第112話 恩と過去
あれはイタチか?
いや、普通のイタチは自分の姿を変えることなんてできない。
妖怪じゃあるまいし……ん?
あぁ! 幻獣か!?
「シルフィ、良くやった!」
「なんなのね?」
「イカサマの種が分かったぞ!」
「ホント?!」
「あぁ、どうやらあの箱は、エコーが変身してるみたいだ。
さっきギルモアがカードを引く時に、エコーがカードを渡してたのを見た」
「見たって……どうやって?」
「それは秘密」
シルフィは微妙に不思議そうにしてたけど、鼻をピクピクさせて臭いを嗅いでいるようだ。
目を瞑り、嗅覚に全神経を集中しているかのような雰囲気で……。
「微かに、本当に微かにだけど獣の匂いがするのね。」
「これで信じてもらえたか?」
「もちろんなのね!
じゃあ早速お姉さまに「ちょっと待て」どうしたのね?」
「このまま直接言っても逃げられるかもしれない。
だから俺はもし逃げてきた時のために出口を見張る」
「分かったのね」
シルフィはタバサにエコーのことを耳打ちすると、俺に一度視線を向けて首を縦に振った。
俺はそれを確認して出口へと向かう。
宝石屋が入り口で、出口は裏路地。
本当に非合法っぽいなぁ。
「それにしてもエコー可愛かったなぁ」
久しぶりにポケモンと戯れたい。
そう言えば前に召還した時俺自身はミロカロスと遊べなかったからな……夏休みに湖で一緒に遊ぼう。
そんな考え事をしていると、カジノが騒がしくなってきた。
「おっと、俺の仕事有るかな?」
俺は一応指輪型魔法発動体でスリープクラウドを唱え、出口のドアのすぐ横に配置しておいた。
何度見ても綿飴みたいだな……今度綿飴作ってみようかな?
あぁまた思考が逸れた。
するとバンッと勢い良くドアが開きギルモアとトーマスが飛び出してきた。
「糞! あの小娘……いずれこの借りは「いやいやそれは八つ当たりじゃないですか」!?」
「今まで貴族相手に腐るほど稼いできたんでしょ?」
「き、貴様はヘイとか言うあの小娘の従者!」
「ギルモア様少し下がってください!」
「トマさんか……貴方はそれでいいのか?」
「何を言っている!
トマ! 早くアイツを始末しろ!」
「……分かりました」
ギルモアの命令を聞いて、トマは表情を一瞬歪めたが、懐からナイフを取り出した。
凄い忠誠心だな……それが今回に関しては良くない結果を出してしまっているが。
「お嬢様には申し訳ないですが、ヘイさんには死んで貰います」
「俺を、そのナイフで?」
「そのつもりですが?」
「ふぅ……まぁ取りあえず捕縛対象は沈黙させますよ」
「どういうことですか?」
俺は扉の横に待機させてたスリープクラウドで、ギルモアの頭を包みこんだ。
すると一瞬で意識を失い、地面に倒れ込んだ。
「ギルモア様!?」
「さぁどうする?
今アンタに取れる選択肢は二つ。
一つ目……二人が来るまでに俺を倒して、そいつを背負って逃げる」
俺は指を一本立ててそう言った。
この間にもトーマスは隙あらば俺に向かってナイフを投げるか、飛びかかってくるだろう。
「二つ目……ここで大人しくそいつを明け渡す。
さぁアンタはどっちを選ぶ?
考える時間はあまりないよ?」
この問いを聞いてもナイフを下げないということは……戦闘か?
さぁてと、だとすると殺すのは避けたいなぁ。
「OK、一つ目を選ぶのな?」
「例え悪事をなされていようと、ギルモア様は私の命の恩人ですから……」
「損する性格だよアンタ」
もう話すことはなさそうだ。
トーマスのナイフを握る手に、力が入り始めているのが分かる。
「それでは……私の手品堪能してください!」
「手品?」
そう言ってトーマスは、俺に向けてナイフを投擲した。
手品っていうことはなんか有るんだろうなと思いながらも、取りあえずナイフの横っ腹を拳で叩いて弾き飛ばす。
しかしそこで彼がなぜ手品と称したのかを理解した。
「ナイフの後ろにナイフか……良い手だな。
でもこの位じゃ「大丈夫ですよね」?!」
ナイフに注意を割かれていたのか?!
いやそれだけじゃない!
姿勢を低くして、俺の視線から逃れたのか?!
トーマスは、既に俺の懐に入り込んでいた。
「さようならです、ヘイさん」
俺の胸元にナイフが突き立てられる……前に左腕を盾にした。
流石にツボツボを装備していても、二センチくらい刃が刺さってしまった。
俺は痛みを堪えながら、無事な右腕で相手の胸倉をつかんだ。
「痛いだろうが!!」
「な!?……ガハッ!」
俺は胸倉を掴んだままトーマスを思いっきり引っ張って、その勢いのまま背中に背負って、地面に叩きつけた。
ちょっと変則の背負い投げ、この世界には柔道なんてないからな……受け身も取れないだろう。
「カヒュ……ヒュ……カヒュ」
「流石に石畳に背負いはヤバかったかな?
でも死にはしないから勘弁な?」
気絶しながらも呼吸が微妙におかしいトーマスに謝りつつ、腕に刺さるナイフに目を向ける。
俺は刺さっているナイフを引っこ抜いて、痛みに顔を歪めながらユンゲラーを装備して、‘じこさいせい’をした。
あのローブ着てればナイフ刺さらなかったのになぁ。
「ギルモア待つのね!
………アレ? 何でここで寝てるのね?」
「ヘイ」
「できればもう少し早く来てほしかった!」
思わず口に出た不満を彼女たちにぶつけながら、俺は錬金で服を直して二人に近づいて行った。