第15話 ラッセル村
カトレアさんの誕生日から一カ月。
最近自分は近接戦闘に自分の反射神経をもっと生かせないかと考えていた。
確かにマインゴーシュは使い勝手がいいんだが、攻撃力に欠ける。
そこで思い浮かんだのは、前世で小学校の頃から中学校の初めまで習っていた極真空手の存在。
あれに漫画とかの技で使えそうなのを組み込んではどうかというもの。
この世界に明確な格闘の流派というものが存在するかどうか分からないが、初めての相手ならば意表を突けるだろう。
俺はそう思って森に行く時に、記憶を探りながら空手の練習をした。
正拳突きは、拳を握る際に出来る限り小さな拳を作るように力を込めて握る。
拳を当てるときは、人差し指と中指の部分が初めに当たるように。
片方の拳を突き出す際に、もう片方の手の平が上を向くように自分のわき腹横のあたりに拳を引く。
そして拳を半周させながら出している拳を引き、もう片方の拳を勢い良く突く。
これが俺が昔ならった正拳突きの型。
しかしこれではノーガードにもほどがある。
試合ですら構えは、ボクシングに近い形をしているのだ。
まぁ足は違うが……空手において足技は必殺に近い。
頭部に蹴りが当たると技ありとなり、倒れると一本となる。
小さいころ大人の空手の試合をみたとき、ヘッドギアが無かったので、拳で相手の顔は切れるし、蹴りで青あざができるといった大分ショッキングな試合が多かった(試合後とかは畳に血痕が残ってたりするから、微妙に引いていたのは記憶に残っている)。
故に蹴りのガードを意識しなければならないのだ。
しかしこちらの世界においてその程度なら、命をかけた戦闘に使用するには力不足。
最低でも板垣漫画クラスの攻撃力が無ければ……。
そこで考えたのが俗にいう中高一本拳や抜き手の使用。
抜き手は中国拳法でも使われている程使い勝手の良いものだが、鍛える際に突き指や骨折などが絶えないため使いこなすのが難しい。
中高一本拳も同様、あれは親指を中指の第二関節に当てた状態で拳を握るため親指に掛かる負担が大きい。
そして防御面では自分の反射神経を最大限に使って行う、無刀取りやまわし受けも要練習となる
そして肝心な怪我に対しての対応だが、俺には装備がある。
自己再生、光合成などの回復技を行使すれば大丈夫のはずだ。
攻撃力を強化してしまっては修行にならないため、ユンゲラー辺りが妥当か?
そして格闘技を用いた戦闘に魔法を組み込むことを考えるとバリエーションは増えていく。
そのためには先ず指輪を杖代わりに出来るようにしないといけないな。
そうして俺はどんどん戦闘技能向上させていく。
いつかのんびりできることを目指して……。
そんなこんなで半年が経った。
空手も少しずつ形になってきて、抜き手や中高一本拳で木を凹ませる位は出来るようになった。
前世に比べて筋肉の成長速度が速いが、ラノベ仕様だと納得することにした。
まわし受けは、まだ練習方法の確立が出来ていないので習得出来きっていないが、無刀取りは相性が良かったのか割とすぐ出来た。
何故出来ることが分かったかというと、一回父さんとの模擬戦でうっかり使ってしまったからな訳だ。
あのときの父さんの顔は記憶に残っている。
驚愕と唖然……後に激怒。
まぁ危ないからね?
剣を持った相手には極力使わないよう厳命されてしまった……。
たぶん守れないけど極力使わないようにしよう。
そして実際に使ってみてわかったんだけど「別に剣を挟む必要なくね?」と感じたため、鉄板入りの手袋をつけて拳で剣の腹を殴るようにしてみた。
腕を切られる恐れが大きくなったが、これが予想以上にやりやすかった。
また父さんに怒られたが、若干呆れの方が大きくなった気がする。
この手袋をすると中高一本拳が使いにくいが、防御力は上がる。
いつか使い勝手のいいガントレットでも買おうかな?
そんな父さんからの眼が段々痛くなってきた俺ですが、なんとついに領内を見回ることに!!
