外伝 その頃彼女たちは……
〜ルイズ side〜
兄様今頃何処で何しているのかしら……兄様分が不足してきている気がするわ。
最近兄様と一緒に食事を取っていないし。
今日も何処かに出かけてるらしいけど……もしかして誰かとデート!?
そう言えば今日はタバサもいなかったわね。
もしや!?……いやいや、考えすぎよね。
でも、最近あの娘兄様との距離が近い気がするわ。
……ちぃ姉様に相談してみようかしら。
「おーい、ルイズ。
昼飯食べに行かないのかぁ?」
「そんなに急かさなくても行くわよ!」
「じゃあ早く行こうぜ!
俺はもう腹が減って減って」
そういうサイトの顔はだらしなく緩んでいる。
どうせ厨房であのメイドと乳繰り合うことでも考えてるんでしょうね……こっちは最近兄様とじっくり話す時間すらないっていうのに!
……やっぱり教師って忙しいのかしら?
「アンタはどうせあのメイドとイチャイチャしたいだけなんでしょ!
全く、発情するなら私の見えない所でしてよね!」
「い、イチャイチャって……そ、そんな、俺とシエスタはそんな仲じゃ……」
いや、アンタ一回鏡見てきた方がいいわよ?
顔がクックベリーみたいな色になってるんだけど。
テレてるんだろうけど、その動きは止めた方がいいと思うわ。
「まぁ、良いわ。
ほら、お昼食べに行くんでしょ!
クネクネしてないで食堂行くわよ!」
「でも、そっかぁ……俺とシエスタはそんな風に見えてたのかぁ……エヘヘヘヘ」
私は大きなため息を一つ吐くと、サイトをそこに置いたまま食堂に向かうことにした。
あの状態のサイトと一緒に居るのはちょっと嫌だし……まぁ後で来るわよね。
はぁ……兄様早く帰ってこないかなぁ。
〜カトレア side〜
もう! お父様は心配性なんだから……少し食事の時に咳が出ただけなのに、お医者様まで呼んで大騒ぎする必要なんてないのに。
あんまり騒ぐものだからお買いものから帰ってきたお母様に怒られてしまってましたね。
でもお母様、お父様が壁に埋まってしまっているのだけれど、大丈夫なのでしょうか?
え、呻き声が聞こえるから大丈夫?……そ、そうですか。
何故かここから離れろと本能が囁くので私は部屋に戻る事を決めた。
部屋に戻った私はお友達達のお食事を見ながら思いに耽る。
「レッド君は今頃何をしているのかしら……。
手紙も暫く届いてないし、最近は物騒みたいだから心配ね」
私は膝元に居たウサギさんを撫でながら彼を思う。
「けれどレッド君もレッド君よね。
幼馴染なのだから、もっと会いに来てくれてもいいのに……あ、でもルイズが休みに彼を連れてくるって言っていたから、その時に今まで会えなかった分我儘言っちゃおうかしら?」
私は彼が今まで呼んでくれたポケモン達を思い出していく。
次に会うときはどんな子を紹介してくれるかしら?
彼と会った時の事を想像していると、私は自身の頬が勝手に緩んでくるのを止められなくなった。
でもいくら連絡が来ないからといって私だけが我儘言うのは申し訳ない……そうだ、家に来た時に歓迎会を開きましょう!
「そうと決まればお母様にも相談しないと!」
私は膝の上からウサギさんを下して立ち上がると、少し早足でお母様の元へ歩き始める。
お友達達が後ろで顔を見合せながら首を傾げてた様だけれど、私の目にその愛らしい光景は入っていなかった。
〜エルザ side〜
「おじいさん、今日のお昼は何がいい?」
「ワシはエルザが作ってくれたものなら何でもいいよ」
「もう! ‘何でもいい’が一番困るんだからね!」
私は頬を膨らませながら台所に立つ。
まったく……おじいさんはいっつも何でもいいっていうんだから!
籠の中のパンを二つ取りパンを火で炙る。
今日の献立はパンとお芋のスープ、そして薄く斬ったお肉を焼いたもの。
肉は昨日村の人が狩って持ってきたウサギの肉だ。
ちなみにウサギだけど、料理前に血抜き代わりに私が少しだけ吸血した。
やっぱり死んだ後の血よりも生きている時の血の方が美味しかったなぁ。
そんな事を考えながらパンを焼き終えた私は、ウサギを解体していく。
解体を終えると、次は茹でたお芋をすり潰す作業に入る。
そしてミルクに塩コショウで味をつけて、すり潰したお芋をお鍋でミルクと一緒にトロトロになるまで煮込む。
それと同時進行でお肉を炙り始める。
私は血が滴る位のレア、おじいさんはミディアムが好みなので、結構火力に気を使わなきゃいけないから大変だ。
料理を始めて小一時間でやっと昼食を作り終わり、料理を持って私もおじいさんと一緒に食卓に着く。
「おぉ! 今日も美味しそうだ」
「もう……そんな事を言ったって何にも出ないんだからね!」
そういっておじいさんのお皿に少しだけ多めにお肉を載せる。
いつも言われているけれど、やっぱり褒められるのは嬉しいからね!
私は顔に出ないようにしているつもりなんだけど、おじいさんは微笑ましいものを見たとでも言うように笑顔で私を見ている。
少しだけ恥ずかしくなり、おじいさんから眼を逸らす。
「そういえば今頃ヘイさんは何をやっているのだろうね?」
「い、いきなり何でヘイの話が出てくるの!?」
「いや、エルザも久しぶりに会いたいんじゃないかと思っての」
「そ、それは………会いたいけど……。
でもヘイってガリアの人じゃないんでしょ?
何処に住んでいるのかも分からないのに会うことなんてできないわ」
「確かにそうかも知れんが、チャンさんに手紙を渡しておけばヘイさんに会ったときに渡してもらえるんじゃないかい?」
「そっか! チャンに手紙を渡してもらえばよかったんだ!」
直接会うことばかり考えていて手紙を思いつかなかった私にとって、その提案は非常に魅力的な案だった。
ただし一つだけ問題があるんだよね。
「でも私手紙なんて書いたことない……」
「大丈夫だよ。
手紙と言うのは自分の気持ちや思いをしたためる物。
書き方や体裁なんていうものは二の次なんだ。
エルザの気持ちを素直に書けばそれでいいんだよ」
「ホント?
変に思われないかな?」
「大丈夫、ヘイさんはそんな人じゃないってこと位、エルザもわかっているだろう?」
「でも不安なものは不安なの!
あ、そうだ! 書き終わった手紙をおじいさんに渡すから、変なところがないか確認してくれる?」
「ワシが読んでもいいのかい?」
「ちょっと恥ずかしいけど、おじいさんならいい」
「そうか……わかった。
じゃあコレに書いてくるといい」
私は少しだけ熱を持った顔を押さえながら、おじいさんが机の引き出しから出した紙とペンを受け取る。
昼食を食べ終わった私は心なしか足取り軽く、自分の部屋に戻って手紙の中味を考え始めた。
おじいさんはそんな私の背中をずっと笑顔で見守っていた。