第115話 姫と獅子身中の虫
今日は使い魔品評会があるが……あのアンリエッタ姫が来る日でもある。
姫様が来ると生徒たちも浮足立っているようだ。
今はアンリエッタ姫が来ると言っていた時間に近づいているので、生徒たちは今か今かと校門に目を向けている。
「兄様も姫様が気になるの?」
「ん? いや、忙しくなりそうだなって思ってね。
そう言えば今日の品評会は大丈夫かい?」
「……多分」
俺にとっては姫様云々よりも、生徒が使い魔品評会でどんな事をしてくれるのかという方が気になる。
特にシルフィ、サイトの二人には凄く期待している。
「そう言えば兄様は品評会で何をしたの?」
「気になる」
「タバサ?!」「タバサ嬢……何時の間に」
「アイガは何をしたの?」
「まぁ隠すことはないからね。
僕とアイガがやったのは、空中に投げた的を射抜いただけだよ」
「それだけ?
兄様のことだからもっと凄いことやったと思ったのに……」
ルイズは少し拍子抜けした様だ。
でもタバサはまだ俺の方をジッと見ている。
「タバサ?」
「……何個?」
「何のことだい?」
「射抜いた的の数」
「あ!」
ルイズは恐らく一個だけだと思ったんだろう。
まぁ枚数は言わなかったからしょうがないんだけどね。
「七個だよ」
「七……それは同時?」
「そうだよ」
「……凄い」
タバサはアイガの力を模擬戦で見ているからな……。
七個の対象を同時狙撃出来るっていうことが、どんな意味を持つのか分かったのだろう。
やろうと思えば竜の体さえ貫通する石の弾丸が、七発同時に精密射撃出来ると思えばタバサの驚きも分からなくない。
ルイズはあんまり理解してないみたいだけど……。
「タバサ嬢はどんなことをやる予定なんだい?」
「秘密」
「そっか……じゃあ本番を楽しみにしているよ」
「頑張る」
そうして話していると周りが騒がしくなってきた。
どうやら姫が乗ってる馬車が校門についたらしい。
「どうやらおいでなさったみたいだね」
「……なんかそう言われると、来てほしくなかったみたいに聞こえるわ」
まぁ、来てほしくなかったからね。
でも確かルイズは姫と友達だったはず。
流石に来てほしくなかったとは言えないな。
「来て欲しくなかったわけじゃないけど、僕はそこまで姫様に傾倒してないからね」
「そうなの?」
「まぁね」
俺たちはジッと校門を見つめた。
馬車から次々と人が降りてくる。
馬車の周りにはグリフォンが数頭いて、周囲を警戒している。
「あそこにいるのはグリフォン隊かな?」
「そうみたい」
「先頭に居るのが隊長みたいだね……」
アイツがワルドか……髭で長髪の見た目渋い男。
その実レコンキスタに所属しているスクウェアメイジで、近接戦闘も出来る。
流石にルイズのお母さん程じゃないだろうけど……敵対するならそれなりに準備が必要だな。
「あ! 姫様が降りてきたわ!」
「あぁそのようだね」
見た目可愛いけど、常に厄介事が後をついてくるアンリエッタ姫。
関わり合いになりたくない。
あ、今ルイズを見て手を振った。
ルイズも笑顔で手を振り返しているな。
俺はそっとその場から離れた。
無事品評会も終わり、俺は部屋で授業資料を整理しながら今後のことを考えていた。
姫が来たってことは、ルイズ達のアルビオン行きは近い。
でも気になることが一つある。
ワルドだ。
原作ではワルドはルイズの許婚という立場だったが、今は違う。
この事がどんなイレギュラーを招くか分からない。
メインメンバーが死なないとは言い切れないのだ。
「どうすればいい……」
ルイズやサイトがいなければ、この国は終わるかもしれない。
そうなったらいつか平穏に暮らすなんて夢のまた夢。
ついて行った方が良いんだろうか?
「一応何時でも動けるように、準備だけはしておこう」
俺は一旦資料整理を止め、マインゴーシュを砥ぐことにする。
俺はこの剣を使わないで済むことを祈りながら、無言で砥ぎ続けた。
次回は何となく外伝