やっと……やっと人との触れ合いができる!!
ヴァリエール家は別だよ?
カトレアさんやルイズ嬢とは少し仲良くなったけど、それ以上にあそこは死亡フラグの山なのだ!!
でもなぁ、せっかく仲良くなったしなぁ。
ルイズ嬢はかなりの危険を伴うから程々にしないといけないけれど、カトレアさんなら友達になっても大丈夫なんじゃないか?とか俺の判断基準はどんどん甘くなってきていた。
そんなことはさておき、今回領内を見る理由は川が土砂で遮られてしまったらしく、それをどうにかしてきなさいと父さんから依頼されたため。
俺はこれを機に領民とコミュニケーションを取って、仲良くなろうと考えていた。
まぁ両親は基本平民差別とかしない人なので領民から怖がられたりはしないだろうけど、俺としてはフレンドリーには話かけてきたりして欲しい。
故にこの依頼は渡りに船だった。
俺は意気揚々と問題の川のある村へと向かった。
しばらく進むと村が見えてきた。
自然とテンションが上がる俺。
俺は村の手前でフライを解き、歩いて中へと入って行く。
服装で貴族と分かったのか村人が少しビクビクしていたが、軽く会釈をすると驚いたように固まっていた。
何か面白かったから、目があったら基本会釈をすることにした。
まぁこの世界の貴族の多くは目が合う→いちゃもんをつける→平民人生終了っていうこともあるぐらいだから驚くのは無理もないのか?
そして俺は川を直しに来たことを村長に伝えるため、村長宅へと向かった。
「レッド様、ようこそラッセル村へ」
村長は人の良さそうなお爺さんだ。
俺が家の中に入るとその村の特産品である麦を使ったパンを御馳走してくれた。
少し硬かったが、麦の味とスープが良く合っていて美味しかったと思う。
「ごちそうさまでした」
「いえいえ、こちらこそ貴族様にお出しするには貧相なもので申し訳ないです」
「お気になさらないでください。
それにとても美味しかったですし……
ところで川がせき止められてしまったと聞いたのですが?」
俺がそう言うと表情を少し悲しそうな顔へと変えて、川がせき止められてしまった理由を語ってくれた。
どうやら先日振った雨で大きな岩が崖から落ちてきてしまい、それが川の一部をせき止めてしまっているらしい。
「その岩の大きさはどのくらいなのでしょうか?」
「5メイル程になります」
5メートルか……デカイな。
とりあえず現物見てみないと、どうしようもないから行ってみよう。
俺は村長に川まで案内してもらうことにした。
そして川に到着したわけだが……。
「これは……デカイな」
「村の男衆で引っ張ったり、ハンマーで叩いたりもしてみたのですがビクともせず、領主様に嘆願書を出した次第でして」
確かに周囲にはロープやハンマーがいくつか転がっている。
でもこの岩には少し小さすぎるし、少なすぎる。
とりあえず俺は村長に色々試してみることを伝えて、下がっていてもらうことにした。
この大きさの岩を壊せそうなのはポケモンか装備、魔法だろうけど……俺の魔法でやれるか?
とりあえず試してみるか。
「ロックスピア!」
岩を囲むように石の槍が突き刺さっていく。
だが水の中なのがいけないのか、如何せん勢いが弱い。
50センチくらいしか刺さらなかった。
「これは5回じゃきついか?
ならどうする……」
流石にポケモンは使えない。
ならできることは装備か?
誰を装備すればいい……俺が水と土のメイジということは知られているから水か土っぽいやつかな。
いや、待てよ?
ポケモンにちょうどいい技が無かったか?
「(そうだ! ‘いわくだき’があるじゃないか!)」
格闘なのが少しネックだが、村長には目を瞑っていてもらうことにしよう。
なら装備するモンスターは決まってくる。
ある程度余裕をもって壊せるようにしたいから、力士のような見た目をしたポケモンのフドウ(ハリテヤマ)!
お前に決めた!!
