第25話 少女の悩み
母さんとマルギッテさんは、俺とモンモンそっちのけで昔話に花を咲かせている。
所々聞こえる、窒息や潰すという単語は聞き流すことにした。
一つ思ったのは、この二人マジ怖ぇ!
「えっと……あの……」
「どうかしたの?」
モンモンが俺に話しかけてきてくれたのは正直助かった。
あの二人の会話が怖すぎて、聞きたくなかったところだ。
でもどうしたのだろうか?
「あの……なんであんなに頑張るんですか?」
「え? なんのこと?」
「魔法の……練習をです」
「あぁ、僕には夢があってね」
「夢ですか?」
「うん、僕はね! のんびり暮らしたいんだ!」
「え!? それだったら何であんなに厳しい練習をするんですか?」
「確かに厳しかった……っていうか君のお母さんが怖かった」
「それは……ごめんなさい」
「でもこの修行は、いつか自分のためになる。
幾らのんびり暮らしたいといっても、絶対的平和なんてありえない。
貧困や差別がある限り、争いは消えないし、それに巻き込まれる可能性が出てくる。
その時僕は最低限自分の大切な人を守れる強さがなければ、のんびりできない。
心配でそれどころじゃないからね」
「……」
「だから僕は今自分を鍛える。
いつ力が必要になるかわからないのだから。
これが僕の頑張る理由」
「凄いですね……」
「(凄いって言うか未来に戦争がありそうだから鍛えないと即死亡する可能性があるからね)
凄くは無いと思うよ?今かっこつけた事言ったかもしれないけど、僕は最低限敵から逃げきれるだけの力があればいいと思うし、そのためなら他人を見捨てることも厭わない。大切な人1人と100人の他人だったら僕は迷わず1人を選ぶよ」
少しの沈黙の後モンモンは少し下を向いて呟いた。
「それでも凄いです。
しっかり自分の夢を持って、それに向かって行動してますから……。
それに比べて私は!」
「!?」
いきなり顔をあげ、机を叩いたモンモンの目には涙が浮いていた。
母さんとマルギッテさんもいつの間にか、俺とモンモンを見ていた。
「私は何も出来てない! 魔法もまだドットスペルも満足に使えないし、頭も良くない!
体が強いわけでもなく、顔だって私より綺麗な子はいっぱいいる!
唯一水の秘薬を作るのが少し得意なくらい……私だってお母様みたいに凄い水メイジになりたいと思ってるのに!!」
「……そっか。じゃあ僕はそれを聞いてなんて言えばいいかな?
頑張っていればいつか成れるとでも言えばいいのかな?」
「ッ!?」
俺はその時静かにキレていた。
マルギッテさんが俺にものすごい殺気を送っているのにも関わらず、俺は口を止めることが出来ない。
「確かに君は天才じゃないのかもしれない、秀才ですらないのかもしれない。
でも君は努力したのか?
あぁ確かに君は努力したんだろう。
でも結果がそれについてこないからって卑屈になるな! 諦めるな!!
魔法がうまく使えない? ならもっと練習しろ! それでも駄目なら工夫をしろ!!
頭の良し悪しなんて何を基準に言っている! 君の母さんか?
それなら君はマルギッテさんを侮辱している!
たかだか6年生きたくらいの子供に、20年以上生きた人の知識や経験に届くものか!」
なんか殺気が増した気がする。
あれ? 母さんからも殺気を感じるぞ?
「体が弱いなら鍛えろ! 顔が綺麗? そんなものは飾りだ!」
「………」
「そして水の秘薬を作るのが得意って言っていたな!
俺は秘薬なんて作れない!! ならば俺はその点において君よりも劣っているぞ!
俺にとっては君は俺よりも年下なのに、水の秘薬を作れる凄い女の子じゃないか!」
「グスッ……」
「自分の悪いところばかり見るんじゃない!
いいところもちゃんと評価して、そこを伸ばせば君は誰にも負けない一つを持つことが出来る!」
「うわーーーーーーーーーーーーん」
モンモンは泣きだしてしまった。
そしてそれと同時に一気に熱が冷める俺。
ヤバい……こちとら22歳の脳みそもった状態で、ここまで来てやっとラインだって喜んでたのに、6歳でドットスペル完璧ではないのかもしれないけど使える。
頭だってそうだ、俺は6歳でこんな思考が出来たか?
体が弱い? この世界でメイジは鍛えないのがデフォじゃなかったか?
自分より綺麗なやつがいる?
上探したら上限なんて見えるわけがないじゃないか。
秘薬作れるだけでも凄いだろ。
俺化学の成績赤だったから、教科書読んでも理解できないことばっかだったぞ!?
