第39話 不審の目
どうやらあの足跡はコルベール先生のものだったようだ。
次の日の授業後に俺とテリーを呼びに来たからね。
「えっと……僕達何かしましたか?」
「いや、ちょっと聞きたいことがあってね」
「教室じゃ駄目だったんですか?」
「逆に聞くけれど、教室でよかったのかい?」
気付いたことに気付かれた?!
流石に炎蛇のコルベールは伊達じゃないな。
ところで……さっきからテリーが無言何だが、どうかしたのか?
「どうかしたのかなテリー君?」
「………腹減った」
緊張感ゼロだねテリー。
流石にコルベール先生も苦笑いしてるよ?
「話が終わったら、ご飯を食べに行きなさい」
「そうするわ」
「ところでコルベール先生、俺達はどこに向かってるんですか?」
「学院長室だよ」
学院長室……まぁこの展開は読めなくなかったけど、嫌な展開になってきたな。
学院長は狸っぽい感じがするし、迂闊な行動は出来ない。
「失礼します、学院長」
「「失礼します」」
目の前に座る学院長は、目を瞑りゲンドウポーズを決めながら何かを考えているようだ。
原作を知っている俺としては、なんとなく考えていることが何か分かる訳だが……。
学院長はカッと目を見開き
「黒か!!」
「えっと学院長?二人を連れてきたのですが……」
「っていうか何が黒なんだ?」
それはたぶん誰かのスカートの中だと思うよ?
正直あのネズミの使い魔かなり偵察向きだよね。
まぁバレた瞬間抵抗も出来ずに死ぬだろうけど……。
「……ツルベール君いつからいたのかね?」
「さっきからいましたよ、それと私はコルベールです!!」
「ツルベール………プフッ!」
テリー笑うな……何かコルベール先生の顔が微妙に怖いことになってるから!!
「で何の話じゃったかな?」
「ですからこの二人のことです!!」
これが演技だとしたら、かなりの狸だな。
「あぁあぁ、森の近くで謎の爆発後と盛り土を見つけたんじゃったか?」
「そうです! その方向からこの二人がやってきたので話を聞きたいと、オールド・オスマン…貴方が言ったのではありませんか!」
「おぉ、そうじゃったそうじゃった!」
「大丈夫かこの爺さん?」
テリー正直すぎるよ?
そういうのは頭の中だけで考えないと、面倒くさいことになったりするよ?
「で、君達その爆発と盛り土に心当たりはあるのかね?」
「あぁそれは俺達の「テリー!」……知らないことだなぁ」
流石テリー正直ものだなぁ……ここでは逆効果だがな!!
このままテリーに説明を任せると、余計なことを言いそうだし……。
「僕が説明させてもらいましょう」
「ほぅ、ならばレッド君に説明を頼もうかの」
さっきより幾分か細くなった眼で俺を見る学院長に、先ほどまでのおちゃらけた雰囲気は無い。
テリーの説明を途中で遮ったことで警戒心が増したか……。
「僕達はいつもあそこで魔法の訓練を行っていたんです」
「何故学院内に訓練するところがあるのに、あんな目立たない場所で隠れるように訓練を行っていたか聞いてもいいかね?」
「僕としては、むしろ何故そんなことを聞いてくるか不思議ですね」
「フム」
「理由は、知られたくないからですよ。
自分がどの程度のメイジか知られる、そして手札を知られるということは対策を練られるということと同義。
いつどのように情報が漏れるか分からない中、あんな目立つ場所で堂々と訓練するのは少し……」
「(この子は……大分慎重じゃな)ところで、テリー君は最近ラインになった様じゃな」
「おう!」
「最近ラインになったにしてはあの爆発の規模は可笑しい!」
「コルベール君、落ちつきたまえ」
「はい……」
「学院長は何を……言いたいので?」
この爺マジで狸か?
どこまで知っている……まさかあの鏡か!?
いや、あの時点で俺達が目を着けられる理由は無かったはずだ!
なら何を言いたいんだ?
「テリー君、君はレッド君と訓練していたんだね?
その時のレッド君の役割は何だね」
「レッドの役割なら俺の訓練にアドバイスをくれることか?」
俺を見ながら言うなよ……これは少しヤバいか?
「ふむ……レッド君、君は土のラインメイジだったはずだね」
「はい」
「なら君はテリー君に何をアドバイスしているのかね?」
「それは戦闘の際の気配りとかを……」
これはキツイか?
「ふむ、それはいいことじゃな。
じゃが、それで火力が上がるとは考えにくいのぉ」
「………」
さぁどうする……どこまで話すか。
格闘技に関してはバレていない、なら魔法に関して話してそこで話を切るか?
色々誤魔化しながら言ってみるか!
