第28話 精霊と伝説
ある日母さんに呼ばれ、母さんの部屋に向かうと笑顔の母さんが待っていた。
「ちょっとモンモランシ領まで行ってきなさい」
「え……えっとなんで?」
「マルギッテが呼んでるからよ?」
まさかの呼びだしキターーーーーーーーーーーー!!!!!
この呼び出しは全く嬉しくないぞ?!
まぁ確かにあの人の魔法訓練は為になるんだけど、翌日碌に動けなくなるんだよ?
しかもめっちゃ怪我するし……断れないんだろうけどね!
「でも行ってきなさいって事は、母さんは行かないの?」
「私は今日ちょっとお父さんとデー……お仕事があるのよ」
「(絶対今デートって言いそうになったな……) そうですか」
「い、いいから早く行ってらっしゃい!」
流石にそれは強引過ぎると思うのだが……別にいいんですけどね?
確かに日頃俺の訓練とかで時間使わせているから、それぐらい別に!
でも何でこのタイミングなんですか……。
マルギッテさんのストッパー役がいないと俺……あれ、あんまり変わらない?
はぁ、観念して行くとしよう。
今回は一人なので、馬車じゃなく馬による移動になる。
結構遠いから途中休憩挟まないと厳しいな。
俺はちょっと無理すればモンモランシ領までは一気に行くことが出来たのだけど、馬の体力と俺の尻が限界だったため近くにあった湖で休憩することにした。
「はぁ……馬車って偉大だったんだな」
この世界鞍はあっても、そこまで震動を吸収してくれる素材でもないので長時間乗馬してると尻が擦れる。
俺は痔になる恐怖に怯えながら、渇いたのどを湖の水で潤わせた。
顔を直接つけ、ゴクゴクと飲んでいると水面に波紋が出来る。
しかし何故か徐々に波紋が大きくなっていく。
違和感を感じ、俺は湖から少し距離を取って様子を見ることにした。
しばらくすると波は収まり、先ほどの静かな湖へと戻った。
だが次の瞬間湖の中心辺りが盛り上がってきて、徐々に大きな水の玉が浮き上がってきた。
水の玉はゆっくりとこちらに近づいてきている。
俺はヤバいと感じ、身を翻して逃げようとしたが、触手のようなもので足を掴まれた。
「ッ! 離せ!!」
「落ちつけ、呼びだす者よ」
「!?」
誰だ!?まさかこのスライムもどきか?
水の玉はどんどん脈動して、姿を変えていく。
しばらくして水の玉は、人の姿へと変化を遂げた。
……俺の裸の姿に。
「おい! それは嫌がらせか!?」
「何を怒っている、私は呼びだす者の姿を借りたにすぎない」
「それは別にかまわないが、服まで真似してくれ!!」
「そうか」
彼?は体を構成する水を使って、服を着ている俺の姿になってくれた。
「では話をしてもいいか?呼びだす者よ」
「その前に質問があるんだがいいか?」
「かまわない」
「何故俺を呼びだす者って呼ぶんだ?」
「それは貴様が異界の獣を呼びだすからに他ならない」
「!? 何故それを知っている!!」
「貴様がこの泉の水を飲むときに貴様の記憶を見たのだ」
ってことはコイツやっぱり水の精霊とかいう奴か。
また面倒なことになってきたな。
でも待てよ? ここでアンドバリの指輪について助言しておけば面倒事が少し減るんじゃないか?
「なら俺がこの世界の未来に起こるであろう出来事を知っているのも見たな?」
「見た」
「アンドバリの指輪のことも見たんだな?」
「盗まれる事になるようだな」
「じゃあ盗まれないように対策するんだよな!」
「対策?なぜそんなことをしなければならない。
取られたなら取り返せばよいだろう」
「いや……取られないようにした方が簡単だろう?」
「変わらない」
「いや面倒くさくないか?」
「変わらない」
コイツ、めちゃくちゃ面倒くさい!!
確かに価値観や考え方が違うのは知ってたけど、ここまで違うか。
じゃあ俺の方から頼んでみるか。
「頼む、アンドバリの指輪を取られないようにしてくれ!」
「分かった。 ただし条件がある」
「俺の出来ることなら……」
「そう難しいことではない。
呼びだす者が一体の獣を呼び出してくれれば、それでいい」
「獣……ポケモンのことか。 誰を呼び出せばいいんだ?」
「カイオーガと呼ばれる神獣」
「………え? マジで?」
「マジだ」
「いや流石にアイツは不味い。 他の子にしてくれないか?」
「駄目だ、カイオーガ以外は認めない」
まだ呼び出したことないんだが……だって海を広げるレベルの大雨降らすんだぞ?
