第124話 オーバーキル
ワルド自身は痛みで動きが鈍いため、後ろで指示に徹するらしい。
四体の偏在が俺に突撃を掛けてくる。
「「「「死ね」」」」
流石閃光っていう二つ名だけあって、早いな。
一対一なら負けないだろうが、四体一で魔法なしなら厳しいだろう。
……ポケモンがなければの話だけどな。
遍在達の剣がほぼ同時に四本とも俺の胴体に突き刺さる。
「あんな大口をたたいて……その程度か。
ゲームオーバーは貴様の方だったな。
クッ……早く治療をしなくて「ヤドリギは取れないぞ?」?!」
俺は隙だらけの遍在一体の顔に剣を突き刺し、勢いそのままにもう一体の首を取ろうとするが、流石に避けられてしまった。
まぁそんなに甘くないか。
「貴様……何故生きている!」
「……正直に話すとでも?」
「クソッ、一度で駄目なら何度でも貫いてやる!」
再び偏在を特攻させてきたが、早々俺も喰らってやるわけにはいかない。
俺は突きをはなってきた一体の手首を掴んで、そのまま引っ張り体勢を崩す。
そしてわき腹に剣を突き刺し、捻った。
剣と言うものは刺しただけだと急所でない限りは、直ぐには死なない。
しかし捻ることで傷口は広がり、失血量も増える。
まぁそこまでしなくても遍在は消えるんだけどな……癖でね。
その間にもあと二体の遍在は攻撃を仕掛けてきている。
首を狙う一体と、胴に向けて突きを放とうとする一体。
「確かに早いが、まだ知覚出来る範囲内だな」
「「戯言を!」」
首を狩ろうとする剣をマインゴーシュで逸らし、突きは剣の腹に掌底を放って逸らす。
剣の腕は父さん程じゃないな……父さんなら剣の軌道を変える位はやってくるからな。
だがワルドは見たことのない技術に目を見開いている。
「何を……した?」
「剣の軌道を逸らしただけだ。
ところで攻めてこなくていいのか?
時間が経てば経つほどお前は死に近づいていく」
「クッ、私は……私はこんなところでは死ねないのだ!!」
流石にこのまま戦っても勝ち目がないと悟ったのか、ワルドは背を向けて逃走を始めた。
遍在は本体を逃がすため、俺に襲いかかってくる。
「「時間を稼がせてもらう!」」
「ここで逃げられるのは困るな……」
俺は突っ込んでくる一体の顔目掛けて剣を投げつけ、動きを止める。
そしてガラ空きになった胴体に拳を打ち込む。
拳は肋骨を叩き折り、そのまま折れた肋骨を押し込むと遍在は消えた。
後一体……急いで倒してワルドを仕留めないといけないというのに。
最後の一体は、かなり慎重になってしまっているためやり辛い。
あくまで接近戦だけだがな。
「‘パワーウィップ’」
「植物の鞭だとだと?!」
地面から建物の床を突き破ってきた草の鞭が遍在を狙い、振り下ろされる。
決して太くはない鞭が凄まじい速度で振られると、パンッという音と共に遍在の首が落ちた。
そしてそのまま遍在は消えて行った。
後はワルド本体だな……。
〜ワルド side〜
何なんだアイツは?!
カッコいい仮面をつけた只の目立ちたがり屋かと思えば、あの戦闘能力の高さ……グッ! 腕が酷く痛む。
胸の辺りも針で刺されるように痛い!
奴は毒とヤドリギと言っていたな……ヤドリギは寄生植物だが人間に芽吹くことなどありえるのか?!
水の秘薬で治すことが出来るだろうか?
取りあえずウェールズの暗殺、手紙の確保は完了した。
あわよくば虚無の担い手を確保できれば最良だったのだが……今回は諦めるとしよう。
?! 遍在がまた一体減った……急がなければ奴が来る!
なっ?! 最後の一体もだと?!
「幾らなんでも早すぎる……奴は何をしたんだ!!」
マズイ……このままでは奴に追いつかれてしまう。
少し目立つがグリフォンで逃げるしかないか……。
「来い!」
廃墟の窓からそう叫ぶと、遠くからグリフォンが飛んでくる。
そのまま窓の外にグリフォンを停滞させ、ゆっくりと背中に乗った。
ゆっくり乗っても腕と胸に凄い痛みが襲いかかる。
「ググッ……アルビオンから……出るぞ」
グリフォンは軽く頭を縦に振り、廃墟から離れ始めた。
ふぅ、これで任務は完了、これから忙しくなるな……。
そうフッと気を抜いた次の瞬間、凄まじい衝撃と共に足の付け根に激痛が走った。
「何だ?!」
私は衝撃を受けた方向に目を向けると、連続して飛来している鋭い石が見えた。
それが私の見た最後の光景となった。
〜side end〜
廃墟の窓からワルドが飛んで行こうとするのが見えた俺は、急いで撃ち落とすことを決めた。
ワルドの進行方向には建物もなく、二次被害が起こることもないだろう。
「‘ストーンエッジ’」
俺は廃墟の壁を使って、ワルドに向けて石の刃を放つ。
最初の一発でワルドの足とグリフォンの胴体を貫いた。
そこで狙撃に気付いたワルドだったが、既に次弾は放っている。
計十発の石の刃が次々とグリフォンとワルドを貫いていく。
オーバーキルかもしれないが、アンドバリの指輪で生き返らせる訳にもいかない。
故に俺は念入りに穿っていく。
五発目が当たった時点で、既にワルドは地に落ちていて四肢は殆ど繋がっていない状態だ。
しかし俺はそこで手を止めない。
残りの五発をワルドの身体に当て、身体を磨り潰していく。
撃つのを止めた時には、既にワルドの身体は地面の染みになっていた。
「……やり過ぎたか?」
取りあえずワルドのことを放置して、ルイズを回収に向かうことにした。
……後でサイトには説教だな。
修正