第113話 優しい約束
遅れてきたタバサとシルフィは、手際よく二人を拘束した。
まぁギルモアは未だ寝てるし、トーマスは気絶している。
「何でこんなに遅れたんだ?」
「煙幕」
「簡潔すぎるけど把握した
でもシルフィの嗅覚は?」
「食べ物の匂いが強すぎて、当てにならなかった」
「だから謝ってるのに……るーるー」
まぁ過ぎたことだしな……。
これで任務達成だけど、タバサの視線がトーマスから離れない。
「仲良かったのか?」
「……友達」
「そっか」
友達だったのか……。
俺はタバサの頭に手を置き、軽く撫でる。
「……捕らえるのはギルモアだけでいいんだぞ?」
「どっちにしても貴族の恨みを買ってる。
平民の彼には逃げ切れない」
「お気遣い……ありがとう……ございます」
「もう意識が戻ったのか?!」
「いえ……直ぐにでも意識を失いそう……ですよ」
顔色は青く、呼吸も今だ不規則だ。
本当に今意識を保っているのが不思議な位だよ。
「お嬢様……御見苦しいところをお見せしてしまいましたね」
「………」
「ギルモア様を御止出来なかったのは……一重に私に度胸がなかった故のこと」
「貴方の所為じゃない」
「違うのです!
私が早い段階で止めていれば……。
私は……私は臆病者なのです。
シャルル様が亡くなり、夫人が御心を病んでしまった時に貴方様の傍から離れたのは、己が身の可愛さ故でした。
ジョゼフ王を恐れ、友と呼んでくださった貴方を見捨てて逃げたのです!」
難しいところだな。
確かに逃げたのかもしれない。
でも自身の命が最も大切なのは普通のことなんじゃないか?
「……」
「幻滅したでしょう……だから私はもう貴方の友を名乗る資格が「手品」え?」
「貴方は手品がとても上手だった」
「唯一の取り柄でしたからね……」
「私はまだ……タネを見抜いてない」
「何を……「だから」」
「だから何時か……何時かまた見せてほしい」
「………」
納得しないか……なら発破掛けるか。
タバサのためだからな!
トーマス、あんたのためじゃないからな!
「トーマスさん、アンタは友達の願いを聞いてあげないのか?」
「ヘイさん……」
「それにアンタは後悔してるんだろ?
過去の自分の行動を悔やんでいるんだろ?」
「……はい」
「ならそれを繰り返さなければいい。
間違いなんて誰だってやるさ。
問題はそれをやった後に、相手に謝れるかどうかだ!」
「謝れるかどうか……」
「アンタは自分が悪い。
だから許されないと自己完結しているが、まだタバサに謝ってない……。
それともアンタは、自分が悲劇の主人公にでもなったつもりか?
だから謝らないのか?」
「違う! 私はシャルロット様に……シャルロット様に謝りたい!」
「トーマス」
「あの時、逃げてしまって……すみませんでした」
「……許さない」
うぉ?! マジか?!
逆効果だったのか!?
「そう……ですよね、むしが良すぎま「トマが今回の罪を償った時」……」
「私に手品を見せに来たら許す」
「お嬢様……」
「幸い今回は首謀者はアンタじゃない。
決して水に流せるものではないけど、そこまでキツい罰はないだろう。
アンタの得意っていう手品、俺も気になるから見せてくれると嬉しいな!」
「ヘイさん……ありがとうございます」
この後直ぐトーマスは意識を失った。
俺達は二人を衛兵に引き渡して、シルフィで城の方へ向かう。
「タバサ……いやシャルロットだったな」
「……人には話さないで欲しい」
「分かってるよ」
会話が止まってしまったな。
やっぱりトーマスのこと気にしてんのかな?