しかも大きさも5メートル近くあるはず。
そんなもの軽々しく呼びだせるわけがないだろ!
「……どうしても他の子じゃ駄目か?」
「駄目だな、それが出来ないなら取られてから対応する」
頑固な子供かこいつは!!
対策するくらい別に問題ないだろうに……。
はぁ……ここは俺が折れるか。
「30秒だけでいいか?」
「会えるのなら問題は無い」
心なしか水の精霊が嬉しそうにしている気がした。
「(ふぅ、覚悟決めるか!) 来いカイオーガ!!」
今までの比較にならない大きさの光が現れ、そこから少しずつ青い巨体が現れていく。
そして出てくるにつれて空に暗雲が立ち込め、、雨が降ってくる。
完全に出てくる頃には、滝のような豪雨になっていた。
「(ヤバい、これは想像以上にヤバい!) カイオーガ、俺の隣に降りてきてくれ」
ゆっくりと俺の隣に降りてくるカイオーガ。
デカイ……羽があるクジラに見えなくもないが威圧感半端じゃない。
初めて見た人なんか気絶するか、崇め出すんじゃないか?
「おぉ、素晴らしい」
「なぁ、もう戻していいか?」
「駄目だ! ならん!」
あれ、コイツ口調変わってね?
俺は雨でビショビショになりながら、興奮気味の水の精霊を見ていた。
その後精霊は雨で広がった湖から、カイオーガの近くの水たまりまで移動し、撫でてみたり突いてみたりしていた。
まぁカイオーガはあまり気にしていにようだ……器がでかいな。
俺は流石に雨の量が気になってきたので、カイオーガを戻すことにした。
「もう限界だ戻すぞ?」
「もう少しだ! もう少しだけ!」
「いや、もうお前誰だ?! どっちにしろ駄目だ!
戻れカイオーガ!!
……今日はすまなかったな。」
俺はカイオーガを戻した。
還るときカイオーガは、首を小さく横に振ってから還って行った。
いい子だなぁ……デカイけど。
可愛いなぁ……デカイけど。
俺はまたいつか呼び出してあげたいなぁと思いつつ、静かになった精霊の方を向いた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「何これ怖い」
なんか最初の雰囲気はどこに行ったやら、四つん這いになってカイオーガの消えていった方に手を伸ばしている精霊がいた。
頼むから俺の姿でやるな!
なんにせよこれでアンドバリの指輪対策は出来たはずだ。
「約束通り指輪を取られないようにしてくれよ?」
「あぁ……わかった」
未だ落ち込んでいる精霊が流石に可哀想に見えてきた。
まぁ俺の都合で動いてもらうわけだし、少しサービスしてあげるとしますか!!
「今回だけだぞ……来いスイクン!!」
「な!?」
水の精霊自体は透き通った身体をしているが、さっきの大雨で湖が少し淀んでしまっている。
俺はそれを綺麗にしてもらうためにスイクンを呼びだした。
「貴様何を考えている?」
「スイクン、ここの湖を綺麗にしてくれないか?」
「そんなことのために呼びだしたのか!?」
「いや、なんとなく申し訳なくてな……」
「それくらいは自分でやる」
「いいから!」
俺はスイクンに目配せをして、綺麗にしてもらうように頼んだ。
それを分かってくれたスイクンは頷き、湖の四隅を飛び回る。
すると泥で濁っていた水がどんどん透明度を取り戻していき、3周もすると元の美しい湖に戻った。
一仕事終えたスイクンは俺の横へ跳んでくる。
200キロ近くある体重を持つスイクンは、何故か着地する時に音を立てることがない。
流石は伝説のポケモンと感心していると、水の精霊が俺の肩を叩いた。
「スイクンに触ってもいいか?」
なんか目を輝かせて聞いてきたので、ちょっと引き気味に許可を出すと、スイクンを思う存分撫で始めた。
スイクンが若干困った顔をしているが、少し我慢してもらおう。
……今度果物かなんかあげよう。
思う存分撫でまわし終えた精霊は、心なしか艶々している気がする。
逆にスイクンは少し疲れている。
……お疲れ様です。
「スイクンありがとうな?」
「また会おう」
俺と精霊はスイクンに別れを告げ、スイクンを還した。
「レッドよ……いつか必ず今回の礼をしよう」
「(あれ? 今俺の事名前で呼ばなかったか?)それは楽しみだな」
そうして水の精霊も湖の中へと戻っていった。
色々大変だったけど、有意義だったかな?
何か忘れてる気が……あ!
「俺マルギッテさんに呼ばれてたんだ!!!!」
行かないわけにもいかないし……ふぅ、逝ってきますか!
