第123話 負けられない戦い
翌日の早朝……というかまだ日が昇りきってない内に俺は目を覚ました。
念のため早めに起きて様子を見ることに決めていたためだ。
正直眠いがルイズに何かあったら困るからな。
取りあえず今は窓に張り付いて城の様子を見ている。
何かあれば直ぐにでも飛びだせるように、杖も準備しながら……。
しばらく何も起こらない城の様子を見続けたが、何かが起こる前兆すらない。
ワルドは何もしないのか?
それとも城の中で既に何かが起こったのか?
そんなことを考え始めた瞬間、門から人影が現れた。
帽子を被った髭で長髪……ワルドだ。
あの肩に担いだ小さな影は!!
「ヤバい! サイトは何をやってたんだ?!」
俺は急いで宿を飛び出し、ワルドの後を追った。
ワルドに連れて行かれたルイズを助け出すために……。
俺はこんな役回りじゃないはずなんだけどな。
しばらくワルドの後をつけて行くと、廃墟のような場所に入っていった。
……まさか尾行がバレたのか?
なんにせよここから先は慎重にいった方が良さそうだ。
俺は取りあえずツボツボに加え、ハガネールとイワークを装備した。
これで不意打ちに対処できるはずだ。
ワルドの歩く音が廃墟に木霊する。
対して俺はレビテーションで少し浮きながら進んでいる。
「これ……無の力………ンキス………だ!」
やっぱり虚無の力欲しさにルイズを……サイトはルイズが助けを求めていないと、ここには来れないだろう。
それに今ルイズは目を瞑っている。
と言うことはこの状況をどうにかできるのは俺しかいないか……。
「そろそろ出てきたらどうかね?」
「?!」
やはりバレていたか……グリフォン隊の隊長は伊達じゃないな。
取りあえず遊びで作った赤い彗星っぽい仮面をつけて、隠れていた柱から身体を出した。
「何時から気付いていた?」
「門を出てから少し経ったところだよ……少し殺気を感じてね」
「敏感ですねぇ。
ところでそこに居る少女を解放していただけませんか?」
「解放? 彼女はこれから我らの導き手の一人となるのだ!
エルフの地に進行するためのな!」
「彼女がそれに従うと思っているのか?」
「別に彼女の意思は関係ない。
いざとなれば魔法で操ってしまえば良いのだからな」
頭がスッと氷でも入ったかのように冷めた。
あぁ、ならこっちもそれなりの対応をさせてもらおう……。
俺はさっきの三匹に加えて、Lv70のナットレイを装備した。
流石にこのレベルの装備だと身体に変化が出てしまうが関係ない。
それに胴体部分だからワルドにはバレていないはず。
しかし今俺の服の下は鋼に包まれた様になっている。
「彼女を道具の様に扱う気なんだな?」
「道具なんてものではない!
聖女になるのだ!
我らの聖女に!」
「あぁ……もういい。
お前は不愉快極まるな……取りあえず苦しんで死ね。
プリズンロック」
先ず俺がしたのは床に寝ているルイズを岩の壁で囲み、危害が加わらないようにすることだった。
これからやることは直接的な攻撃力があるものではないが、苦しみを与えて殺すための手段だ。
あまり使う気はなかったんだが……。
「君は何処に向けて撃っているんだ?」
「彼女に被害を出すわけにはいかなくてね……俺の攻撃はこれからだよ。
‘どくどく’」
「?!」
俺がワルドに杖を向けてどくどくを放つと、もちろんワルドは避けようとした。
しかし飛沫までは避けきれずに何滴かの毒の滴が、ワルドに付着した。
紫色に染まる服と皮膚……そう言えばこれは人に使うの初めてだったな。
「この程度の攻撃避けられないとで……ガッ!?」
「うん……痛みは結構大きいみたいだな」
「き……貴様一体……何をした!!」
ワルドはどくどくの当たった部分を押さえながら、俺を凄まじい表情で睨みつける。
なんだろう……普段なら俺もキレているはずなんだけど、何か頭が冴えるだけで冷静だ。
「毒だよ、猛毒」
「なん……だと?」
「だから毒だよ……一応駄目押ししておくか。
‘やどりぎのたね’」
「当たるか!!」
横っ跳びで転がる彼だが、俺は別に一発しか打てないわけではない。
連続してタネを飛ばし続ける。
まるでマシンガンの様に……。
最初は余裕を持って避けれていたが毒を貰った状態でそれほど動けるわけでもなく、ついにはヒットした。
「グアッ!」
「痛いか?」
ワルドの上半身に何発かの種が辺り、皮膚の下へと潜り込んでいく……そしてその種は本来ならあり得ない速度で芽吹く。
ワルドは体外に出ている部分を千切っているようだが、体内に根がある限り葉は復活する。
「貴様ぁぁぁぁぁ!!!」
「人一人の自由意思を強引に奪い、好き勝手に使おうと考える奴は死んだ方がいい」
「ライトニング・クラウド!」
俺に向けてワルド渾身の雷が飛んでくる。
流石に避けられないな……だけどな?
「何故……貴様何故無傷なんだ?!」
「雷とは相性がいいんだよ」
イワークやハガネールに電気は効かない。
装備した場合は全く効かないわけじゃないが、静電気程度のダメージしか通らないんだよ。
まぁそこまで教える気はないけどな。
「クッ、これが駄目なら遍在!」
「流石スクウェアだな……四体か」
本体含めて五人。
本体は遍在に比べて動きが鈍いな……。
だが、それが罠の可能性もある。
故に俺は負けないために準備を整えていく。
剣を抜き、準備中の攻撃にも対処できるよう構えた。
「‘てっぺき’‘てっぺき’‘てっぺき’」
「この状態でおまじないか?
今だったら見逃してやっても良いぞ?」
ワルドの顔色はあまり良くない。
ポケモンでやどりぎどくどくコンボは、割と有名だが人間にどのくらい効くのかは知らない。
故に慢心なく、万全のスクウェアメイジを相手していると考えて戦う。
これは負けられない戦いなのだから……。
「俺はお前を逃がさない。
お前は……ここでゲームオーバーだ」
「戯言を!!」
こうして弱ったスクウェアメイジ一人+遍在四体vsトライアングルメイジの戦いが幕を開けた。