第116話 草葉の陰から
今朝ルイズ達はアルビオンに向けて、旅立って行っただろう。
俺は、今だ迷ってる。
取りあえず学院長に呼ばれているので、一旦考え事は後にするか……。
「失礼します、学院長。
今回はなんの御用でしょうか?」
「おぉ来てくれたか!
急ぎ頼みたいことがあるんじゃ!」
なんだ?
そんな焦るようなことが……いや、あるけども。
まさか?!
「お主、今朝ミス・ヴァリエール達が、学院を出たのを知っておるか?」
「いえ、初耳ですね」
流石に知識としては知ってますなんて言えないしな。
「先ほどここに姫様がいらっしゃっての?
グリフォン隊の隊長が護衛としてついていくが、念には念を入れて学院から一人、影からフォローしてくれるように頼まれたんじゃ」
「はぁ……何故普通に合流しては駄目なんですか?」
「何があるか分からないからの……もし捕えられたりした場合に敵に存在を知られるのは不味いじゃろ?」
「理由は分かりましたが、何故僕なんですか?」
「生徒たちには実戦経験がないし、いざという時に動けんかもしれん。
なら教師の中から選ぼうと思って、コルベール君に声を掛けたのじゃが、やっぱり断られてしまったんじゃ」
「じゃあギトー先生は?」
「彼は……ほら、分かるじゃろ?」
確かに影からサポートするのに不向きだからな……あの人。
風だから遍在とかフェイスチェンジとか向いてるんだけどなぁ。
「分かりましたけど、何処に向かえば良いんですか?」
「おぉ、受けてくれるか!
ボーナスは弾ませてもらうぞ!
彼女たちはアルビオンへと向かっておる……今朝出かけたからまだ間に合うじゃろうが、念には念を入れて、飛竜を使った方が良いじゃろう。
費用は儂が出すから気にせんでもいいぞ」
「分かりました……」
「頼んじゃぞ!」
結局行くことになったか……悩んでいたから良い切っ掛けになったと思おう。
「行くことが決まったのは良いんだが、どう行くか……」
問題はルイズとワルドは恐らくグリフォンで先を急いでいるだろう。
まぁ馬で移動している、サイトとギーシュに追いつければ問題ないんだけど……今から追いかけるとしたら、馬を使い潰す気で走らせないと駄目だ。
流石にそれは避けたい……学院長は飛竜を借りろって言ってたけど、借りるには遠回りして街に行かなきゃならない。
そうしている間に何かあったら?
確かサイトたちは傭兵に襲われたはずだ……なら最速で追いかけよう。
俺は取りあえず剣を持って学院を出て、森に入った。
「来いギャロップ!」
出てきたのは真っ赤な燃えるたてがみを持ったユニコーン。
正直気は進まないが、まだあり得る手段だろう。
もし見られたとしても、突然変異のユニコーンと言えば誤魔化せるだろう。
「ギャロップ、その火を抑えることは出来るか?」
「ブルルルル」
どうやら大丈夫なようだ。
確かギャロップは本気で走ると、炎が凄まじい勢いで燃え盛るらしい。
ならば本気じゃなければ、どうにかなるんじゃないかと思ったんだよ。
本気のギャロップの背中に乗るのは正直自殺行為だろうしな……だって新幹線と同じ速度なんだぞ?
落馬=即死だろうが!!
「じゃあアルビオンに行くために、港に向かうとしますか!」
「ヒヒーーーン!」
俺は白いユニコーンと化したギャロップに跨って、走り始めた。
速い……って言うかヤバい。
なんて言えば良いかな、高速道路をオープンカーで時速150キロ位出してる感じかな?
正直めっちゃ怖い!!
「もっとスピード落としてくれ!」
「ブルルル」
「首を横に振るなぁぁぁぁぁぁ!!!」
そのままギャロップは走り続け、俺の悲鳴を普通に無視し続けた。
勘弁してくれ……。
走り続けた結果、やっとサイトたちが傭兵に襲われるであろう森についた。
俺達は森に入り、ギャロップにはお帰りいただいた。
「遠くに小さくサイト達が見えるな……そして傭兵達も。
ちょっと遅かったか?
いや、でも大丈夫そうだな」
忘れてたよ……タバサとキュルケが、サイトたちと合流するのってこのタイミングだったな。
あれ? 俺急いだ意味有ったんだろうか?
考えないことにしよう……悲しくなる。
確かこの後は特に何もなかったはずだから、ゆっくりついていくことにしよう。
「そう言えばサイトたちの馬は傭兵に殺されたけど、どうやって移動……あぁシルフィか?
ってことはめちゃくちゃ早いってことだよな?」
ま、またか?
またギャロップタイムなのか?
そうだ! 今度はゆっくり走る様に厳命しよう!
「もう一度来い、ギャロップ!」
「ブルルル?」
どうしたんだ?とでも言いたそうな顔をしているギャロップ。
俺は今度はゆっくり走って、シルフィに見つからない様に走ってくれと頼んだ。
「ヒヒーン!」
「そうか! 分かってくれたか!」
やっぱり確り話せば分かってくれるんだな!
俺の言う通りにギャロップは、確かにさっきよりは遅く走ってくれた。
但し森の中で木を避けながらだけどな!
「確かに見つかるなとは言ったけど、これは想定外だ!!」
「ヒヒーーーーン」
左右に揺さぶられながら、俺はギュッとギャロップの首に掴まりながら耐えた。
なんかギャロップはさっきよりも楽しそうである。
どうやら障害物競走の様な気分を味わっているようだ。
確かにゲームでそういう競技に出してたけど……気合入り過ぎだろう?!
うぷっ、酔いそうだ。