第30話 親愛
あれから夜も更け、モンモランシ嬢は眠ってしまった。
俺とマルギッテさんは一言も話さず、一人と一匹の寝息だけが聞こえている。
「………なぜ親に言っていないんだ?」
突然の質問に驚きはしたが、確かに気になるところかもしれない。
この世界にいないポケモンを召喚する技能。
普通の子供だったら、自慢するか不安になって相談するものだろう。
だが俺は違う。
この先起こることを知っていて、しかもこの能力は管理者に与えられたものだから驚きもない。
転生ということを話さなければ理解してもらうのは難しいだろう。
「その理由も両親が来てから話します」
「そうか」
また無言の時間が続く。
正直無理矢理聞いてくることがないのは予想外だ。
てっきり「説明しなさい」と杖を突き付けられながら、聞かれると思っていたんだが……。
「どうして強く聞いてこないか不思議か?」
「はい」
「一応私も貴様を信用しているからな、悪い理由ではあるまい」
この言葉は俺には予想できなかった。
俺信用されるようなことしたか?
もしかして……あのモンモンに説教した時か?
なら若干勘違いなのだが、信用してくれるのは素直に嬉しい。
それからは、少し空気が柔らかくなった気がした。
しばらくして、外が少し騒がしくなってきた。
どうやら父さんと母さんが着いたようだ。
「レッド、話があるということだが?」
「なにかあったの?」
「さぁ話してもらおうか」
俺は覚悟を決めて、話を始めた。
前世のこと(死んだ理由は言わなかったよ?)、ポケモン召喚のこと、ポケモン自体のこと……全員質問することもなく、じっと聞いていてくれた。
そして今日の雨が自分の所為であること、バレた理由なども話した。
最後に自分が話さなかった理由も……。
話さなかったのはレベルの概念、装備、そしてゼロの使い魔という物語。
レベルの概念は説明しても良かったのだけど、それを説明し出すとステータスとか相性とかも話さなければならなくなってくる。
それを話したら、万が一敵にこの情報がバレた時に困るかもしれない。
故に見た目だけでは強さが分かりにくいということは説明しなかった。
装備は……いざと言うときの切り札ゆえに。
ゼロの使い魔について説明しなかったのは、流石にこの世界の未来が物語として存在していたなんて言えるわけがないし、俺がいる時点で未来がどう動くか分からない。
そんな不確定な情報を渡すことで混乱してほしくないからだ。
話が終わってしばらく無言の時間が続く。
最初の一言はなんだ?
流石にいきなり罵詈雑言が飛んでくることはないだろうけど、もし私たちの子供を返してとか言われたらどうしよう……怖いな。
俺は震えそうになる体を押さえながら、言葉を待つ。
すると父さんが立ちあがって、俺に向かって歩いてきた。
次の瞬間父さんは拳を振りかぶって、俺の頬を全力で打ち抜いた。
椅子を倒し、吹き飛ぶ俺。
正直なにが起こったか分からなかった。
唯頬の痛みだけが父さんに殴られたことを表していた。
「お前にとって、俺達はそんなに信用できなかったのか!!」
「え?」
「異能? 強すぎる力? そんなものは二の次だ!
お前が悩んでいたのに気付いていないとでも思ったのか?
親を嘗めるな!!」
「でも俺は……」
「お前は母さんの腹から生まれた時点で俺の、俺達の大事な息子だ!
排斥されそうになったら、俺達が命を掛けてでも守る。
例えロマリアに異端認定され、裁判に掛けられそうになろうとも、お前のことは俺達が守る」
「父さん……」
「そうよ? 貴方は私たちの大切な息子なのだから……」
「母さん……」
「私としても、貴様のような人材を宗教なんぞのために犠牲にするのは好かん」
「マルギッテさん……」
「俺達はお前の味方だ。
だから信じろ、頼ってくれ。
俺達はお前の親なのだから……」
確かに俺は、父さんと母さんに対して一線を引いていたのかもしれない。
一人称も変えて、自分が転生者であることがバレない様に、異能に関して感づかれない様に……。
それなのに父さんと母さんはずっと俺に愛情を注いでくれていた。
俺は申し訳なくて、嬉しくて、安心して涙が止まらない。
そんな俺を父さんは、優しく頭を撫でた。
母さんとマルギッテさんはどうやらそんな俺を見て、苦笑しているようだ。
そりゃ中身30超えている男が泣きじゃくりながら、頭撫でられてるんだから苦笑もするだろう。
泣き止んだ俺は恥しくなって、膝を抱えたりしたが結局また頭を撫でられるので、もう諦めることにした。
その後森で見かけたといわれていた風竜も俺が出したのかと聞かれたり、どうやって雨を降らせたのか聞かれたり、その理由となったカイオーガの説明したら引かれたりした。
っていうかマルギッテさんが水の精霊と交渉したと言った時に、俺を獲物を見るような目で見るようになっていたのが怖かった。
流石に夜も遅いので、母さんがマルギッテさんに帰ることを伝えると、泊っていけとの一言。