俺は体の中にハリテヤマを召喚するイメージをして、岩の前へと立った。
「レッド様一体何を?」
「これから僕がこの岩を砕きますから、村長は目を瞑っていてください。
あまり人に見せたい技ではないもので……」
「!?……分かりました」
村長はそう言って目を瞑ってくれた。
俺は村長が目を瞑っているのを確認し、改めて岩の前へと立った。
足はどっしりと地面を捉え、正拳突きを打つ構えをしてゆっくりと深呼吸した。
左の拳を岩に軽く当て、右の拳を腰だめに構える。
「(準備は出来た…後は打つだけだ!!
行くぞ!‘いわくだき’)ハッ!!」
強く息を吐くのと同時に、右の正拳突きを岩へと放った。
その結果、岩は轟音と共に四散した。
「何が起こったのですか!?」
村長が目を開けて駆け寄ってきた。
そして目の前に転がる岩の破片を目にして、驚いていた。
「魔法では……ないのですか?」
「いえ魔法ですよ?」
「ですが呪文を唱えていらっしゃらなかった!」
「僕は村に入る前から、土の魔法で身体強化を行っていたため、呪文は無くても大丈夫だったのです」
「ならば何故最初からこの方法を取らなかったのですか?」
「いえ……怖いでしょう?
小さな子供が大きな岩を素手で壊す光景。
僕は村の人に怖がられたくない。
魔法も確かに怖いですが、この方が直接的だ」
「……」
「触られればさっきの岩のように殺されてしまうかもしれない。
そんな風に思ってしまう。
僕はそう思われたくない……」
「大丈夫ですよ」
「え?」
「レッド様は先ほど私の家で何事もなくご飯を食べていたじゃないですか。
木の食器を持ち、パンを食べていたじゃないですか。
ということは力を完全に抑えることができるということになります。
ならば何も怖くはありません」
村長はそういうと、俺の手を優しく握った。
何故か涙が出てきた。
土の魔法と言ったが実際は装備という異能。
装備のことを打ち明けたわけではないが、それが及ぼす結果を見て怖がらないでいてくれた。
この世界において異端審問にかけられる可能性があるこの力を、認めてくれた。
嬉しかった。
俺は涙を流したまま一言言った。
「ありがとう」
カトレアさんの誕生日から一カ月。
最近自分は近接戦闘に自分の反射神経をもっと生かせないかと考えていた。
確かにマインゴーシュは使い勝手がいいんだが、攻撃力に欠ける。
そこで思い浮かんだのは、前世で小学校の頃から中学校の初めまで習っていた極真空手の存在。
あれに漫画とかの技で使えそうなのを組み込んではどうかというもの。
この世界に明確な格闘の流派というものが存在するかどうか分からないが、初めての相手ならば意表を突けるだろう。
俺はそう思って森に行く時に、記憶を探りながら空手の練習をした。
正拳突きは、拳を握る際に出来る限り小さな拳を作るように力を込めて握る。
拳を当てるときは、人差し指と中指の部分が初めに当たるように。
片方の拳を突き出す際に、もう片方の手の平が上を向くように自分のわき腹横のあたりに拳を引く。
そして拳を半周させながら出している拳を引き、もう片方の拳を勢い良く突く。
これが俺が昔ならった正拳突きの型。
しかしこれではノーガードにもほどがある。
試合ですら構えは、ボクシングに近い形をしているのだ。
まぁ足は違うが……空手において足技は必殺に近い。
頭部に蹴りが当たると技ありとなり、倒れると一本となる。
小さいころ大人の空手の試合をみたとき、ヘッドギアが無かったので、拳で相手の顔は切れるし、蹴りで青あざができるといった大分ショッキングな試合が多かった(試合後とかは畳に血痕が残ってたりするから、微妙に引いていたのは記憶に残っている)。
故に蹴りのガードを意識しなければならないのだ。
しかしこちらの世界においてその程度なら、命をかけた戦闘に使用するには力不足。
最低でも板垣漫画クラスの攻撃力が無ければ……。
そこで考えたのが俗にいう中高一本拳や抜き手の使用。
抜き手は中国拳法でも使われている程使い勝手の良いものだが、鍛える際に突き指や骨折などが絶えないため使いこなすのが難しい。
中高一本拳も同様、あれは親指を中指の第二関節に当てた状態で拳を握るため親指に掛かる負担が大きい。
そして防御面では自分の反射神経を最大限に使って行う、無刀取りやまわし受けも要練習となる
そして肝心な怪我に対しての対応だが、俺には装備がある。
自己再生、光合成などの回復技を行使すれば大丈夫のはずだ。
攻撃力を強化してしまっては修行にならないため、ユンゲラー辺りが妥当か?
