外伝 エルザの日常
私の朝はおじいちゃんと一緒に朝ご飯を食べることから始まる。
おじいちゃんはあんまり料理得意じゃないみたいで、基本的には私が料理をしてる。
「エルザ、今日の朝ご飯は何かな?」
「今日はパンとスクランブルエッグ、後はハムかな?」
「それは楽しみだ」
私はパンを焼き、卵をかき混ぜる。
そうして朝ご飯を作り終えると、お皿に載せて食卓につく。
そのまま食事を終え、食器を洗っているとおじいちゃんが話しかけてきた。
「今日は久しぶりに町に行こうか」
「ホント?!」
「夕方に行くから、用意しておくんだよ?」
「うん!」
おじいちゃんはそう言うと、村の開合に向かった。
村長だからこういうの多いんだよね。
私は日中あんまり外に出たくないから、基本的に家のお仕事をしてる。
吸血鬼だから夜の方が動きやすいんだけど、夜を生活の中心に動くと町の人たちに怪しまれちゃうからね!
それに日の光を浴びてるとダルくなってきちゃうんだよね。
さ〜てっと……まずはお洗濯からかな?
「ふぅ〜、これで最後っと!
そろそろおじいちゃん帰ってくるかな?」
お洗濯を終えて、お掃除も今の窓ふきでお終い。
後はおじいちゃんが帰ってきたら、町に行くんだよね……楽しみだなぁ。
そんなことを考えていると外から足音が聞こえてきた。
この足音は……。
「ただいまエルザ」
「おかえりなさい!」
「いい子にしてたかな?」
「もう! 子供扱いしてぇ!」
「おぉスマンスマン」
おじいちゃんは良くこんな風に私のことを子供扱いする。
私、40年以上生きてるんだけど……まぁいいけどね。
おじいちゃんが私のこと孫みたいに思ってるのは分かってるし、私も嫌ってわけじゃないし。
「さて、それじゃあ町に向かうとするか」
「やった!」
町に行くには定期的に来る馬車便に乗るのが一般的。
私とおじいちゃんも馬車に乗って町に行く。
何時も通りなら乗って日陰になっている場所に陣取るんだけど、今日は先客がいたようだ。
あれ?……なんか見覚えがあるような気がする。
下を向いていて顔が見えないんだけど、ちょっと太めの筋肉質で頭がツルってなっている人。
「もしかして……チャン?」
「あぁ?誰だ、俺の名前を呼ぶの……は?
マイエンジェル?!」
エンジェルはないでしょ……私吸血鬼なんだけど?
それにしてもなんでチャンさんがここに?
そう思っているとおじいちゃんも同じ疑問を持ったみたい。
「チャンさんはお仕事ですか?」
「あ、あぁ」
「他の方は一緒じゃないんですね」
「今回の仕事は俺一人で十分な内容だったからな。
そういうあんた達は何処に行くんだ?」
「ちょっと町まで買い物に行こう「じゃあ俺が護衛してやるよ!」……かと」
「最近は町にも物騒な連中がいるからな!」
チャンも見た目物騒なんだけどね。
背中には鉄球背負ってるし、鎖も巻いてる。
まぁ今から行く町は黒の鉄球団の良く行く酒場があるみたいだから、大丈夫だと思うけど……絶対目立つよね?
「いえ、でも……」
「遠慮すんな!」
おじいちゃん断れなそうだなぁ。
チャンがいい人なのは分かるんだけど、偶に私のことジ〜っと見てるのは止めてほしいかも?
結局おじいちゃんはチャンに押し切られて、3人で町を巡ることになった。
町に着いた私たちは、まず村じゃ手に入らない調味料や食材を買った。
塩や砂糖は行商人が持ってきてくれるんだけど、香草とかは村じゃ手に入らないんだよね。
食材も買い終えて少し自由な時間が出来たから、おじいちゃんがお酒を見に行きたいって言い出した。
私はまだお酒の良さが分からないから、お菓子を見に行くことにした。
お酒も飲めないわけじゃないんだけど……あの匂いあんまり好きじゃないんだ。
私がお菓子を見に行くって言ったらおじいちゃんは「そうか」と一言言って、チャンに耳打ちするとチャンは小さく頷いた。
たぶん私のことを護衛してくれとでも頼んだんだろう。
相変わらず心配性なんだから……。
「エルザ、お菓子を見に行くならチャンさんが着いて行ってくれるそうだから、あまり我がまま言わないようにな?」
「エルザちゃんの我がままなら幾らでも聞いてやるぜ!」
「もう!」
人目もあるから一応年相応の態度を見せないとね。
私は頬を膨らませてそっぽを向いた。
それを見ておじいちゃんは小さく笑っているけど、チャンは……なんかだらしない顔になってる。
道行く人は彼の顔を見て、ギョッとして足早になっていく。
お願いだから一緒に行くなら、その顔をどうにかしてよ?!
