第143話 見えない支援
20回のテレポートで何とかタルブ近くの森に着くことが出来たのだが、俺がここに着くと既にサイトのゼロ戦は空でドッグファイトを繰り広げていた。
相手はアルビオンの竜騎士隊だが、戦闘機の飛行速度と旋回速度には着いていけないようだ。
次々と機銃の餌食となっていく飛竜を見ていると、なんとなくレイアのことを思い出してしまい、少し悲しい気分になる。
「おっと、感傷に浸ってる暇はないな。
‘サイコキネシス’!」
俺はゼロ戦の後ろに着いた一頭の飛竜の翼を手折る。
竜騎士はかなり動揺しているようだが、錐揉み落下しながらも杖を抜いたのが見えたので念力で杖を取り上げる。
慌てて手を離れる杖を追いかけようとするが、届かないことが分かると足掻くのを止め、空を仰ぎながら堕ちていった。
罪悪感が無いわけじゃないんだが俺の中の優先順位に基づいて行動してるので、そこまで大きなものではない。
そのままゼロ戦が後ろを取られた場合だけ、後ろにいる飛竜を堕としていく。
流石に3頭目を堕とすと、周りの竜騎士達も不審に思ってきたようだ。
「流石に気づくか……まぁ位置の特定は出来ないと思うけどね」
俺の今いる場所は木の陰、空から俺を見つけ出すのは難しいだろう。
それに‘サイコキネシス’や‘ねんりき’は火や水の様に見えるものじゃないから、攻撃方向を逆算して位置を特定することも出来ないしな。
しかも見えない敵から攻撃があるということが竜騎士達の注意力を削いでいるらしく、先ほどよりもサイトの撃墜スピードは速くなっていく。
しかし数が多い……原作よりも多い気がする。
ワルドがいない代わりに数を増やしたのだろうか?
「っと、危ないな」
何人かの竜騎士が森の周りを飛び回っている。
まぁ隠れるところ此処くらいしかないからなぁ……うおっと!
「クソ! 隠れられる場所なんて此処くらいしかないっていうのに!!」
「落ち着け、どうせ逃げられやしない……今はあの飛竜もどきを優先すべきだ。
俺達の仲間を落したことを後悔させてやろう」
「それもそうだな、あの飛んでる奴も幾ら速くたって何時か疲れる筈だ。
その時こそアイツらの最後だ!」
そう言うとサイトの方へと戻っていった。
サイトを襲う竜騎士が目に見えて増え、捌くのが厳しくなってきたようだ。
俺も一頭ずつ堕としてるんだが効率が悪い。
でも他の方法だと場所がバレるし、見つかったらレコンキスタに目を付けられるかもしれない。
俺はこのデメリットをスルー出来ない。
しかし刻一刻とサイト達は追い詰められていく。
あぁぁぁぁぁ、しょうがない少しだけ危険を冒すか。
俺は木を少し錬金し、即席の仮面を作った。
ヘイとして動く時用の仮面じゃなく、髪と顔を隠せるフルフェイスに近いマスクだ。
これで万が一位置がバレたとしても素性がバレることはないはず……きっと。
そう自分に言い聞かせて少し派手に動くことを決める。
ゼロ戦をみるとコックピットの辺りに被弾したらしく、コックピットカバーが吹き飛んでいる。
「はぁ……もうやるしかないな。
こうなったら即効で蹴散らして、即時離脱しますか」
少し準備をして、俺は竜騎士達の集まる中心辺りに手を向ける。
そして小さく「‘サイケ光線’」と呟く。
すると手のひらから直径1メートルくらいのビームが出てきて一頭の竜を貫いた。
その瞬間竜騎士達は散開し始めたが、その移動よりも俺の腕を振る速さの方が早い。
サイケ光線を出したまま腕をふるうことで、腕を向けた先にいる竜達を堕としていく。
しかし流石に光線の根元に俺がいることは速攻でバレたようだ。
十頭近い竜騎士がこっちに向かってくる。
俺は走りながらも竜を堕としていくが、全部堕とす前に追いつかれそうだな……そろそろ隠れるとしよう。
事前に召喚しておいたダグトリオが掘った穴に隠れて、念のために俺の周囲を岩に錬金して簡易シェルターを作った。
次の瞬間爆音と共に地面が揺れる。
「危ねぇ……火のトライアングルスペル辺りか?」
それからも何度か爆音と共に振動が襲う。
しかしそれも暫くすると止んだ。
どうやら俺は死んだと思われたようだな。
俺は簡易シェルターを解除し、状況を確認することにした。
地面から出た俺が見たのは爆撃された森とアルビオン艦隊が光と共に消える所だった。
「これが虚無のエクスプロージョンか、すごい威力だな」
「へぇ……彼女が虚無の使い手と知ってるのね」
「?!」
俺は急いで周囲を見回した。
すると爆撃を逃れた木の陰から、スタイルの良い鋭い眼をした女性が現れた。
オイ……オイオイオイオイ!!
ヤバいってレベルじゃねぇぞ?!
何で……何でこんなところに狂王の使い魔がいるんだよ!!
「えっと、貴女はどなたでしょうか?」
「名前を尋ねるならまず自分からって言葉……知らない?
まぁそんな格好している時点で教える気はないんでしょうけど」
「……」
「なんにしてもさっきからあいつ等堕としてたのは、あなたでしょう?」
此処は恍けておいた方がよさそうだな。
この人相手にそれが通じるかどうかは分からないけど……
「何のことでしょうか?」
「別にどっちでもいいのだけどね」
「え?」
「どうせあなたは此処で死ぬのだから」
やっぱりこうなるよなぁ。
どうしたもんかな。