そして格闘技を用いた戦闘に魔法を組み込むことを考えるとバリエーションは増えていく。
そのためには先ず指輪を杖代わりに出来るようにしないといけないな。
そうして俺はどんどん戦闘技能向上させていく。
いつかのんびりできることを目指して……。
そんなこんなで半年が経った。
空手も少しずつ形になってきて、抜き手や中高一本拳で木を凹ませる位は出来るようになった。
前世に比べて筋肉の成長速度が速いが、ラノベ仕様だと納得することにした。
まわし受けは、まだ練習方法の確立が出来ていないので習得出来きっていないが、無刀取りは相性が良かったのか割とすぐ出来た。
何故出来ることが分かったかというと、一回父さんとの模擬戦でうっかり使ってしまったからな訳だ。
あのときの父さんの顔は記憶に残っている。
驚愕と唖然……後に激怒。
まぁ危ないからね?
剣を持った相手には極力使わないよう厳命されてしまった……。
たぶん守れないけど極力使わないようにしよう。
そして実際に使ってみてわかったんだけど「別に剣を挟む必要なくね?」と感じたため、鉄板入りの手袋をつけて拳で剣の腹を殴るようにしてみた。
腕を切られる恐れが大きくなったが、これが予想以上にやりやすかった。
また父さんに怒られたが、若干呆れの方が大きくなった気がする。
この手袋をすると中高一本拳が使いにくいが、防御力は上がる。
いつか使い勝手のいいガントレットでも買おうかな?
そんな父さんからの眼が段々痛くなってきた俺ですが、なんとついに領内を見回ることに!!
やっと……やっと人との触れ合いができる!!
ヴァリエール家は別だよ?
カトレアさんやルイズ嬢とは少し仲良くなったけど、それ以上にあそこは死亡フラグの山なのだ!!
でもなぁ、せっかく仲良くなったしなぁ。
ルイズ嬢はかなりの危険を伴うから程々にしないといけないけれど、カトレアさんなら友達になっても大丈夫なんじゃないか?とか俺の判断基準はどんどん甘くなってきていた。
そんなことはさておき、今回領内を見る理由は川が土砂で遮られてしまったらしく、それをどうにかしてきなさいと父さんから依頼されたため。
俺はこれを機に領民とコミュニケーションを取って、仲良くなろうと考えていた。
まぁ両親は基本平民差別とかしない人なので領民から怖がられたりはしないだろうけど、俺としてはフレンドリーには話かけてきたりして欲しい。
故にこの依頼は渡りに船だった。
俺は意気揚々と問題の川のある村へと向かった。
しばらく進むと村が見えてきた。
自然とテンションが上がる俺。
俺は村の手前でフライを解き、歩いて中へと入って行く。
服装で貴族と分かったのか村人が少しビクビクしていたが、軽く会釈をすると驚いたように固まっていた。
何か面白かったから、目があったら基本会釈をすることにした。
まぁこの世界の貴族の多くは目が合う→いちゃもんをつける→平民人生終了っていうこともあるぐらいだから驚くのは無理もないのか?