因みにトリステインの一部に突如降り始めた大雨は、アカデミーの研究者たちを大きく戸惑わせたのだが、それはまた別のお話。
ある日母さんに呼ばれ、母さんの部屋に向かうと笑顔の母さんが待っていた。
「ちょっとモンモランシ領まで行ってきなさい」
「え……えっとなんで?」
「マルギッテが呼んでるからよ?」
まさかの呼びだしキターーーーーーーーーーーー!!!!!
この呼び出しは全く嬉しくないぞ?!
まぁ確かにあの人の魔法訓練は為になるんだけど、翌日碌に動けなくなるんだよ?
しかもめっちゃ怪我するし……断れないんだろうけどね!
「でも行ってきなさいって事は、母さんは行かないの?」
「私は今日ちょっとお父さんとデー……お仕事があるのよ」
「(絶対今デートって言いそうになったな……) そうですか」
「い、いいから早く行ってらっしゃい!」
流石にそれは強引過ぎると思うのだが……別にいいんですけどね?
確かに日頃俺の訓練とかで時間使わせているから、それぐらい別に!
でも何でこのタイミングなんですか……。
マルギッテさんのストッパー役がいないと俺……あれ、あんまり変わらない?
はぁ、観念して行くとしよう。
今回は一人なので、馬車じゃなく馬による移動になる。
結構遠いから途中休憩挟まないと厳しいな。
俺はちょっと無理すればモンモランシ領までは一気に行くことが出来たのだけど、馬の体力と俺の尻が限界だったため近くにあった湖で休憩することにした。
「はぁ……馬車って偉大だったんだな」
この世界鞍はあっても、そこまで震動を吸収してくれる素材でもないので長時間乗馬してると尻が擦れる。
俺は痔になる恐怖に怯えながら、渇いたのどを湖の水で潤わせた。
顔を直接つけ、ゴクゴクと飲んでいると水面に波紋が出来る。
しかし何故か徐々に波紋が大きくなっていく。
違和感を感じ、俺は湖から少し距離を取って様子を見ることにした。
しばらくすると波は収まり、先ほどの静かな湖へと戻った。
だが次の瞬間湖の中心辺りが盛り上がってきて、徐々に大きな水の玉が浮き上がってきた。
水の玉はゆっくりとこちらに近づいてきている。
俺はヤバいと感じ、身を翻して逃げようとしたが、触手のようなもので足を掴まれた。
「ッ! 離せ!!」
「落ちつけ、呼びだす者よ」
「!?」
誰だ!?まさかこのスライムもどきか?
水の玉はどんどん脈動して、姿を変えていく。
しばらくして水の玉は、人の姿へと変化を遂げた。
……俺の裸の姿に。
「おい! それは嫌がらせか!?」
「何を怒っている、私は呼びだす者の姿を借りたにすぎない」
「それは別にかまわないが、服まで真似してくれ!!」
「そうか」
彼?は体を構成する水を使って、服を着ている俺の姿になってくれた。
「では話をしてもいいか?呼びだす者よ」
「その前に質問があるんだがいいか?」
「かまわない」
「何故俺を呼びだす者って呼ぶんだ?」
「それは貴様が異界の獣を呼びだすからに他ならない」
「!? 何故それを知っている!!」
「貴様がこの泉の水を飲むときに貴様の記憶を見たのだ」
ってことはコイツやっぱり水の精霊とかいう奴か。
また面倒なことになってきたな。
でも待てよ? ここでアンドバリの指輪について助言しておけば面倒事が少し減るんじゃないか?
「なら俺がこの世界の未来に起こるであろう出来事を知っているのも見たな?」
「見た」
「アンドバリの指輪のことも見たんだな?」
「盗まれる事になるようだな」
「じゃあ盗まれないように対策するんだよな!」
「対策?なぜそんなことをしなければならない。
取られたなら取り返せばよいだろう」
「いや……取られないようにした方が簡単だろう?」
「変わらない」
「いや面倒くさくないか?」
「変わらない」
コイツ、めちゃくちゃ面倒くさい!!
確かに価値観や考え方が違うのは知ってたけど、ここまで違うか。
じゃあ俺の方から頼んでみるか。
「頼む、アンドバリの指輪を取られないようにしてくれ!」
「分かった。 ただし条件がある」
「俺の出来ることなら……」
「そう難しいことではない。
呼びだす者が一体の獣を呼び出してくれれば、それでいい」
「獣……ポケモンのことか。 誰を呼び出せばいいんだ?」
「カイオーガと呼ばれる神獣」
「………え? マジで?」
「マジだ」
「いや流石にアイツは不味い。 他の子にしてくれないか?」
「駄目だ、カイオーガ以外は認めない」
まだ呼び出したことないんだが……だって海を広げるレベルの大雨降らすんだぞ?
しかも大きさも5メートル近くあるはず。
そんなもの軽々しく呼びだせるわけがないだろ!