「ふぅ……流石はオールド・オスマンですね。
では正直に話すことにします」
「ほぅ、では聞こうか」
「僕が教えていたのは、魔法の精密制御ですよ」
「な! それだけであんな火力になるわけが「コルベール君!」……」
「続けてくれんかの?」
「コルベール先生の言う通り、それだけじゃ火力アップを見込めたとしても大きな変化は見受けられないでしょう」
「……」
「ですが魔法を圧縮したら話は別です」
「圧縮?」
「コルベール先生なら分かるかもしれませんが、力を外側から均等に加えることで物を圧縮することが出来る。
もしその状態で一部分だけ力を緩めたら?」
「均衡は崩れて、加えられていた力がその一部分から外に抜ける?」
「そうです、それを火の魔法で行っただけですよ。
僕は昔土のゴーレムを作った際に制御を失敗してゴーレムが崩れるのを予想していたのが、制御の甘い部分から土が飛び出したことで圧縮の便利さに気付いたわけですが……」
うん! ノリで説明してみたはいいけど、意外と納得してもらったみたいで何より。
なんとなくマルギッテさんを巻きこむと嫌な予感がプンプンするから、自分で思いついたことにしちゃった……バレたら死ぬかも。
俺的圧縮講義はここまでにして……さぁ、どう出る学院長!
「そうか、じゃが危ないには変わりないのぅ。
もしその訓練をする際にはコルベール君を呼びなさい」
「はい、そうします」
「話はこれくらいかの?」
「それじゃあ失礼しました」
「失礼しました」
なんとか乗り切ったか……でも微妙に目をつけられた臭いな。
微妙に厄介だ……俺とテリーが部屋を出ようと扉に手を掛けた時学院長が声を掛けてきた。
「あぁ、そうじゃった。
最後に一つ聞きたいことがあるんじゃが、いいかの?」
なんだ?まだ何かあるのか?
「おぬしたちは自身を鍛えて得たその力、何のために使う?」
「のんびり暮らすために」
「俺は唯強くなって親父を超えたい!」
「そうか……引きとめて悪かったの」
こうして俺達は今度こそ学院長室を後にした。
〜オスマン side〜
「テリー君を一人で呼びだした方が良かったかの?」
「そうですね……まだレッド君は何か隠していそうですし」
「じゃが辻褄はあっとる」
「それが厄介ですね」
「流石に次テリー君を一人で呼んだとしても、口止めはされてるじゃろう」
「はぁ……鏡で覗けないのですか?」
「あそこまでは届かんのぅ」
まさかそこまで考えてあの場所で訓練しているのか!?
流石に……そこまではないか。
少し思考に没頭していると、コルベール君が儂の方を見とった。
「何か気にかかるかね?」
「テリー君の鍛える理由は納得できたのですが、レッド君の理由が少し……」
「父を超えるため、そしてのんびり暮らすためじゃったか」
「のんびり暮らすのに何故鍛えなければならないのでしょうか?」
「それは彼にしか分からんだろう。
しかし少なくともまるっきり嘘というわけでもあるまい」
「何故そんなことがお分かりで?」
「ちょっと前にドリュウズ殿にあった時に、聞いていたのじゃよ。
息子は静かに暮らしたいという夢を持つ変わった子供だということをの」
「そうですか……」
「もし気になるのなら、今度レッド君とじっくり話でもしてみたらどうじゃ?
何か分かるかも知れんぞ?」
「考えておきます」
コルベール君は相変わらず力の使い方の話になると過剰反応しおるの……まだあのことを引きずっておるのか。
コルベール君が自分を許せる日は来るんじゃろうか?
儂はそれが心配じゃ。
少し無言の時間が続き、コルベール君は話を変えるように口火を切った。
「それにしてもラインになったばかりのテリー君を、あそこまでの魔法を使えるまでに成長させるなんて……教師としての自信が無くなりますね」
「卒業したら教師にスカウトしてみるかの?」
「いいですね!」
彼なら間違った方向に生徒たちを導くことはないじゃろう。
ドリュウズ殿に話を通すのは少し大変かもしれぬが、それだけの価値はありそうじゃしな。
〜side out〜
「おおぅ」
「どうした?」
「何か急に寒気が……」
「そういえばレッド、何か学院長に対してちょっと喧嘩腰じゃなかったか?」
「気のせいだよ」
「そっか」
「そう言えば駄目だよ! 簡単に訓練のこと話しちゃ!」
「す、すまん」
「もう、僕は目立ちたくないんだからね!
あの訓練場だって今後警戒されるだろうし、魔法はともかく、もうあそこで格闘訓練は出来ないよ」
「何だって!? まだあの技完成してないんだぞ?!」
「何も止めるとは言ってないよ……でも今後格闘訓練は森の中でやろう」
「わかった」
でもあの寒気は何だったんだろう。
変なフラグが立った気がする。
よし次は使い魔召喚まで飛ばす!!
誰が何と言おうと飛ばす!!
ポケモン分が足りない!!圧倒的に足りない!!!!!