結局ドリュウズ一家は、モンモランシ邸に一泊することに。
久しぶりに両親と一緒にベットに入り、昔話をして、ゆっくり襲ってくる睡魔に身を任せていく。
俺は眠る直前管理者に「良かったな」と言われた気がした。
翌日モンモランシ家に別れを告げ、朝一でドリュウズ領へと向かった。
一応モンモンには、ポケモンについて話さないように口止めして、マルギッテさんにも念を入れて頼み込んだ。
まぁ変わりに水の精霊に話をつけてくれと言われたが、元からモンモランシ家は契約していた訳だから再契約するのはそれほど苦ではないはずだ。
故に一応話してみると告げると、嬉しそうに隣にいたモンモンの頭を撫でていた。
帰り道に母さんが昨日いたポッチャマを見たがったので、馬車の中で召喚することにした。
「来いポッチャマ!」
いつもの光が出てきてそこからポッチャマが飛び出した。
そしてそのまま顔面から馬車に着地した。
「ポチャ!?」
「……大丈夫か?」
「……ぽちゃ」
母さんは顔面着地を見て心配そうにしていたが、顔をさすっているポッチャマを見ると笑顔で近寄ってきた。
ポッチャマは見知らぬ人が自分に近づいて来るのを怖がって、俺の後ろに隠れてしまった。
俺は苦笑して、ポッチャマに「あの人が俺の母さんなんだ。いい人だから大丈夫だぞ?」とフォローした。
……まぁ母さんが若干悲しそうな顔をしたのがフォローの理由なわけだが。
俺の言葉を聞き、ポッチャマは恐る恐る母さんに近づいていった。
母さんは笑顔のまま、ポッチャマの両脇から手を入れ、膝の上に抱きかかえた。
ポッチャマは最初驚いて暴れそうになったが、俺がジッと見ていると落ち着いてくれた。
母さんは膝の上に乗せたポッチャマにご満悦だ。
なんか蕩けてる……。
あ、ポッチャマが苦しがってる。
「母さん! 締めすぎ締めすぎ!!」
「可愛いわぁ〜この子」
「聞いてねぇ?! 母さん、ポッチャマ苦しがってるから!!」
「ハッ!!!」
母さんが腕を緩めた瞬間、ポッチャマは膝の上から下りて、再び俺の後ろに隠れてしまった。
流石にこれはしばらく警戒解けないかもなぁと思いながら、ポッチャマの頭を撫でていた。
……母さん恨めしそうに俺を見ないでください。
母さんの自業自得ですよ?
俺はそれから家に帰るまで、母さんの恨めしそうな視線に晒され続けた。
あれから夜も更け、モンモランシ嬢は眠ってしまった。
俺とマルギッテさんは一言も話さず、一人と一匹の寝息だけが聞こえている。
「………なぜ親に言っていないんだ?」
突然の質問に驚きはしたが、確かに気になるところかもしれない。
この世界にいないポケモンを召喚する技能。
普通の子供だったら、自慢するか不安になって相談するものだろう。
だが俺は違う。
この先起こることを知っていて、しかもこの能力は管理者に与えられたものだから驚きもない。
転生ということを話さなければ理解してもらうのは難しいだろう。
「その理由も両親が来てから話します」
「そうか」
また無言の時間が続く。
正直無理矢理聞いてくることがないのは予想外だ。
てっきり「説明しなさい」と杖を突き付けられながら、聞かれると思っていたんだが……。
「どうして強く聞いてこないか不思議か?」
「はい」
「一応私も貴様を信用しているからな、悪い理由ではあるまい」
この言葉は俺には予想できなかった。
俺信用されるようなことしたか?
もしかして……あのモンモンに説教した時か?
なら若干勘違いなのだが、信用してくれるのは素直に嬉しい。
それからは、少し空気が柔らかくなった気がした。
しばらくして、外が少し騒がしくなってきた。
どうやら父さんと母さんが着いたようだ。
「レッド、話があるということだが?」
「なにかあったの?」
「さぁ話してもらおうか」
俺は覚悟を決めて、話を始めた。
前世のこと(死んだ理由は言わなかったよ?)、ポケモン召喚のこと、ポケモン自体のこと……全員質問することもなく、じっと聞いていてくれた。
そして今日の雨が自分の所為であること、バレた理由なども話した。
最後に自分が話さなかった理由も……。
話さなかったのはレベルの概念、装備、そしてゼロの使い魔という物語。
レベルの概念は説明しても良かったのだけど、それを説明し出すとステータスとか相性とかも話さなければならなくなってくる。
それを話したら、万が一敵にこの情報がバレた時に困るかもしれない。
故に見た目だけでは強さが分かりにくいということは説明しなかった。
装備は……いざと言うときの切り札ゆえに。
ゼロの使い魔について説明しなかったのは、流石にこの世界の未来が物語として存在していたなんて言えるわけがないし、俺がいる時点で未来がどう動くか分からない。
そんな不確定な情報を渡すことで混乱してほしくないからだ。
話が終わってしばらく無言の時間が続く。
最初の一言はなんだ?
