」
「ですがもうお帰りになられるのですか?」
「もう十分楽しんだ」
「そうですか……ですがもう少し遊んでいかれませんか?
私ども取っておきの台を用意しましたので」
とっておき?
もしかしてこれがタバサの狙いか?!
「とっておき?」
「えぇ!
取っておきも取っておき、他の台とは比べ物にならない位レートが高い台です!」
「……面白そう」
「そう言っていただけると思っていました!
それでは私は用意してきますので、もう少ししたら来る私の従者に案内してもらってください」
「分かった」
「それでは少々お待ちください」
そう言ってギルモアはその場から立ち去った。
俺は小声でタバサに尋ねる。
「これが目的で、帰る芝居を?」
「(コクリ)」
「そうですか……少し驚きましたよ」
俺がそう言うとタバサは小さく笑い、直ぐにいつも通りの顔に戻った。
珍しい表情が見れて、少し得した気分になったな。
でもそんなほのぼのとした空気は、ギルモアの従者が来るまでの短い時間だけだった……。
「初めましてマルグリッド様、私が案内させていただくトマと………シャルロットお嬢様?」
「……トーマス」
誰だこの人?
なんかタバサの知り合いっぽいけど。
「大きく……なられましたね」
「トーマスも」
「ははは、私も歳を取りましたからね。
所で後ろのお二人は……」
「二人は従者」
「そうですか、二人はシャルロットお嬢様のことを?」
「……知らない。
それに今の私はタバサ」
「そうですか……。
ではタバサ様と従者の御二方、私の後に着いて来てください」
一応知ってるんだけどね、タバサ改めシャルロットのこと。
その事をタバサは知らないだろうけど。
取りあえず彼は執事かなんかだったのかな?
まぁ俺はイカサマ見破らなきゃいけないから、今は任務のことに集中しておこう。