未だにあんまり理解できないのに……そんな人が卑屈にならないでくれ。
俺が鬱になりそうだよ……。
俺が我に返り、冷静になってみると言い方が厳しかったのではないかと後悔し始めた。
モンモン泣いてるし……。
そんな俺の肩を叩く二本の手。
……振り向きたくない。
振り向いたら絶望しかない!
しかしそんなのは関係ないようだ。
「貴様、随分家の娘に好き勝手言ってくれたじゃないか、ん?」
「レッド? 女性の年齢についてはタブーって口が酸っぱくなる程教えたわよね?」
あぁ鬼が……鬼がいるよ。
「(俺生きて戻れるかな?)」
俺は二人の鬼に家の裏側へと引きずられていた。
モンモン……戻ってきたときに泣き止んでいるといいな。
俺戻れるかわからないんだけど。
しばらくの間Z指定級のお仕置きを受けた俺は、足を引きずりながらモンモンの元へと戻った。
彼女は泣き止んでいたが、目は充血していて、少しむくんでいる。
モンモンは少し恥しそうに、お礼を言うと屋敷に戻っていった。
一瞬思い出せなかったが、俺説教したんだっけ?
あのお仕置きが大ダメージすぎて記憶が少し飛んでたよ。
しかもいつの間にかあの二人戻ってきてるし……。
「レッド、ありがとう」
「え?」
「確かにお前の言い方は良くなかった……だがお前があの子を気遣ってくれたのは伝わった」
「(気遣ったって言うか、自分が耐えられなかっただけなんだけど。)そうですか……良かったです」
「あの子が悩んでいたのは知っていたのだが、私には話してくれなくてな。
今回の件で悩みの内容は理解した。
私の方でも少し話してみることにする」
「それがいいと思います。 俺なんかの言うことよりも、マルギッテさんの言うことの方が説得力がありますからね!」
マルギッテさんは俺の言葉に苦笑し屋敷へと戻って行った。
母さんはもう帰る準備が出来ており、マルギッテさんに別れの挨拶も済ませていたようだ。
俺と母さんは馬車に乗り、モンモランシ邸を振り返った。
するとモンモランシ邸の窓が一カ所開いていて、何かが揺れている。
目を良く凝らしてみると、モンモンが手を振ってくれていた。
俺は少し嬉しくなり、大きく手を振り返した。
そして俺とモンモンは、互いが見えなくなるまで手を振り続けた。
母さんとマルギッテさんは、俺とモンモンそっちのけで昔話に花を咲かせている。
所々聞こえる、窒息や潰すという単語は聞き流すことにした。
一つ思ったのは、この二人マジ怖ぇ!
「えっと……あの……」
「どうかしたの?」
モンモンが俺に話しかけてきてくれたのは正直助かった。
あの二人の会話が怖すぎて、聞きたくなかったところだ。
でもどうしたのだろうか?
「あの……なんであんなに頑張るんですか?」
「え? なんのこと?」
「魔法の……練習をです」
「あぁ、僕には夢があってね」
「夢ですか?」
「うん、僕はね! のんびり暮らしたいんだ!」
「え!? それだったら何であんなに厳しい練習をするんですか?」
「確かに厳しかった……っていうか君のお母さんが怖かった」
「それは……ごめんなさい」
「でもこの修行は、いつか自分のためになる。
幾らのんびり暮らしたいといっても、絶対的平和なんてありえない。
貧困や差別がある限り、争いは消えないし、それに巻き込まれる可能性が出てくる。
その時僕は最低限自分の大切な人を守れる強さがなければ、のんびりできない。
心配でそれどころじゃないからね」
「……」
「だから僕は今自分を鍛える。
いつ力が必要になるかわからないのだから。
これが僕の頑張る理由」
「凄いですね……」
「(凄いって言うか未来に戦争がありそうだから鍛えないと即死亡する可能性があるからね)
凄くは無いと思うよ?今かっこつけた事言ったかもしれないけど、僕は最低限敵から逃げきれるだけの力があればいいと思うし、そのためなら他人を見捨てることも厭わない。大切な人1人と100人の他人だったら僕は迷わず1人を選ぶよ」
少しの沈黙の後モンモンは少し下を向いて呟いた。
「それでも凄いです。
しっかり自分の夢を持って、それに向かって行動してますから……。
それに比べて私は!」
「!?」
いきなり顔をあげ、机を叩いたモンモンの目には涙が浮いていた。
母さんとマルギッテさんもいつの間にか、俺とモンモンを見ていた。
「私は何も出来てない! 魔法もまだドットスペルも満足に使えないし、頭も良くない!
体が強いわけでもなく、顔だって私より綺麗な子はいっぱいいる!