「……どうしても他の子じゃ駄目か?」
「駄目だな、それが出来ないなら取られてから対応する」
頑固な子供かこいつは!!
対策するくらい別に問題ないだろうに……。
はぁ……ここは俺が折れるか。
「30秒だけでいいか?」
「会えるのなら問題は無い」
心なしか水の精霊が嬉しそうにしている気がした。
「(ふぅ、覚悟決めるか!) 来いカイオーガ!!」
今までの比較にならない大きさの光が現れ、そこから少しずつ青い巨体が現れていく。
そして出てくるにつれて空に暗雲が立ち込め、、雨が降ってくる。
完全に出てくる頃には、滝のような豪雨になっていた。
「(ヤバい、これは想像以上にヤバい!) カイオーガ、俺の隣に降りてきてくれ」
ゆっくりと俺の隣に降りてくるカイオーガ。
デカイ……羽があるクジラに見えなくもないが威圧感半端じゃない。
初めて見た人なんか気絶するか、崇め出すんじゃないか?
「おぉ、素晴らしい」
「なぁ、もう戻していいか?」
「駄目だ! ならん!」
あれ、コイツ口調変わってね?
俺は雨でビショビショになりながら、興奮気味の水の精霊を見ていた。
その後精霊は雨で広がった湖から、カイオーガの近くの水たまりまで移動し、撫でてみたり突いてみたりしていた。
まぁカイオーガはあまり気にしていにようだ……器がでかいな。
俺は流石に雨の量が気になってきたので、カイオーガを戻すことにした。
「もう限界だ戻すぞ?」
「もう少しだ! もう少しだけ!」
「いや、もうお前誰だ?! どっちにしろ駄目だ!
戻れカイオーガ!!
……今日はすまなかったな。」
俺はカイオーガを戻した。
還るときカイオーガは、首を小さく横に振ってから還って行った。
いい子だなぁ……デカイけど。
可愛いなぁ……デカイけど。
俺はまたいつか呼び出してあげたいなぁと思いつつ、静かになった精霊の方を向いた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「何これ怖い」
なんか最初の雰囲気はどこに行ったやら、四つん這いになってカイオーガの消えていった方に手を伸ばしている精霊がいた。
頼むから俺の姿でやるな!
なんにせよこれでアンドバリの指輪対策は出来たはずだ。
「約束通り指輪を取られないようにしてくれよ?」
「あぁ……わかった」
未だ落ち込んでいる精霊が流石に可哀想に見えてきた。
まぁ俺の都合で動いてもらうわけだし、少しサービスしてあげるとしますか!!
「今回だけだぞ……来いスイクン!!」
「な!?」
水の精霊自体は透き通った身体をしているが、さっきの大雨で湖が少し淀んでしまっている。
俺はそれを綺麗にしてもらうためにスイクンを呼びだした。
「貴様何を考えている?」
「スイクン、ここの湖を綺麗にしてくれないか?」
「そんなことのために呼びだしたのか!?」
「いや、なんとなく申し訳なくてな……」
「それくらいは自分でやる」
「いいから!」
俺はスイクンに目配せをして、綺麗にしてもらうように頼んだ。
それを分かってくれたスイクンは頷き、湖の四隅を飛び回る。
すると泥で濁っていた水がどんどん透明度を取り戻していき、3周もすると元の美しい湖に戻った。
一仕事終えたスイクンは俺の横へ跳んでくる。
200キロ近くある体重を持つスイクンは、何故か着地する時に音を立てることがない。
流石は伝説のポケモンと感心していると、水の精霊が俺の肩を叩いた。
「スイクンに触ってもいいか?」
なんか目を輝かせて聞いてきたので、ちょっと引き気味に許可を出すと、スイクンを思う存分撫で始めた。
スイクンが若干困った顔をしているが、少し我慢してもらおう。
……今度果物かなんかあげよう。
思う存分撫でまわし終えた精霊は、心なしか艶々している気がする。
逆にスイクンは少し疲れている。
……お疲れ様です。
「スイクンありがとうな?」
「また会おう」
俺と精霊はスイクンに別れを告げ、スイクンを還した。
「レッドよ……いつか必ず今回の礼をしよう」
「(あれ? 今俺の事名前で呼ばなかったか?)それは楽しみだな」
そうして水の精霊も湖の中へと戻っていった。
色々大変だったけど、有意義だったかな?
何か忘れてる気が……あ!
「俺マルギッテさんに呼ばれてたんだ!!!!」
行かないわけにもいかないし……ふぅ、逝ってきますか!
因みにトリステインの一部に突如降り始めた大雨は、アカデミーの研究者たちを大きく戸惑わせたのだが、それはまた別のお話。