流石にいきなり罵詈雑言が飛んでくることはないだろうけど、もし私たちの子供を返してとか言われたらどうしよう……怖いな。
俺は震えそうになる体を押さえながら、言葉を待つ。
すると父さんが立ちあがって、俺に向かって歩いてきた。
次の瞬間父さんは拳を振りかぶって、俺の頬を全力で打ち抜いた。
椅子を倒し、吹き飛ぶ俺。
正直なにが起こったか分からなかった。
唯頬の痛みだけが父さんに殴られたことを表していた。
「お前にとって、俺達はそんなに信用できなかったのか!!」
「え?」
「異能? 強すぎる力? そんなものは二の次だ!
お前が悩んでいたのに気付いていないとでも思ったのか?
親を嘗めるな!!」
「でも俺は……」
「お前は母さんの腹から生まれた時点で俺の、俺達の大事な息子だ!
排斥されそうになったら、俺達が命を掛けてでも守る。
例えロマリアに異端認定され、裁判に掛けられそうになろうとも、お前のことは俺達が守る」
「父さん……」
「そうよ? 貴方は私たちの大切な息子なのだから……」
「母さん……」
「私としても、貴様のような人材を宗教なんぞのために犠牲にするのは好かん」
「マルギッテさん……」
「俺達はお前の味方だ。
だから信じろ、頼ってくれ。
俺達はお前の親なのだから……」
確かに俺は、父さんと母さんに対して一線を引いていたのかもしれない。
一人称も変えて、自分が転生者であることがバレない様に、異能に関して感づかれない様に……。
それなのに父さんと母さんはずっと俺に愛情を注いでくれていた。
俺は申し訳なくて、嬉しくて、安心して涙が止まらない。
そんな俺を父さんは、優しく頭を撫でた。
母さんとマルギッテさんはどうやらそんな俺を見て、苦笑しているようだ。
そりゃ中身30超えている男が泣きじゃくりながら、頭撫でられてるんだから苦笑もするだろう。
泣き止んだ俺は恥しくなって、膝を抱えたりしたが結局また頭を撫でられるので、もう諦めることにした。
その後森で見かけたといわれていた風竜も俺が出したのかと聞かれたり、どうやって雨を降らせたのか聞かれたり、その理由となったカイオーガの説明したら引かれたりした。
っていうかマルギッテさんが水の精霊と交渉したと言った時に、俺を獲物を見るような目で見るようになっていたのが怖かった。
流石に夜も遅いので、母さんがマルギッテさんに帰ることを伝えると、泊っていけとの一言。
結局ドリュウズ一家は、モンモランシ邸に一泊することに。
久しぶりに両親と一緒にベットに入り、昔話をして、ゆっくり襲ってくる睡魔に身を任せていく。
俺は眠る直前管理者に「良かったな」と言われた気がした。
翌日モンモランシ家に別れを告げ、朝一でドリュウズ領へと向かった。
一応モンモンには、ポケモンについて話さないように口止めして、マルギッテさんにも念を入れて頼み込んだ。
まぁ変わりに水の精霊に話をつけてくれと言われたが、元からモンモランシ家は契約していた訳だから再契約するのはそれほど苦ではないはずだ。
故に一応話してみると告げると、嬉しそうに隣にいたモンモンの頭を撫でていた。
帰り道に母さんが昨日いたポッチャマを見たがったので、馬車の中で召喚することにした。
「来いポッチャマ!」
いつもの光が出てきてそこからポッチャマが飛び出した。
そしてそのまま顔面から馬車に着地した。
「ポチャ!?」
「……大丈夫か?」
「……ぽちゃ」
母さんは顔面着地を見て心配そうにしていたが、顔をさすっているポッチャマを見ると笑顔で近寄ってきた。
ポッチャマは見知らぬ人が自分に近づいて来るのを怖がって、俺の後ろに隠れてしまった。
俺は苦笑して、ポッチャマに「あの人が俺の母さんなんだ。いい人だから大丈夫だぞ?」とフォローした。
……まぁ母さんが若干悲しそうな顔をしたのがフォローの理由なわけだが。
俺の言葉を聞き、ポッチャマは恐る恐る母さんに近づいていった。
母さんは笑顔のまま、ポッチャマの両脇から手を入れ、膝の上に抱きかかえた。
ポッチャマは最初驚いて暴れそうになったが、俺がジッと見ていると落ち着いてくれた。
母さんは膝の上に乗せたポッチャマにご満悦だ。
なんか蕩けてる……。
あ、ポッチャマが苦しがってる。
「母さん! 締めすぎ締めすぎ!!」
「可愛いわぁ〜この子」
「聞いてねぇ?! 母さん、ポッチャマ苦しがってるから!!」
「ハッ!!!」
母さんが腕を緩めた瞬間、ポッチャマは膝の上から下りて、再び俺の後ろに隠れてしまった。
流石にこれはしばらく警戒解けないかもなぁと思いながら、ポッチャマの頭を撫でていた。
……母さん恨めしそうに俺を見ないでください。
母さんの自業自得ですよ?
俺はそれから家に帰るまで、母さんの恨めしそうな視線に晒され続けた。