第152話 二振りの剣
先程までの職人的な雰囲気を一変させ、どう見ても高級商店の店主の出で立ちで挨拶をするナッシュさんの姿にポカンとしているタバサを尻目に会話は始まる。
「先程の話では短剣とレイピアをご所望との事でしたね。
何か要望はありますか?」
「短剣はある程度丈夫で軽いもの。
レイピアは丈夫さだけを重視したものをお願いします」
「分かりました。
では二階へどうぞ」
そう言ってナッシュさんは俺たちの前を歩き始めた。
前に来た時は余りゆっくり見れなかったから、今回はじっくり見るとするか。
俺は我に返ったタバサを連れて、二階の階段を上っていく。
「彼は……どうしたの?」
「ん? あぁ、ナッシュさんの事?
あの人が貴族だったのは聞いた通りなんだけど、その頃に売り込みに来た商人の対応がとても丁寧でとても好感が持てたらしくて、その人を手本としているらしい」
「そう」
決して長くない階段を登り切り、剣のマークがついた扉を開けた二人を迎えたのは先を歩いていたナッシュさんと部屋いっぱいの武器達。
二人は見るからに上質な武器に目を取られるがナッシュさんが一つ咳払いをすると、彼の手に握られる二振りの剣が目に入る。
それはとてもシンプルな二本。
武骨な柄に緑色の宝石と思われる石が一つ埋め込まれた短剣と、鈍色一色のレイピア。
どちらも一目見ると安物に見える剣だが、何故か目が離せない。
「一先ず気に入って戴けたようですね」
「……何か特殊な加工を?」
「戯れ程度のものですが施しています。
ですが丈夫さは折り紙つきですよ。
今からこの二振りの性能を説明させてもらいます。
まずはこちらの短剣から、この剣は……」
掻い摘んで説明すると、材質は上質の金属をナッシュさんが独自の割合で配合した合成金属で作られているらしい。
剣同士で打ち合っても刃こぼれを起こしにくく、受け流すことに主点を置いた剣とのこと。
「さらにこの剣には一つ面白い仕掛けが付いていまして……」
「仕掛け?」
店主の言葉に食いついたのはタバサだった。
もしかしたら自分が使うことになるかも知れないものだからこそ、一つの情報も聞き逃す気は無いようだ。
「この剣についている石、これは宝石じゃなく風石でして、この風石の魔力を解放することで柄と刃の間 に圧縮された風が送り込まれる仕組みになっているんです」
「ということは?」
「そう! あるキーワードを言えば、この剣の刃は凄まじい速さで飛んで行くでしょう」
「でも射出した後無防備になる……」
「そのために付け替え用の刃は用意してありますし、射出後に回収していただければ再利用も出来ます」
そう言って棚から布に包まれた刃の部分を五本取り出して、カウンターの上に広げた。
どれも見劣りしない出来で付け替えるために作られたものなのだろう。
「この風石はどの位の許容量を持っているの?」
「トライアングルスペル相当……と言いたいところですが、ラインスペル二発分がこのサイズでは限界でした。
それでも、刃を飛ばすだけに用いるのなら十回以上使用しても問題ありません」
「それは凄い」
感心したように首を縦に振るタバサ。
そんな彼女を見て、制作者でもあるナッシュさんも嬉しそうだ。
これで短剣の説明は終わったのか、一旦机の上にそれを置いてレイピアを手に取った。
「続いてこのレイピアについて説明させていただきます」
「よろしくお願いします」
「あらかじめ言っておきますと、このレイピアに特殊な仕掛けは付いていません」
「え、そうなんですか?」
俺としては、さっきの短剣みたいな隠し機能みたいなものがあるもんだと思っていたんだけど……。
じゃあ一見普通の剣に見えるこのレイピアが何故こんなに気になるんだ?
「このレイピアの特徴は、その丈夫さにあります。
決して折れず、曲がらず、歪まない。
そう言えるだけの頑丈さを持つ剣なのです。
そしてサイズも一般的なレイピアよりも大きく、どちらかと言えばエストックに近い事もこの剣の特徴と言えます」
「確かにレイピアにしては大きい」
レイピアは基本的に全長120cm以下が一般的なのだが、この剣は150cmはある。
剣幅も広く出来ているようだ。
「扱うのに少し力が必要ですが、その分鎧を貫くほどの貫通力を持っている剣です。
この剣は刺突用の剣の中では私の最高傑作とも言える出来のものですが、見た目が地味だからか手に取る人がいませんでした」
「確かに、貴族向きじゃない剣ですね」
「ですがレッド様はそんなこと気にしないでしょう?」
そう言って俺に不器用なウィンクを飛ばすナッシュさん。
それがコミカルで俺は吹き出しそうになったけど何とか耐え、説明の続きを頼んだ。
「この剣がとても丈夫であると言いましたが、その理由について説明をしていませんでしたね。
この剣は鉱石の他にある生物の素材を使って作ったもので、私が試行錯誤を繰り返し、失敗に失敗を重ねて、奇跡的に出来たものと言える一品」
「ある生物ってなんですか?」
「地竜の牙です」
「はぁ!?」
地竜は竜と名のつくだけあり、その戦闘能力は非常に高い。
しかし戦闘能力だけで言えば火竜に劣るし、飛行速度は風竜に比べると全然遅い。
ならば何故火竜を倒した事がある俺が驚いたかと言うと……その身体の硬さが異常だからだ。
中でも爪と牙は特に硬く、スクウェアスペルでも傷すらつかないという異常っぷり。
倒すこと自体は不可能な相手じゃないが、守りに入った地竜の厄介さは尋常じゃないと言われている。
ちなみに個体数が少ない上に温厚な性格故に敵対することは殆どないので、戦う機会はまずない。
俺は会ったこと自体ないわけだが……。
「どうやって折ったんですかあんなもの!?」
「私がやったわけじゃありませんよ?
ただ特殊なルートで流れてきたものを買い取っただけですから」
「だとしても加工なんて出来るものなんですか?」
「時間をかければ、出来ないことはありません。
それに……私は職人ですから」
ナッシュさんは確固たる自信を秘めた笑顔で俺にそう言った。
なんか漢って感じで、二—ナさんが惚れた理由が分かった気がするな。
地竜は原作に出てきたのだろうか?
俺の原作知識が途中までしかない上に、主な知識源が結構前に発売された設定資料集なため、もし新しくでていたら分からないっていう……
あぁ、剣の説明を一応しておきます
レイピアっていうのは有名だから知っているかもしれませんが、片手用の刺突特化の剣です
エストックというのは、両手用の刺突特化剣で鎧通し的な使い方をされていた剣です
短剣のギミックについてはなんかトライガンの侍さんを思い出したので付けちゃいました
実際できなくはないと思いますので……