第119話 空の相棒
翌日、俺は朝一で酒場を後にした。
もう既にタバサ達もアルビオンに向けて、出発したようだ。
少し急がないといけないか?
取りあえず飛竜を調達するために店を探すとしよう。
街を少し歩きまわると、目的の店を見つけた。
店の看板には‘馬から王宮払下げの飛竜まで何でもござれ!’と書かれている。
店の大きさは馬や飛竜を扱うだけあって結構な大きさだけど、見た目は年季を感じると言うか微妙にボロいというか……なんにせよ店の中に入らないと始まらないな!
「すいません!」
「………んぁ?」
勢い良く店内に入ったが、俺を出迎えたのは物凄く眠そうな目でこっちを見る店番の女性だった。
なんか出鼻を挫かれた気がしたが、気にせず飛竜を注文することにした。
「飛竜が欲しいんですが……」
「んぁ〜………うん」
「いや、だからですね?
飛竜が欲しいんですが」
「ん〜……んふふふ」
なんか会話にならないんですが!!
あ、立ちあがって奥に入ってった。
ドアの向こうへ消えた店員を見送っていたら、ドアが少し開いて店員が顔だけ出してきた。
「来ないの?」
「え?」
「飛竜……ほしいんでしょ?」
「あ、はい!」
「んふふ、変なの」
変なのはアンタだ!!
その言葉を口に出しそうになったが、なんとか我慢して俺は彼女の後を追った。
店の奥は飛竜や馬の餌がズラッと並んでおり、彼女はそこで米俵の様なものを肩に担いで裏口らしきドアから外に出た。
置いていかれては微妙に困るので、俺も急いで外に出る。
外に出た俺の眼前には小さな牧場が広がっていた。
馬、飛竜、ユニコーン、ラクダ……そこには様々な動物たちがいた。
店員はさっきまで担いでいた何かを地面に置くと、手際良く俵をバラす。
俵自体は草食動物の餌になるのか、餌場と思われる場所に積み上げられている。
そして中にあった何かの肉や果実は、大きな皿に載せて目の前に置いていく。
彼女は彼らの食事のついでに、俺が飛竜を選べる状況を作ったのか?
「あの子は怖がりだけど飛ぶのが速い。
あの子は飛ぶのはあんまり速くないけど勇気がある。
あの子は「ちょっと待ってくれ!」?」
「ちょっと早すぎるよ……頭に入ってこない」
「そう?」
俺の方を見ながら首を傾げる姿は、かなり幼く見える。
まぁ身長は俺より少し低いくらいだから、小さくないんだけどな。
俺が食事を食べている飛竜たちを見ながら、どの竜を選ぶか悩んでいると彼女が俺に質問してきた。
「何で飛竜が必要なの?」
「アルビオンに行きたいからかな?」
「ならあれに乗ればいい」
そういって彼女は、ルイズ達が乗った便のある方を指さす。
まぁ確かに急ぎじゃなければそうするんだけどね……。
「急がなければならない理由があってね……次の便まで待てないんだ」
「ふ〜ん……それじゃあの二頭のどっちかかな?」
「あの二頭?」
彼女が選んだ二頭は他の飛竜たちとは違って、この場所で浮いてる。
片や左目の辺りに切り傷があり、他の場所にも傷がある歴戦っぽい竜。
もう片方は隅の方で、身体を丸くして寝ている。
「傷いっぱいの子は軍で使われてたけど、傷が多すぎて偉い貴族の子供を怖がらせたためにここに売られた。
あの寝てる子は寝るのが好きで、一度式典最中に眠った所為で売られた。
でもスタミナはピカイチ」
「どっちも訳ありですね」
「他の子達だと少し荷が重いかもしれない。
でもあの子たちなら、アルビオンまで飛んでいくことが出来る」
実戦経験ありの飛竜か……確かにそれなら大丈夫かもしれない。
あまり飛びなれていない飛竜が、アルビオンまで飛んでいくのは簡単じゃない。
もしかしたら途中で飛竜が疲れてしまうかもしれない。
高度が高くなれば高くなるほど風は強くなり、体力も必要になる。
「そうですね……僕としても空から飛竜と一緒に身投げするのは御免ですからね」
「じゃあ、どっち?」
「空をよく知っている竜か、スタミナでごり押しするかのどちらかか……」
迷うな……。
空中戦を想定するなら傷付き、寝てる方なら……いやメリットがあるか?
もしかしたらワルドと鉢合わせる可能性があるから、どっちか選ぶなら傷付きのほうかな?
俺は傷だらけの飛竜を見ていると、店員は俺の考えが読めたらしい。
彼女は傷付きに近づいていき一言二言話すと、飛竜はゆっくりとこちらに首を向けた。
隻眼の竜は俺の顔をジッと見ている……まるで俺を見定めるように。
見定める視線と見定める視線はぶつかり合い、互いに小さく口を歪めた。
「(面白い飛竜だ……人間味が強いな)」
「彼も貴方が気に入ったみたい」
「それは光栄って言えばいいのかな?」
何時の間にかすぐ傍に店員が来ていたようだ。
俺は飛竜から目を逸らし、店員に苦笑した。
「あの飛竜幾らになりますか?」
「値段? あぁ、値段かぁ……千二百エキューだね」
「(流石に高いな……)請求書は学院のオールドオスマン宛てに送ってください」
一応払ってくれるって言う話だったしな!
……一応今度半額払おうかな?
こうして俺は空中戦における相棒と出会った。
取りあえず村クエ☆5まで全クリしました
卒論は……頑張ってますよ?