そんなこと考えていると、前に座ってたタバサが俺の方に体を傾けた。
丁度頭の位置が胸の辺りにある。
「どうした?」
「……少しこのままで」
「……了解」
俺はタバサが落ちないように後ろから手をまわして、頭に顎を乗っけた。
「トーマスの手品楽しみだな」
「……とても」
俺達はそのまましばらくの間シルフィの上でくっ付いていた。
俺はあの後いつも通り、タバサが報告しにいっている間、チャン達に会いに来ていた。
予想外の相手がいたが……。
「レッド!」
「エルザ?! 何でここに居るんだ?!」
「おじいちゃんと一緒に、何時か世話になるかもしれないって人達に会いに来たんだけど……あの人達本当に大丈夫なの?」
エルザは、なんか隅っこの方でブツブツ言っている厳ついオッサン……チャンを指さしている。
「えっと、アイツがどうかしたか?」
「あの人、私がここに入ってきた瞬間にあそこに走って行って、ずっとあぁしてるの」
「他の人は話しかけてこなかったのか?」
俺は周囲を見渡して、団員達を見たんだが……物凄い勢いで首を横に振っている。
事情を聴くべくチョイに話しかける。
「で、これはどういう状況なんだ?」
「チャンの好みを前話したでヤンしょ?
あの子がチャンのストライクゾーンだっただけでヤンス」
「エルザが……ストライクゾーン?
……犯罪じゃないか?」
「……言わない約束でヤンス」
「他の団員がエルザに話しかけない理由は?」
「チャンに殴られると思ってるかなんかでヤンしょ?」
「……あり得るな」
理由は分かったけど、結局チャンは何をブツブツ言ってんだ?
そっと近付いてみると、段々その内容が明確に聞こえてきた。
「可愛すぎじゃねぇか、オイ。
天使か? 天使なのか?
いや、でも前にヘイが言ってた亜人ってあの子のことか?
あの子を保護……オイオイこのむさ苦しい酒場が天国になっちまうじゃねぇか!
ヘイに感謝しなけりゃならねぇな……いや待てよ?
あの子が入ってきた瞬間に言ったのは‘ヘイは居る?’だったな……アイツまさかあの天使に手を出したのか?!
もしそうだったら如何にアイツでも許さねぇ!
いや……アイツに限ってそんなことはしないだろう」
……聞かなかったことにしよう。
取りあえずエルザをこっちに近づけちゃ駄目だな。
チャンのためにも……。
一旦チャンのことは置いておいて、俺はエルザと話すことにした。
「エ、エルザ、どうだ元気だったか?」
「何をいきなり言いだすのよ。
……元気よ」
「村長と一緒に来たって言ってたけど、村長は何処に?」
「知り合いの家に行ってるみたい。
多分もう少ししたら来ると思うけど」
「そっか……」
「じゃあ次は私が質問する番ね?」
「え? あ、あぁ何でも聞いてくれ」
正直チャンの方に注意が行かなければ問題ない!
「店主に聞いたんだけど、ヘイって滅多にここに来ないんだね」
「そうだな……」
「じゃあ今日は何でここに?」
「ちょっと友人の付き添いでな」
「……女?」
「あ〜……一応な」
「ふ〜ん」
おぉ、何か寒くないか?
いきなり寒くなってきたような気がするぞ。
「ヘイの友人がどんな人か気になるな〜」
「背はエルザよりちょっと大きい位かな?
無口で偶に小動物みたいな感じがする子だよ。
ハッキリ言えばタバサなんだけど……ってエルザ?」
「……ながら」
「ん? 良く聞こえなかったんだけど……」
俺はエルザに耳を近づける。
「私と言うものがありながら!!!」
「ウオッ!?」
「アンタが村を出るとき勇気を出してキスまでしたのに!」
「ちょっと!? それを今言うと「ヘイ?」……ヤバいな」
後ろに凄い圧力を感じる。
振り向きたくない……すげぇ振り向きたくない。
でも……俺は振り向かずには居られなかった。
「チャ……チャン。
まず俺の話を聞いてくれ!
あれはお礼だってエルザも言ってたし、そう言う意味じゃ「ほぉ」」
「酷い! 私恥ずかしいの我慢してしたのに!」
「エルザ!? お前顔が笑ってるんだけど?!」
「ヘイ……俺はお前を信じてたんだ。
だがお前は俺の信頼を裏切ったな?」
何か団員達が店の外に出て行くんだけど?
アレ……チャンがドンドン近づいてくるよ?
エルザ、お前声出さないで笑うなよ……声出してくれればチャンが落ち着くかもしれないのに!
「なぁヘイ……ちょっと裏路地に来いよ。
久しぶりにキレちまったぜ」
「嫌だーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「待てやテメェーーーーーーーーーーーーー!!!」
それから俺がチャンを宥めるまで1時間掛かった……。