そして俺は川を直しに来たことを村長に伝えるため、村長宅へと向かった。
「レッド様、ようこそラッセル村へ」
村長は人の良さそうなお爺さんだ。
俺が家の中に入るとその村の特産品である麦を使ったパンを御馳走してくれた。
少し硬かったが、麦の味とスープが良く合っていて美味しかったと思う。
「ごちそうさまでした」
「いえいえ、こちらこそ貴族様にお出しするには貧相なもので申し訳ないです」
「お気になさらないでください。
それにとても美味しかったですし……
ところで川がせき止められてしまったと聞いたのですが?」
俺がそう言うと表情を少し悲しそうな顔へと変えて、川がせき止められてしまった理由を語ってくれた。
どうやら先日振った雨で大きな岩が崖から落ちてきてしまい、それが川の一部をせき止めてしまっているらしい。
「その岩の大きさはどのくらいなのでしょうか?」
「5メイル程になります」
5メートルか……デカイな。
とりあえず現物見てみないと、どうしようもないから行ってみよう。
俺は村長に川まで案内してもらうことにした。
そして川に到着したわけだが……。
「これは……デカイな」
「村の男衆で引っ張ったり、ハンマーで叩いたりもしてみたのですがビクともせず、領主様に嘆願書を出した次第でして」
確かに周囲にはロープやハンマーがいくつか転がっている。
でもこの岩には少し小さすぎるし、少なすぎる。
とりあえず俺は村長に色々試してみることを伝えて、下がっていてもらうことにした。
この大きさの岩を壊せそうなのはポケモンか装備、魔法だろうけど……俺の魔法でやれるか?
とりあえず試してみるか。
「ロックスピア!」
岩を囲むように石の槍が突き刺さっていく。
だが水の中なのがいけないのか、如何せん勢いが弱い。
50センチくらいしか刺さらなかった。
「これは5回じゃきついか?
ならどうする……」
流石にポケモンは使えない。
ならできることは装備か?
誰を装備すればいい……俺が水と土のメイジということは知られているから水か土っぽいやつかな。
いや、待てよ?
ポケモンにちょうどいい技が無かったか?
「(そうだ! ‘いわくだき’があるじゃないか!)」
格闘なのが少しネックだが、村長には目を瞑っていてもらうことにしよう。
なら装備するモンスターは決まってくる。
ある程度余裕をもって壊せるようにしたいから、力士のような見た目をしたポケモンのフドウ(ハリテヤマ)!
お前に決めた!!
俺は体の中にハリテヤマを召喚するイメージをして、岩の前へと立った。
「レッド様一体何を?」
「これから僕がこの岩を砕きますから、村長は目を瞑っていてください。
あまり人に見せたい技ではないもので……」
「!?……分かりました」
村長はそう言って目を瞑ってくれた。
俺は村長が目を瞑っているのを確認し、改めて岩の前へと立った。
足はどっしりと地面を捉え、正拳突きを打つ構えをしてゆっくりと深呼吸した。
左の拳を岩に軽く当て、右の拳を腰だめに構える。
「(準備は出来た…後は打つだけだ!!
行くぞ!‘いわくだき’)ハッ!!」
強く息を吐くのと同時に、右の正拳突きを岩へと放った。
その結果、岩は轟音と共に四散した。
「何が起こったのですか!?」
村長が目を開けて駆け寄ってきた。
そして目の前に転がる岩の破片を目にして、驚いていた。
「魔法では……ないのですか?」
「いえ魔法ですよ?」
「ですが呪文を唱えていらっしゃらなかった!」
「僕は村に入る前から、土の魔法で身体強化を行っていたため、呪文は無くても大丈夫だったのです」
「ならば何故最初からこの方法を取らなかったのですか?」
「いえ……怖いでしょう?
小さな子供が大きな岩を素手で壊す光景。
僕は村の人に怖がられたくない。
魔法も確かに怖いですが、この方が直接的だ」
「……」
「触られればさっきの岩のように殺されてしまうかもしれない。
そんな風に思ってしまう。
僕はそう思われたくない……」
「大丈夫ですよ」
「え?」
「レッド様は先ほど私の家で何事もなくご飯を食べていたじゃないですか。
木の食器を持ち、パンを食べていたじゃないですか。
ということは力を完全に抑えることができるということになります。
ならば何も怖くはありません」
村長はそういうと、俺の手を優しく握った。
何故か涙が出てきた。
土の魔法と言ったが実際は装備という異能。
装備のことを打ち明けたわけではないが、それが及ぼす結果を見て怖がらないでいてくれた。
この世界において異端審問にかけられる可能性があるこの力を、認めてくれた。
嬉しかった。
俺は涙を流したまま一言言った。
「ありがとう」