第133話 青銅とガンダールヴ
互いに一挙一動を見逃さないよう、睨みあいに近い状態だ……。
そんな中、俺は開始の合図を発する。
「開始!」
俺の合図でサイトは速攻を掛ける。
恐らくゴーレムを出す前に勝負を決めようとしているのだろう。
しかしそんなことはギーシュも分かっている。
そんな簡単にやられては今までの訓練が無駄だからな。
「一気に勝とうと思っているようだけど、そんな簡単には行かないよ?」
「チッ!」
サイトがギーシュにたどり着く前に、ゴーレムは出来上がっていた。
見た目は前とあまり変わらないが、武器も持っているし、青銅の純度も密度も上がっている。
少なくとも一刀両断されることはないだろう。
サイトは構わずゴーレムに斬りかかったが、やはり一撃で行動不能にすることはできなかった。
その隙にギーシュはゴーレムを作り出していく。
新たに作られた四体はサイトを取り囲むように配置された。
それと同時に最初に作られた一体はサイトに壊されてしまう。
「よし! これで俺の勝ち……って何か周りにもいる?!」
「何故勝ちを確信したか分からないけど、今度は僕から行くよ!」
「ちょ!? ひ、卑怯だぞ?!」
「最初にゴーレムを使うって言っただろう?
行けワルキューレ達!」
ギーシュのゴーレム達はサイトに四体同時攻撃を仕掛ける。
これは一人を相手する場合非常に良い攻撃方法だ。
しかも狙いは足と胴なため、剣が一本なら受けるのは厳しいだろう。
まぁガンダールヴは普通じゃないから……。
「あ、危なかった……殺す気か!?」
「いや、刃を潰してるから死にはしないよ……それよりもどうやって避けたんだい?」
「そりゃあ……こう何となく?」
サイトは胴を狙う二本の剣を自身の剣で逸らし、足を狙う剣をジャンプで避けた。
そのままゴーレムを蹴って、包囲網から脱出。
流石の身体能力だな……ギーシュは位置的に全てを見ることが出来なかったようだけど、サイトの身体能力が普通じゃないことは分かったようだ。
明らかに眼が変わった。
ここまで動けるとは思っていなかったのだろう……慢心だな。
ギーシュはゴーレムの隊列を変えて、弧を描くような配置にした。
「君の身体能力の高さは、前の決闘の時に知ったけどここまで動けるとは思わなかったよ」
「そいつはどうも」
「だけど僕も負ける気はない!」
「俺だって!」
ギーシュが杖を振ると二体のゴーレムがサイトに特攻を仕掛ける。
だが四体の同時攻撃を避けるサイトに二体の攻撃では足りなかったようで普通に避けられてしまう。
しかもそのままゴーレムの一体は、サイトの剣を受け半壊してしまった。
だがギーシュもそれだけで終わらせるつもりはなく、避けられはしたがゴーレムはそのまま剣を捨てて、サイトを拘束した。
流石にゴーレム故に出来る自分の身体を顧みない行動にはサイトも対応しきれなかったようだ。
サイトは拘束を解こうと暴れるが、自分の足を地面に埋め込んだゴーレムを振りほどくのは簡単ではなく、そのまま残り二体がサイトの首に剣を押し付けた。
「勝負あり!」
「負けちまった……か」
「いや、僕もギリギリだったよ。
もしあそこでワルキューレ達を振りきられたら、僕の負けだったかもしれない」
「ギーシュ……サンキュ」
なんか青春漫画っぽくなってきたなぁ。
それはそれで良いんだけど、取りあえず俺は二人に近づいて行った。
「お疲れ様」
「レッド、ギーシュってこんなに強かったんだな……」
「ギーシュだって最初は戦術も何も知らなかったし、ゴーレムだって素手だったんだよ?
サイト君だって、やっている内に色々なことが分かってくるさ」
原作のギーシュ相手だったらそんなに苦労せず勝てただろうしな。
ギーシュも強くなったもんだ。
「そうだったのか……ところでレッド」
「どうかした?」
「いい加減俺のことサイトって呼んでくれないか?
なんか君付けってむず痒くて……」
「あぁ、そうだったんだ。
じゃあ今度からはサイトって呼ぶことにするよ」
「そうしてくれ」
そう言ってサイトはニカっと笑った。
現代人にしてはあんまり歪んでないな……あっちに友達多かったんだろうなぁ。
友達か……アイツどうしてるかな?
中学校の時にもしお互いが死んだら、相手のゲームや漫画を引き継ぐとかいう話とかしてたんだよなぁ。
まぁ俺が持っているものはアイツも持ってたし、アイツが持っているものは俺も持ってたから微妙かもしれないな。
両親もどうしているんだろう……こっちの父さんや母さんも大事だけど、せめて一言言いたかったな。
「レッド?! どうしたんだいきなり!!」
「え?」
「えって……お前涙出てるぞ?」
「なにか悲しいことでもあったんですか?」
「大丈夫?」
いつの間にかタバサまで近くに来てたようだ。
それにしても今まであんまり考えないようにしてたからなぁ……そっか俺泣いてたか。
もう俺はアイツにも、両親にも会えない……それ自体は理解してるし、納得もしている。
この世界にも俺を心配してくれる人達はこんなにいる。
きっと俺が死んだことで両親は悲しんだだろう。
アイツは……どうかな?
アイツはあんまり感情を表に出さないからなぁ。
おっと、流石に三人が心配そうにしている。
「大丈夫、少し目にゴミが入っただけだから」
「本当か?」
「でも痛がってなんか「ギーシュ」……」
タバサがギーシュの言葉を遮った。
正直助かるよ。
流石に説明はできないからな。
俺は涙を服の袖で拭い、三人に笑顔を向けた。
「ありがとう」
この言葉はこの三人だけじゃなく、元の世界の両親やアイツにも伝えたい。
この三人には心配してくれたことに対しての感謝を。
両親には育ててくれたことに対する感謝を。
アイツには沢山の思い出を作ってくれたことに対しての感謝を。
三人は突然のお礼に戸惑っていたが、各々のタイミングで「どういたしまして」と返してくれた。
「さて、じゃあ訓練を続けよう!」
「はい!」「オウ!」「(コクリ)」
そのまま俺達は授業が始まるまで、訓練を続けた。
今回の話で出てきたアイツですが、俺の友人を元にしています。
因みに男ですよ?