第11話 転生者の決意
風竜との遭遇の翌日。
俺は父の部屋へと向かっていた。
いくらあの時が初めての実戦であったとしても、あれは不甲斐なさすぎる。
母さんからの扱きを受けてはいるものの、あれはあくまで魔法と回避の訓練にすぎないし、そこに死の危険性は無い。
明確な死が目の前に来た時、俺は2度何もできなかった。
前世での火事、そして今回の竜。
「父さん……僕強くなりたい」
「いきなりどうした?」
俺は確かに面倒事は嫌だし、死ぬのも怖い。
でも身近な人が死ぬのも嫌だ。
ならば最低限身近な人を守るだけの力を、とっさに動ける判断力が必要だ。
ならばどうする……鍛えるしかない。
俺は大きな危険を避けるため、小さな危険に立ち向かう決心をした。
ごめん父さん、少し嘘をつきます。
「僕は昨日の動物が死んでいるのを見て、すごく悲しかった。
確かに食べるために、身を守るためにその動物は殺されたのかもしれない。
でもあの動物がもし僕の友達だったら?
父さんや母さんだったら?
僕はそんなの耐えられそうにない」
俺の偽りない気持ちを父さんに伝えると、父さんは真剣な顔をして俺を見ている。
この厳しい目は、まるで俺の決意を試しているようだ。
ならば決して目をそらすことはできない!
「僕は!! 領地でのんびり暮らしたい!!
動物と戯れ、領に住んでる人と触れあい、静かに暮らしたい!」
「……」
「でもそのためには、もしもの時自分と周りを守れる強さ……最低でもみんなを逃がして、自分も逃げられるだけの力が必要なんだ!!」
「……」
「だから僕を鍛えてください! お願いします!」
俺はそう言って父さんに深く頭を下げた。
1秒、2秒、3秒と無音の時間が続く。
そして父さんは言った。
「途中で投げ出すことは許さんぞ? いいのか?」
「はい!」
「痛くて、苦しい思いもするかも知れない……それでもか?」
「はい!」
「そうか」
父さんは立ちあがり後ろを向いた。
駄目か……なんとか自主練習で補うしかないのか?
「明日……」
「え?」
「明日からだ」
「ということは……父さん!!!」
「俺は母さんよりも厳しいからな?」
「はい!!」
こうして魔法以外にも戦闘の心得や模擬戦をすることになった。
俺の日常は、こうして非日常へとまた一歩進んでしまった。
魔法練習、父さんの訓練、森でのポケモン召喚装備練習(と実験)のローテーションで俺の毎日は組まれていた。
正直キツイが、若い苦労は買ってでもしろっていう位だから頑張ろう。
目指せ将来の‘のんびりライフ’!!
翌日
父さんは、まず殺気と恐怖に打ち勝つことから始めると言い出した。
徐に腰に下げていた剣を抜き放ち、いきなり俺に切りかかった。
とっさに目を瞑ってしまった俺は、いつまでも感じない痛みに疑問を抱いて目を開けると、腰を抜かした。
剣の切っ先が俺の額から1センチ位の位置にあったからだ。
父さんは特に怒りもせずに一度剣を収めた。
「恐怖を感じるのはしょうがないが、目をつぶってはいけない。
状況は常に動いている。
目を瞑るだけでは剣は引かないし、剣を避けることもできない。
お前は守りたいんだろう?
ならば目を開いて、状況を確認して、最善の行動を選べるように考えなさい」
そうだ……俺はもう目の前で知り合いが死ぬのを見たくない。
全てを守るなんて大それたことは言わないけれど、身近な人だけでも守れる強さを手に入れないと!!
「これから俺はお前に何度も切りかかる。
お前は逃げなさい。
ひたすら逃げなさい。
逃げながらどうやってこの状況を覆すか思考しなさい」
父さんはそう言って数を数え始めた。
これは10数えたら来るってことなのか?
上等!!
逃げ切って見せる、母さんに鍛えられた自慢の足で!
俺は走った。
一歩でも遠くに、そして隠れて様子を窺うつもりだった。
10数え終わった父さんはゆっくりと目を開け、俺のいる方へとを向け走ってきた。
速い!! それに何で俺の居場所が?!
「レッド、いくら俺が目を瞑っていても足音は聞こえてきた。
お前は飛んで逃げるべきだったんだ。
まずそこが一つ目のミス」
「(怖い……これは本当に父さんなのか?)」
「二つ目は、子供が行く足が速くても10秒じゃあそう遠くまで行くことはできない。
遮蔽物が少ないここでは、自然と隠れる場所は限られてくる。
お前は逃げ続けなければならなかった」
「(ヤバい! 父さんはもうそこまで来ている早く逃げなくちゃ!!)」
俺がその場から逃げだそうとした時後ろに気配を感じた。
「3つ目。
お前は俺を甘く見過ぎだ!」
首筋に手刀を受け、俺はあっけなく意識を失った。
しばらくして目が覚めると、父さんの部屋のソファーで俺は寝ていた。
「ようやく起きたか?
加減を間違えたかと心配したぞ。」
「父さん……ごめんなさい。」
「ん? 何がだ?」
「父さんの期待に応えられなくて……」
そう俺が言うと父さんは、一瞬キョトンとして、大きく笑い声を上げ始めた。
「はっはっはっはっ!! 当たり前だろう!
お前死の恐怖に打ち勝つなんて大人でも難しいことだ。
それをまだ子供のお前がいきなり出来たらそれこそ驚きだぞ?
それにお前の今回の行動は悪い点ばかりでもない。
実際遮蔽物が多い場所なら隠れることも有効だし、お前の足の速さには俺も少し驚いた」
父さんは本当に楽しそうに笑っていた。
さっきまであんなに怖かったのに……そうかあれが殺気ってやつなのか。
流石に前世では感じることが無かったから分からなかったけど、あれがそうなのか?
「お前はまだ若い。
ゆっくり成長して行け。
今は父さんと母さんが守ってやる。
だから早く強くなって父さんたちを守れるようになってくれよ?」
「はい!」
こうして父さんの初戦闘訓練は幕を閉じた。
ふぅ1日3話はハードだよ……
他の作者さんに比べて一話一話が短いのに、こんな大変だなんて……
凄いな皆さん。