第134話 宝物庫の中
ある虚無の休日、俺はツルベー……コルベール先生と一緒に宝物庫の前にいた。
理由は前に学院長が言っていた、宝物庫の中にあるものを一つ貰うためだ。
「レッド君はどんなものが欲しいとかあるのかい?」
「僕としては、身を守る魔法具とかがあれば嬉しいのですが……」
正直装備を使えば、割とどうにでもなるんだけどね。
でも備えあれば憂いなしっていうし、何かあれば儲けものって感じかな?
「身を守る魔法具かい?
確か何個かあったはずだ……でもそのうち半分はあげられないものだから、あんまり期待しない方がいいよ?」
コルベール先生はそう言いながら、宝物庫の扉を開いていく。
ギギギという音と共に重厚な扉が開いた。
中の様子はかなり薄暗く、においも埃臭い。
コルベール先生が壁にあるランプに火をつけると、薄暗くて見えなかった部分がはっきり見えるようになった。
宝物庫の中には色々な物がある。
王族の胸像、名剣っぽい剣、ごっつい盾等の高そうな物から、ただの木の棒に見える何か、道に落ちていそうな石等のゴミのような物もあった。
「どうですか?」
「正直物が多すぎて何とも……」
「それもそうですね……では気になる物を幾つか持ってきていただければ、それの説明をしますからそれを聞いて判断してみては?」
「それは助かります!」
俺は一先ず宝物庫内を調べてみる事にした。
調べてわかったことは、意外と俺の世界から来たような物もあるようだ。
コンバットナイフやライフルの弾等の戦闘用の物も多いが、シャープペンや中身の分からないDVD等の日用品もあった。
とりあえず俺は指輪を三つと腕輪を一つ、そして黄色い宝石を持ってコルベール先生の元へ戻った。
「気になる物はありましたか?」
「この五つが、取りあえず気になります」
「面白い物を選びましたね……ではまずこの指輪からお教えしましょう」
コルベール先生の話を聞くと、俺の持ってきた指輪は、それぞれ人間の三大欲求を司る指輪らしい。
食欲の指輪をすれば、常に食欲が増幅されるが力も増幅する。
性欲の指輪をすれば、常に性欲が増幅されるが頑強さも増幅する。
睡眠欲の指輪をすれば、常に睡眠欲が増幅されるが精神力も増幅する。
これらの指輪は王宮から預かっている物らしく、貰うことはできないとのこと。
「三大欲求を増幅させる代わりに、それに見合う力が貰えるって事ですか……因みにどの位増幅されるんですか?」
「そんなに多くはありませんよ?
食欲なら一日六食になる位で、拳で鎧を少し凹ませることができるようになります。
性欲なら……まぁあれですよ……四六時中大きくなってしまう代わりに、鎧を着けている位の頑強さを得られます。
睡眠欲なら日に12時間以上寝るようになりますが、魔法を使える回数が二倍近くになります」
なんだろう……すっげぇ微妙。
睡眠欲の指輪は良いけど、食欲は効力が微妙、性欲は効力は良いけど代償が……。
何でこんなもん作ったんだ?
まぁ貰えないなら、どうでも良いんだけどね?
「次はこの腕輪ですか……これは止めておいた方が良いです」
「どうしてですか?」
「この腕輪はつけた者に幸運を運ぶ代わりに、その人の寿命を減らす腕輪なんです」
都市伝説みたいな物出てきたな……でもファンタジーの世界だからあり得なくもないな。
だとしたら問題はどれくらいの幸運で、どれくらいの寿命が持って行かれるかという点が気になるな。
「効果と代償はどれくらいなんですか?」
「幸運は些細な物です。
道ばたで銅貨を拾ったり、夕食が好きなおかずになったりという本当に些細な物です。
しかしその代償は一つの幸運につき、一年の寿命が減ります」
「それは……酷いですね」
正直デメリットが大きすぎる。
下手すれば銅貨三十枚で三十年の寿命が減るわけだろ?
……それは怖すぎる。
「流石に制作者も危険な物だと分かっていたみたいで、この効果を発動させるには腕に着けている本人がキーワードを言わなければいけません」
そうか、それなら効果を知らない人に着けさせて寿命を減らすっていうのは難しいな。
でも危険な物には変わりないな。
「では最後のこの宝石ですが……これはよく分からないのです」
「よく分からない?」
「この宝石が何か分かりませんが、雷を閉じ込めたような宝石なので何かの魔法具なのではないかと思っています。
どうやって使うのか、どこから採掘されたのか……謎が多い石ですが、アカデミーで調べてもどんなものか分からなかったために、綺麗な石だという価値しかありません。
そんなこの宝石で唯一分かっていることは、この名前が電気玉と言うこと位で……」
「電気玉……電気玉?!」
「何か知っているんですか?」
「い、いえ」
マジか……そりゃあ調べてもわかんないよな。
だってこの世界にピカチュウいないし、調べようがない。
俺はサトシのピカチュウを結構育てたので、電気玉には大分世話になったよ。
俺がこの世界にポケモンを召還するときには持ち物を持っていないから、正直これ欲しいな。
ピカチュウにこれを持たせれば普通に強いし……。
「じゃあ僕はこれを貰います」
「コレでいいのかい?
でも君は身を守る魔法具が欲しいって……」
「何か運命みたいな物を感じたんです。
こう言うのって大事かと思うので!」
「レッド君がそれで良いなら僕は何も言わないけれど……」
コルベール先生は不思議そうな顔をしていたが、俺が持ってきた他の物を棚に戻していった。
もしかしたら他にもポケモン関係の道具がこの世界に紛れ込んでいるかもしれない……少し探してみるか?
俺はそんなことを考えながら、コルベール先生と宝物庫を後にした。