唯一水の秘薬を作るのが少し得意なくらい……私だってお母様みたいに凄い水メイジになりたいと思ってるのに!!」
「……そっか。じゃあ僕はそれを聞いてなんて言えばいいかな?
頑張っていればいつか成れるとでも言えばいいのかな?」
「ッ!?」
俺はその時静かにキレていた。
マルギッテさんが俺にものすごい殺気を送っているのにも関わらず、俺は口を止めることが出来ない。
「確かに君は天才じゃないのかもしれない、秀才ですらないのかもしれない。
でも君は努力したのか?
あぁ確かに君は努力したんだろう。
でも結果がそれについてこないからって卑屈になるな! 諦めるな!!
魔法がうまく使えない? ならもっと練習しろ! それでも駄目なら工夫をしろ!!
頭の良し悪しなんて何を基準に言っている! 君の母さんか?
それなら君はマルギッテさんを侮辱している!
たかだか6年生きたくらいの子供に、20年以上生きた人の知識や経験に届くものか!」
なんか殺気が増した気がする。
あれ? 母さんからも殺気を感じるぞ?
「体が弱いなら鍛えろ! 顔が綺麗? そんなものは飾りだ!」
「………」
「そして水の秘薬を作るのが得意って言っていたな!
俺は秘薬なんて作れない!! ならば俺はその点において君よりも劣っているぞ!
俺にとっては君は俺よりも年下なのに、水の秘薬を作れる凄い女の子じゃないか!」
「グスッ……」
「自分の悪いところばかり見るんじゃない!
いいところもちゃんと評価して、そこを伸ばせば君は誰にも負けない一つを持つことが出来る!」
「うわーーーーーーーーーーーーん」
モンモンは泣きだしてしまった。
そしてそれと同時に一気に熱が冷める俺。
ヤバい……こちとら22歳の脳みそもった状態で、ここまで来てやっとラインだって喜んでたのに、6歳でドットスペル完璧ではないのかもしれないけど使える。
頭だってそうだ、俺は6歳でこんな思考が出来たか?
体が弱い? この世界でメイジは鍛えないのがデフォじゃなかったか?
自分より綺麗なやつがいる?
上探したら上限なんて見えるわけがないじゃないか。
秘薬作れるだけでも凄いだろ。
俺化学の成績赤だったから、教科書読んでも理解できないことばっかだったぞ!?
未だにあんまり理解できないのに……そんな人が卑屈にならないでくれ。
俺が鬱になりそうだよ……。
俺が我に返り、冷静になってみると言い方が厳しかったのではないかと後悔し始めた。
モンモン泣いてるし……。
そんな俺の肩を叩く二本の手。
……振り向きたくない。
振り向いたら絶望しかない!
しかしそんなのは関係ないようだ。
「貴様、随分家の娘に好き勝手言ってくれたじゃないか、ん?」
「レッド? 女性の年齢についてはタブーって口が酸っぱくなる程教えたわよね?」
あぁ鬼が……鬼がいるよ。
「(俺生きて戻れるかな?)」
俺は二人の鬼に家の裏側へと引きずられていた。
モンモン……戻ってきたときに泣き止んでいるといいな。
俺戻れるかわからないんだけど。
しばらくの間Z指定級のお仕置きを受けた俺は、足を引きずりながらモンモンの元へと戻った。
彼女は泣き止んでいたが、目は充血していて、少しむくんでいる。
モンモンは少し恥しそうに、お礼を言うと屋敷に戻っていった。
一瞬思い出せなかったが、俺説教したんだっけ?
あのお仕置きが大ダメージすぎて記憶が少し飛んでたよ。
しかもいつの間にかあの二人戻ってきてるし……。
「レッド、ありがとう」
「え?」
「確かにお前の言い方は良くなかった……だがお前があの子を気遣ってくれたのは伝わった」
「(気遣ったって言うか、自分が耐えられなかっただけなんだけど。)そうですか……良かったです」
「あの子が悩んでいたのは知っていたのだが、私には話してくれなくてな。
今回の件で悩みの内容は理解した。
私の方でも少し話してみることにする」
「それがいいと思います。 俺なんかの言うことよりも、マルギッテさんの言うことの方が説得力がありますからね!」
マルギッテさんは俺の言葉に苦笑し屋敷へと戻って行った。
母さんはもう帰る準備が出来ており、マルギッテさんに別れの挨拶も済ませていたようだ。
俺と母さんは馬車に乗り、モンモランシ邸を振り返った。
するとモンモランシ邸の窓が一カ所開いていて、何かが揺れている。
目を良く凝らしてみると、モンモンが手を振ってくれていた。
俺は少し嬉しくなり、大きく手を振り返した。
そして俺とモンモンは、互いが見えなくなるまで手を振り続けた。