第125話 国王の決意
ルイズを回収したのは良いんだけど……意識の無いまま城に連れて行くわけにもいかないしなぁ。
そんなことしたら明らかに俺疑われるしな。
取りあえず起こすか。
「ルイズ嬢」
「………」
「ルイズ嬢!」
「……う……ん」
俺が肩を揺すりながら声を何回か掛けると、少し身じろぎをしてゆっくり目を開け始めた。
焦点の合わない目で俺の方を見ると、徐々に意識がしっかりしてきたのかドンドン目を見開いていく。
「なんで兄様がここに?
……って此処何処?!」
「無事そうでなによりだね。
ここは首都のはずれにある廃墟で、僕がここに居る理由はルイズ嬢達の影からのサポートを依頼されたからかな?」
「サポート……ってそれどころじゃないの!
私の部屋にワルド様が来て、ウェールズ王子が暗殺されたって……あれ?
それからどうしたんだっけ?」
「そうか、そこから記憶がないのか」
スリープクラウドでも使ったのか?
いや、薬の類か?
どちらにしろ手際が良かったんだな。
それにしてもウェールズは既に殺した後だったのか……。
なら今ルイズが城を離れているのは駄目なんじゃないか?!
「ルイズ嬢! 急いで城に戻れ!
そして自分がワルドに連れ去られかけた事を話せ!」
「ワルド様が私を?!
何で私を……」
「それに関しては後でだ!
今は一刻も早く城に行かなければならない!
このままではルイズ嬢が王子殺しを疑われてしまうぞ!」
「王子殺しって……やっぱりウェールズ王子暗殺の話は本当だったの?!
誰がそんなことを!」
「ワルドだよ!」
「そんな! だって彼はグリフォン隊の隊長で……」
「それと同時にレコンキスタの一員だったんだ!」
「なら捕らえないと!」
「いや……もういない」
「逃げられたの?!」
「……少し離れた場所に転がっている」
「……殺してしまったの?」
「あぁ」
「……そうなんだ」
ルイズは顔を青くしながら、俯いてしまった。
人の死に触れたのは初めてだったのか?
だがここはもうすぐ戦場になる。
早く報告を済ませて、この国を後にしないと俺達が躯になってもおかしくない。
「取りあえず城の人に真実を伝えて、早くこの国を発つんだ。
ここはもうすぐ戦場になる」
「……そうね」
まだルイズ嬢は俯いているが、ここでジッとしている訳にもいかないと分かったようで、城に向かって歩み始めた。
廃墟から出た俺は時間を短縮するために、ルイズ嬢を背負って全速力で走り始める。
その結果城には直ぐに着いた。
流石に俺は城に入れないと思っていたんだが、衛兵にルイズが話すと何故か入っても良いと言われたらしい。
しばらくルイズと共に城の中を歩いていくと、大きな扉の前に着いた。
「ここは?」
「王座の間です。
兄様の話を王様が直接聞きたいって言っているみたいで……」
「そっか」
王様と話すことになるとは……取りあえず気合を入れないと。
「ドリュウズ様、ヴァリエール様が参られました!」
「うむ、入ってもらえ」
王様と思わしき声がそう言うと、ドアがゆっくり開いていく。
俺とルイズは報告をするために王様への謁見を始めた。
「今朝方、我が息子ウェールズが暗殺された……お主達はその下手人を知っているということだが?」
「はっ! 犯人はジャン・ジャック・ド・ワルドでした。
彼はレコンキスタの一員で、ウェールズ王子を殺害した後、ルイズ嬢に罪を着せるためか彼女を誘拐し、水の秘薬か何かで彼女を操ろうとしていたようです」
「そんな……」
「レッドと言ったな……お主は何故ワルドの動きを察知できたのじゃ?」
「私は学院からの依頼により、ルイズ嬢達を影からサポートする任務をしていました。
故に城の門が見える宿を取っていたのですが、朝方門を見張っているとルイズ嬢を抱えて出てきたワルドを発見し、追跡した後戦闘を行った際に、本人が語って居たためです。
疑わしいと思われたのならオールドオスマンに確認していただければ証明できます」
「そうか……ワルドは今何処に?」
「北の廃墟の近くに躯……と言えるかどうか分からないものがあります」
王様は騎士を呼び付け、耳打ちするとその騎士は走って城から出て行った。
騎士が帰ってくるまでしばらく掛かるだろう。
無言の時間が続く……そんな中ふと王様が口を開いた。
「ウェールズも無念じゃったろう……」
「御悔やみ申し上げます」
「民を一人でも多く守るために命を掛けると息巻いておったからの……死んでも死にきれなかったじゃろうな。
ドリュウズ殿、息子の敵を取ってもらってありがとう……そしてすまない。
こんな状況でなければ礼の一つでもしようかと思うのじゃが、如何せん今は何もない。
寧ろこの国から早く出た方が良いじゃろう」
「私は自分の妹分を助けたに過ぎません。
故に礼は必要ありません。
……やはり戦争は避けられませんか」
「奴らはこちらが何もしなくても攻めてくる……もう逃れられん」
「そうですか……」
「そうじゃった……これをアンリエッタ姫に渡してくれんか?」
「これは?!」
王様から渡されたのは風のルビー。
アルビオン王家に伝わる秘宝。
「ここにあっても奴らに盗られてしまう……ならば息子の……ウェールズの想い人に持っていてもらった方が良いじゃろう」
「……分かりました。
責任もってアンリエッタ姫に渡させていただきます」
そう言うと再び無言の時間が続く。
しばらく経つと息を切らせた騎士が戻ってきて、王様に耳打ちをした。
王様は目を瞑って一回ため息をつくと、確り目を開けて俺とルイズを見た。
「確認させてもらった。
確かに酷い状態だったようじゃが、ワルドと確認した。
お主達も報告御苦労じゃった……早くこの国を脱出するが良い。
間もなくこの国は戦争になる。
お主達は自分の国に帰るのじゃ!」
「でも!「ルイズ嬢」兄様……」
「では失礼します」
俺はルイズを連れて外へ歩を進める。
しかし部屋を出る少し手前で止まって、振り返った。
「御武運を……」
「ありがとう」
俺とルイズはそのまま部屋を出た。
時間がないな……サイトを連れて早くこの国を出ないと!