第139.5話 ガンダールヴについて
〜タバサ side〜
宝探しを始めて二日目になった。
正直あまり来る意味がなかったと思う。
これだったら学院でレッドと一緒に訓練していた方が……。
因みに今は5つ目の地図を基に移動している最中だ。
「シエスタ、大丈夫か?」
「ハイ!」
「そっか……良かった」
「アンタ、それ何回聞くのよ?!」
「え? そんなにいっぱい聞いてるか?」
「もう8回目よ!」
何で彼がこんなに心配しているのか分からない。
彼女が少し転んで擦り傷が出来た程度なのに……。
転んだ理由はオークの襲撃に驚いたからなのだけど、それに逆上した彼がオークに突撃したのは驚いた。
つい先日オークを斬って顔を青くしていたとは思えない動きだったけど、オークを素早く仕留めて彼女の状態を確認したら、また顔が青くなっていた。
彼はなんなんだろう?
あのインテリジェンスソードも気になるが、それ以上に彼の戦闘時の動きは異常だ。
動きは素人、筋力もそれほどではない……しかしスピードや剣速は異常に早い。
そして剣の振り方はまるで達人のようだが、フェイントは無く剣線を読みやすい。
彼は歪だ。
いくら考えていても分からないなら、直接聞いてみよう。
「あなたは何?」
「え、いきなり何だよ?」
「あなたの戦闘能力はおかしい。
剣の達人のようで、素人のようでもある。
どこで剣を習ったの?」
「俺、剣を習った事なんて無いぞ?」
「そうなのかい?!」
いきなりギーシュが会話に割り込んできた。
彼はサイトと模擬戦を行っているから、余計に信じられないのだろう。
他の人も気になっている様だ。
「確かに相棒は剣を使ったこと無いんだろうな!
なんてったって俺の持ち方すら知らなかったからな!」
「当たり前だろ!
俺が居たところじゃ、剣を持つのにも国の許可がいるんだよ!」
「そんな国聞いたことない……」
王宮内での武装禁止なら分かるけど、そういったわけじゃなさそう。
そういえば彼はどこから来たんだろう?
「たぶん知らないだろうけど、日本だよ……」
「「「「日本?」」」」
「俺は月が一つしかない世界から、この世界に来たんだよ」
月が一つしかない世界なんて聞いたことがない。
嘘でもついているんだろうか?
例え嘘でも、それより大事なことがある。
「それが本当か嘘かは知らない。
でも聞きたいことは何故剣を使ったことがないのに、あんなに剣を使えるのかと言うこと」
「あぁ、そのことか……なんか武器を持つと、その使い方が頭に思い浮かぶんだよ。
こっちの世界来てからだけどな?」
と言うことは召還されてからと言うことになる。
ならルーンの効果だろうか?
私は彼の手にあるルーンをジッと見てみた。
あれ? このルーン何処かで……。
「あったり前だろう!
相棒は使い手なんだからよ!」
「使い手ってなんなのよ?」
「なんでぇ、そんなことも知らねぇのか?
ガンダールヴのことに決まってんだろ!」
「「「「ガンダールヴ!?」」」」
「ガンダールヴって何ですか?」
「ガンダールヴって言うのは、あらゆる武器を使いこなすと言われている伝説の使い魔のことよ……」
「サイトさんって凄い人だったんですね!」
それなら納得がいく……剣を使いこなすことは出来るけど、フェイントが出来ないのは剣とは関係ない部分だからなのだろう。
神の左手と呼ばれる伝説の使い魔。
でも彼はその力をまだ使いこなせていない。
故にワルドやギーシュに勝てなかった。
「デルフ……それあんまり話しちゃ駄目だって学院長に言われたじゃねぇか」
「そうだったか?」
それはそうだろう。
伝説の使い魔が居ると知られれば、軍がスカウトに来る可能性がある。
それに彼は平民だから、軍に入ったら死ぬまで最前線行きになるかもしれない。
恐らくそれを避けるために口止めしたはず。
「気をつけた方が良い」
「ん?」
「あんまり大勢にその事が知られると、良くないことになるかもしれない」
「良くないことって……まぁ良く分かんないけど、気をつけるよ」
いざとなったらヴァリエール家がどうにかするかも知れないけど、注意することは無駄じゃない。
その後は剣を使っているときの感覚等を聞かれていた。
因みに一番質問の回数が多かったのはギーシュだった。
そうして話しながら地図に書かれている場所へ到着した。
しかしそこにあったのは空の木箱だけだった。
「ここも外れ……本当に宝なんてあるの?!」
「知らないわよ!」
「そんな簡単に本物の宝の地図なんて見つからないさ」
確かにそんな簡単に手に入るなら、既に他の人に見つけられているだろう。
そのまま私たちは最後の地図を見た。
「次で最後ねぇ」
「最後の宝は……竜の羽衣っていうみたいね」
「竜の羽衣?!」
「何だ? シエスタ、知ってるのか?」
「知ってるも何も、私の村にありますよ?!」
「「何ですって?!」」
「本当なのか?」
「えぇ、正確に言えば私の祖父のものだったんですけど、今では村に納められています」
「それじゃあ、勝手に貰っていくわけにはいかないわね」
「確かに勝手に、というのは困りますけど譲る条件をこなして貰えば譲ることは出来ますよ?」
「それ本当?!」
「まぁどちらにせよ、その竜の羽衣を見てから決めようぜ」
「それもそうね……シエスタ、案内をお願い」
「分かりました!」
そうして私たちは竜の羽衣があるタルブの村へと向かって歩き始めた。