おじいちゃんと別れて少し経つと、チャンの顔が元に戻った。
チャンと一緒に暫くブラブラしていると、チャンが私に質問してきた。
「ところでエルザちゃんはどんなお菓子が好きなんだ?」
「う〜ん……飴も好きだけど、ケーキとかも好き!」
甘いものってなんであんなに美味しいのかな……?
吸血鬼にとって、血ってケーキとかより美味しいのかしら?
ヘイの血、吸ってみたかったなぁ。
「着いたぞエルザちゃん」
「え? あ、あぁうん!
ここは何のお菓子が置いてるの?」
「ここは焼き菓子が多い店だ。
クッキー、パイ、マドレーヌとかだな」
「へ〜……あ、いい匂いがする」
お店の中に入ると、砂糖の甘い匂いとうっすら柑橘系の匂いがして涎が出てきそう。
お金はあんまりないからしっかり選ばないとね!
「ど・れ・に・し・よ・う・か・な!」
「片っぱしから頼めばいいんじゃねぇか?」
「そんなにお金持ってないよ!」
「なんだ、それぐらい出してやるよ」
そう言ってチャンは胸を張るんだけど、周りのお客さん引いてるよ?
あ、子供が泣きそうになってる。
これは急いで決めないと駄目かな?
「流石に全部頼んでも食べきれないし、持って帰るもの大変だから大丈夫だよ」
「そうか? 買ってほしかったら言えよ?」
「うん、ありがとね!」
「お、おぅ」
結局私は二人分のマドレーヌと三人分のクッキーを買って、お店を後にした。
お店を出ると日が結構暮れているのがわかったので、おじいちゃんと合流することに。
でもその前に……。
「チャン」
「ん?」
「はい、今日のお礼!」
「これ……さっき買ったやつじゃねぇか!
エルザちゃんのだろ?」
「一つ多めに買ったんだ。
何もあげないっていうのはなんか……ね」
そう言いながら私はチャンの手の上にクッキーの袋を置いた。
あんまり嬉しくないかもしれないけど、小銭渡しても嬉しくないだろうし、道中食べれるクッキーの方がまだマシだと思って渡したんだけど……なんで泣く?
「ど、どうしたのよ」
「いや、なんでもねぇんだ」
チャンは涙を服の袖で拭きながら、小さな声で「これは俺の宝だな」って呟いてた。
いや、ただのクッキーだよ?
そんな事を思いながら人形の様な幼女は、泣きべそかいた大男と町を歩いて行った。
おじいちゃんと合流した時、流石にチャンも泣き止んでいたんいたんだけど、目が赤くなってたからおじいちゃんが不思議がっていた。
チャンとはここでお別れになるみたいで、私たちが乗っている馬車を見送ってくれるらしい。
「チャンさん、今日はありがとうございました」
「いや、こっちもいいことがあったし、言いっこなしだ」
「そうなんですか?」
「おうよ!」
クッキーのことかな?
なんでそんなに嬉しかったのかな?
「それではチャンさん、またいつか」
「おう、気をつけて帰れよ?」
「またね!」
「あぁ!!」
そう言葉を交わすと馬車が走り始めた。
チャンは馬車が見えなくなるまで、ジッと見ていた。
私が偶に手を振ると嬉しそうに手を振り返していた。
……子供好きなのかな?
「エルザ、今日は楽しかったか?」
「うん! でも出来れば次はヘイと一緒に来たいな!」
「ヘイさんか……彼は複雑な環境にいるみたいだから滅多に会えないだろうけど、次に会ったら聞いてみるといい」
「うん!」
ヘイ、いつか絶対私のモノにするんだからね!!
…………早く会いたいなぁ。