第34話 教師からの洗礼
入学してからそれなりに時間が経ち、学院での生活にも慣れてきた。
テリーとの格闘訓練もそれなりに進み、やっと空手の型は流れるように出せる位になった。
流石テリー……俺より格闘技の才能はあったようだ。
最近は魔法との併用を試し始めている。
俺はアドバイスをする形で、必殺技の再現をさせようと画策中。
テリーはやっぱり貴族っぽくないらしく、あまり周りに人が来ない。
ボガード家はそんなにお金持ちというわけでもないみたいだから、積極的に繋がりを持ちに来ない。
だからか付き合いをしている貴族は少ないようだ。
見た目はカッコいいから女子生徒からは隠れた人気があるみたいだけど……。
代わりにメイドや厨房の人たちには人気がある。
まぁ偉ぶることもしないし、重いものを持っている人がいたら荷物を持ってあげたりしているみたいだから人気も出るだろう。
厨房の人たちはいつも人並み以上に食べ、美味い美味い言ってるし、残さず食べるのが印象を良くしている。
そんなテリーと良く一緒にいる俺も、仲のいい友達はテリーぐらいだ。
俺の場合は積極的に友達を作ろうとしているわけではないし、平民蔑視がデフォルトの貴族とはあまり深い付き合いをしたくない。
まぁだからと言って表立ってメイドの荷物を持ったり、厨房に乱入してご飯の感想を言いに行くなんてテリーみたいなことは出来ない。
故に俺の評価は普通。
あぁ素晴らしい!! なんて素晴らしいんだ普通!!
「今日の練習は御終い。」
「えぇ?! もうかよ!!
あとちょっとで火柱が出せそうなんだぜ?」
なんかいつの間にかテリーがラインクラスにレベルアップしてたんだが、そんなことは置いといて、俺は朝の訓練の終わりを告げた。
「いや、そろそろ準備しないと授業に遅刻しそうだ。」
「もうそんな時間かぁ……授業終わった後もやろうぜ!!」
「それはちょっとなぁ……誰か来るかもしれないし。」
「ちぇ!」
俺があまり目立ちたくないことを知っているテリーは、それ以上言ってはこなかった。
今日の授業が初めての実習だからっていうのもあるかな?
まぁ、ギトー先生の事は嫌いみたいだけど……。
俺も嫌いだけどね!!
それから俺とテリーは一旦部屋に帰り、授業の準備をして教室へと向かって行った。
「今年の生徒は不作だな。
トライアングルが一人もいないなんて、しかもラインの人数も多くない。
そして何より、風のラインがいない!!」
「(いいから早く授業始めろ、この風マニアめ!)」
「風は素晴らしい! まさに最強の系統だ!」
長い長い風最強説を聞かされて、生徒は皆うんざりし始めていたが、テリーが言い放った一言で一気静かになった。
「そんなの状況次第で変わるんじゃねぇのか?」
ギトー先生は、ピタっと話を止めてテリーのいる方へと首を向けた。
「君は確かテリー君と言ったね?」
「あぁそうだよ」
「状況次第で変わると言っていたように聞こえたけど……どういう意味かな?」
「その通りの意味なんだが……当たり前のことだろ?」
「じゃあ風こそ最強であることを証明しよう!!
テリー君私に魔法を放ってきたまえ!」
「は? 何言ってんだ?」
「だから君の放った魔法を、私の魔法でかき消してあげようと言っているのだよ!」
「(いや可笑しいから! あんたスクウェアクラスじゃなかったか?
だったら撃ち消せて当り前だろうが!)」
そんな原作っぽい展開が突如発生したわけだが、テリーはとても楽しそうに笑った。
「OK!じゃあゲドー先生……行くぜ!」
「来なさい……後私はギトーだ!!」
テリーは杖を出して呪文を唱えた。
「ファイアーボール!」
「エアハンマー」
テリーの魔法は少し抗ったものの、ギトーのエアハンマーを相殺するまでには至らなかった。
まるで原作の再現のように、ギトーの魔法はテリー目掛けて飛んでいく。
ギトーはテリーが無残に吹き飛ばされることを想像しているのか暗い笑みを浮かべている。
原作と違って、この場にデルフリンガーはない。
故にテリーに向かう風を止める手段は無い。
普通だったら……。
俺は急いでサーナイトを装備して、一瞬だけサイコキネシスを使ってすぐに解除した。
周りの人には、テリーが体勢を崩して偶々横に転がったように見えたはずだ。
幸い俺の見た目が変わる前に装備を解除したために、今の現象と俺の関連性に気付いた人はいない。
テリーは少し不思議そうにしているが、気付いているわけではないようだ。
「チッ! でもこれで分かったでしょう?
風こそが最強であると!!」
「………」
テリーはギトー言っていることを微塵も聞いていないようだ。
さっきのサイコキネシスが気になっているらしい。
その悩んでいる姿がギトーには悔しがっているように見えたらしく、満足そうに笑いながら去って行った。
「(え? 授業しないのかよ……)」
その後周りの子供たちがザワザワしていたが、コルベール先生がやってきて教室に戻るように言った。
俺は未だに不思議そうにしていたテリーを連れて教室に向かった。
「あの時何かに引っ張られたような気がしたんだが……」
「何か?」
「目の前に風の塊が来た時に、俺の身体が横に引っ張られたんだ」
「気のせいじゃない?」
「そうだったんだろうか?」
「僕は特に何も見えなかったから、きっとそうじゃないかな」
「そうか……」
ふぅ、ちょっとしたアクシデントはあったけど、テリーに怪我がなくて良かった。
ギトーの駄目教師っぷりは公式でもこんな感じだった気がする。