第135話 婚姻の詩
電気玉を貰ったことを学院長に報告した俺だったが、学院長はコレを選ぶとは思っていなかったらしく、報告したときの一言目の台詞は「本当にそれでよいのか?」だった。
まぁ確かに用途が分からなければ唯の石だからな。
「何かビビっと来たのでこれで大丈夫です」
「そ、そうか……お主がそれで良いならかまわんが。
ところで、お主の妹分に姫様から依頼が来たのは知っておるか?」
「いえ……何かあったのですか?」
なんかあったっけ?
もう大まかなストーリーしか覚えてないからな。
「姫様がゲルマニア皇帝の結婚するという噂は聞いたことあるじゃろ?」
「まぁ、生徒たちも話してましたからね」
そういえば、そういうイベントもあった気がするな。
っていうことは始祖の祈祷書のことか?
「姫様がミス・ヴァリエールに依頼したのは、式の時に読む世界を司る四つの系統を讃える詩を考える事じゃ」
「え、でもそういう物は神官などに頼むのではないのですか?」
「……姫様じゃからな」
「……そうですね」
普通こういったものは語彙や表現力が豊かな人に任せるのが妥当じゃないんだろうか?
しかも国のトップ同士の婚姻なんだから大事な儀式だろうに……学生に任せちゃ駄目だろう。
記憶が正しければルイズ嬢に詩の才能はあまりなかった気がするし。
「ルイズ嬢も大変ですね」
「おそらく初めての事じゃから、困っておるじゃろう。
もし彼女が頼ってきた場合には助けてやってくれんか?」
「それは構わないのですが、僕も詩なんか作ったことないですよ?」
「それでも彼女より人生経験は豊富じゃろ?」
色々あったからなぁ……あれ? そういえば火竜以外に火属性の相手と戦ったことないな。
家に戻ったら少しゴウカザル辺りと模擬戦してみるか?
育て終わる前だったけど、Lv70はあるから普通に強いはずだ。
「そうですね、それぞれの属性の怖さは知っているつもりです」
「今回怖さは使わんと思うがのぅ」
「こ、言葉の綾みたいな物ですよ!!」
その後少しだけ雑談をして、俺は部屋に戻った。
部屋に戻った俺は電気玉を机に仕舞い、いつも通り授業資料をまとめる。
夏休みも近いし、授業内容も結構進んできたからそろそろ実践の授業を増やそうかなとか考えていると、部屋にノックの音が響いた。
「兄様、ルイズです」
「開いているから、入っておいで」
「失礼します」
部屋に入ってきたルイズは、腕に本を抱えていた。
あれが始祖の祈祷書か?
もしかしたら違うかもしれないし、何にせよ話を聞いてみればわかるだろ。
「今日はどうしたんだい?」
「兄様は姫様が結婚すること知ってる?」
「うん、ゲルマニアの皇帝と結婚するようだね」
「そう……そうなのよ!
なんでゲルマニアなんかと!!」
ルイズ嬢のゲルマニア嫌いも相当だな。
まぁトリステインの貴族は基本ゲルマニアを下に見ている部分があるからしょうがないか?
でもキュルケとは犬猿の仲っていうよりも、喧嘩するほど仲が良いって感じだから何とも言えない。
「この国だけではレコンキスタとの戦争に絶対勝てるとは言い切れなかったからね」
「それもこれも全部レコンキスタが!!」
「それはそうなんだけど、ルイズ嬢はその憤りを聞いて欲しかったのかい?」
「……違います」
「じゃあ、どうしたの?」
「えっと……兄様にお願いがあって……」
ルイズ嬢は両手の人差し指の指先同士をくっつけ、微妙にモジモジしている。
うん、可愛いな!
前世含めて俺には妹なんて居たことないから、こんな感じなのかなっていう予想でしかないけど、妹ってこんな感じなんだろうか?
「なんだい?」
「実は……姫様に式で読む詩を考えて欲しいって言われて、一応ここ二日位考えていたんだけど、思いつかなくて、兄様にアドバイスを貰えればなぁって……」
「それは構わないんだけど、どこまで考えたのかな?」
俺の言葉を聞いて一瞬ビクッとしたが、ルイズ嬢は一旦深呼吸をして、気合いを入れ直すと詩を読み始めた。
「この麗しき日に、始祖の調べの光臨を願いつつ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
畏れ多くも祝福の詔を詠みあげ奉る……」
「……次は?」
「………でなの」
「ん?」
「……までなの」
「よく聞こえないのだけど……」
「ここまでしか考えてないの!!」
羞恥からか、顔を真っ赤にしてルイズが俺に吠える。
それにしても……まだ一つも系統に対しての感謝を言えていない。
「式の時に読む詩って、確か四大系統に対する感謝を捧げる詩だったよね?」
「そうなのよ……でも思いつかないの!
だから兄様に手伝って貰おうと思って来たの……お願い!
私と一緒に詩を考えて!!」
大変そうだな……でもまぁ、妹分の頼みだし答えてあげるとしますか。
でも俺自身に詩の才能なんかあるんだろうか?
前世含めて詩なんて書いたことないんだけど、もしかしたらあんまり力になれないかもしれないな。