第111話 イカサマ
トマに案内されて、俺達はカジノの奥へと足を進めて行く。
俺はその途中、歩きながらイカサマを見破るための策を実行する。
‘みやぶる’を覚えたモルフォンの装備だ。
レベル的に見た目に変化はない。
まぁどっちにしてもレベルの高い虫ポケモンを装備した場合は目が複眼になることが多いので、仮面付けてるなら大丈夫なんだけどね。
「トマはお姉さまを知っているのね?」
「えぇ、お嬢様が小さな頃お世話をさせていただきました」
「そうなの……なんでギルモアの所で働いてるのね?」
「昔ちょっと色々あって、お嬢様の下から御暇を戴くことになってしまったので、行き場もなく困っていたところをギルモア様に拾われて、それ以来仕えております」
……命の恩人か。
それは、厄介な楔だな。
トーマスさんは未だにシャルロットに仕えたいという思いは捨てていない。
でも命の恩人を放っておくわけにもいかない。
しかも主の悪事を止めることも出来ない……辛い立場に居るな。
でも、ギルモアを守ろうとするなら任務の障害になるだろう。
タバサは大丈夫だろうか?
「ここでギルモア様が御待ちです」
「分かった」
そう言ってトーマスは、目の前にある大きなドアを開いた。
するとそこには大きめの台が三台有り、既に二台は埋まっている。
「おかしいじゃないか!!
何でそっちの役ばかり凄い役が揃うんだ!?
イカサマじゃないのか?!」
「お客様、それは言いがかりと言うものですよ?」
「イカサマされて黙ってられるか!
金を、金を返せ!!」
突如始まった騒動に周囲は少し驚いているが、誰も止める気はないようだ。
だが俺の横に前に立っていたトーマスは違った。
「お客様、天国での暴動は困ります」
「何が天国だ!
地獄の間違いじゃないか!」
客はそう言ってトーマスに掴みかかろうとしたが、軽やかに避けられて首筋にナイフを突き付けられて硬直した。
……結構早いな。
「お客様……暴れられては困ります
私は暴力は嫌いなのですが、ギルモア様に迷惑を掛けられるのであれば……」
「わ、分かった!」
客は急いで自分の荷物を引っ掴んで、部屋を出て行く。
そんな彼と入れ違うようにギルモアが部屋に入ってきた。
「さぁ皆様、気を取り直して楽しんでください!」
「ギルモア様」
「遅くなってしまって申し訳ありませんね。
色々と用意があったもので……」
用意?
俺がそう疑問に思ってると、ギルモア自身がこちら側から見て、台の向かい側に立った。
「さぁマルグリッド様、高レートのギャンブルを始めましょう。
賭け金に上限はなし、ゲームはポーカー、チェンジは一度のみ。
何か質問はありますか?」
「特にない」
「あぁ、念のためイカサマ等が無いように、この中が見えない箱の中からカードを引いてもらいます」
いや、怪しすぎるだろこの箱。
でも中を調べさせろっていうと逃げられるか、追い出されるだろう。
取りあえずは様子見だな。
「今マルグリッド様のチップは1200エキュー。
一先ず一回目は400エキューから行きましょうか」
「……分かった」
400エキューって平民の年収の3倍以上なんだけど……。
っていうかタバサそんなに稼いでたのか?!
俺が驚いている間に、タバサは五枚のカードを引いた。
手札はワンペア……しかも他のカードは数字もマークもバラバラ。
「三枚チェンジ」
「ほぅ、では私は一枚です」
三枚を捨て札置きに置くと、新たに三枚引く。
恐らくタバサの狙いはスリーカード、中々勇気のある決断だな。
そしてその賭けは……。
「ではオープン、私はツーペア」
「スリーカード」
「おぉ、素晴らしいですね!
では賭け金をマルグリッド様のチップに足させていただきます」
なんとか勝ったか……いや別に勝つ必要ないんだけどね?
これでタバサのチップは1600エキューになった。
その後も順調にタバサは勝ち、2500エキューまでチップは増えた。
「いやぁ、お強いですね!
ではここら辺でレートを上げてはどうでしょう?」
「構わない」
「では次のレートは……1200エキューで」
「1200!?」
いやいや、レート高すぎるから!!
周りの客もビックリしてるぞ?
「分かった」
「そうですか!
いやぁ、きっとマルグリッド様ならお受け戴けると思いましたよ」
こうして馬鹿みたいにレート高い賭けが始まった。
俺とシルフィは互いに目配せして、イカサマが行われないかジッと箱を見続けた。
タバサがカードを引く……特に何もない。
次はギルモアのも番だ。
「?……ヘイ、あの箱から何か声が聞こえるのね。」
「声? 俺には聞こえないぞ?」
「小さかったけど確かに聞こえたのね、きゅいきゅい!」
「分かった分かった……やっぱり俺には聞こえないな。
なぁシルフィ、その声はなんて言ってるんだ?」
「良く聞こえないけど、下のカード取ってとか言ってるかな……」
それはイカサマやってる誰かの声だろうなぁ……でもあの箱の中に入れる人なんて人じゃありえない。
一応‘みやぶる’使ってみるか?
「‘みやぶる’」
「ヘイ、何を言っているのね?」
「良いから少し黙っててくれ」
俺の眼に映っていた箱の外側がドンドン透けてくる。
最終的に俺の眼に映っていたのは、小さなイタチの様な生き物が四匹、カードの前に並んでいる姿だった。