第44話 舞踏会
今日は仮面舞踏会ならぬ、変身舞踏会。
その名もスレイプニルの舞踏会!
この舞踏会は‘真実の鏡’という魔法のアイテムを使うことで、自身の理想の姿に変身して、参加する。
自分の素性が相手に分からないために、普段話さないような相手とも気軽に話すことが出来るというイベントだ。
俺もこの舞踏会はとても楽しみにしていた。
自分自身がどんな姿になるのか、そして周りのみんなはその姿を見てどんな反応をするのか。
この時の俺は、ワクワクして始まるのを待っていた。
真実の鏡は周囲をカーテンで遮っており、会場に着くまで他の人に見られることは無い。
要するにその人の正体を知りたいなら、話しかけなければならないということだ。
故に社交界の練習の場とも言えるだろう。
「今からこの中に入って、真実の鏡に自分の姿を映してもらいます。
すると鏡が光り、その人の理想の姿が映し出されます。
そうなればその人の姿自体も、理想の姿に変化されるので、そのまま会場に向かいなさい。
会場には知らない人に見える生徒達がいるだろうが、正体を知りたいなら話しかけなさい。
そうして新たな友好関係を築いていきなさい」
コルベール先生は、そういうと自分自身がそのカーテンの中へと入り、そのまま会場へと向かって行った。
「じゃあ行くとしますか!」
「テリーは先に行っててくれない?」
「どうかしたのか?」
「いや、少しトイレにね」
俺は自分の順番がテリーにバレない様に時間をずらすことにした。
俺がテリーの前後に入っちゃうと、どちらかの姿がバレてしまうからね。
どんな姿になるにせよ、テリーを探すのは楽しそうだし、テリーにも俺探しをしてほしい。
「じゃあ早く分かった方の勝ちな!」
「負けないよ?」
「こっちこそ!」
テリーはそういうとカーテンの向こうへと消えていった。
「さて、どれくらいで行こうかな……」
俺はテリーの5人後に入ることに決めた。
一人、また一人とカーテンの向こうに消えていく。
そしてついに自分の番が来た。
「ついに俺の番か……よし!」
俺は気合を入れて、カーテンを潜った。
正面には大きな鏡があり、俺の姿が映っている。
すると鏡が発光し、俺の姿が一瞬見えなくなる。
光が収まって鏡に映っていたのは………。
「え? あの、え?」
鏡に映っていたのは、スラッと高い身長、真っ赤なトレンチコートに帽子、中には真黒な執事服を着込んだ黒髪長髪赤眼の男性。
某機関最強の吸血鬼アーカードの姿が映っていた。
強さ、思考、そして何より不死性!
もし彼が守りに入ったら、その守りを抜くのは万の軍勢を抜くのに等しい難易度を誇るだろう。
だけど………怖い。
長身に鋭い瞳、まるで血のように赤い瞳は本能的な恐怖を引きずりだす。
「俺この姿で舞踏会出るの? っていうか真っ赤なトレンチコートってめちゃくちゃ目立つじゃないか!!
そして何よりこの姿は中田譲治ボイス以外は許されないだろ!!!!」
俺はアーカードがかなり好きだったので余計に悲しい。
このまだ子供っぽさが抜けきらない声で、この姿は似合わない。
まぁそれでも舞踏会には出なければならない。
テリーとの約束もあるしね……。
俺は深くため息をつくと、会場へと重い足を進めていった。
会場の中は穏やかな空気だった……俺が入る前までは。
中に入って俺は先ず料理のあるテーブルへと向かったわけだが、俺がテーブルに着く前にそこにいた何人かの人はものすごいスピードで何処かに行ってしまった。
流石に気まずかったが、目の前の料理に集中することで何とか自分の気持ちをごまかした。
この姿で行儀悪くするわけにもいかないので、テーブルマナーを気にしながらの食事をすることに。
食事を終え、一息つくと全ての人が出そろったのか、舞踏会が本格始動していた。
とりあえず俺は約束通りテリーを探すことにした。
まぁすぐ分かったんだが……だってまんまテリーの大人版なんだもの!
理想の姿が大人版テリーとはね……もしかして父親か?
俺は何となく悪戯してみたくなったので、たった今ダンスを終えたテリーに声色を変えて話しかけた。
「素敵だ……やはり人間は素晴らしい」
「!? 誰だ!」
「なんてね! 僕だよテリー!」
「………レッドか?!」
大分驚いてくれたようだ。
まぁそりゃいきなり後ろから、長身の男性が現れたらビックリするわ。
「勝負は僕の勝ちだね」
「それはいいけど、それ誰だ?」
「この人? なんていえばいいのかな?」
本当になんて言おう?
物語に出てきた最強の吸血鬼?
いやそんなこと言ったら、なんて作品か聞かれたら困る。
とりあえず昔あったことある旅人ってことにしよう!
「あぁ、昔あったことある旅の人かな?」
「何でそんな人が理想なんだ?」
「少し話したんだけど、自分の信念をしっかり持ち、一人でなんでもできる人だったからね」
「へぇ〜」
間違ってはいない……よね?
一人で軍とか相手出来るし、人を取り込むことでその人の能力も使えるようになる。
ならなんでもできると表現しても大丈夫!!
「テリーこそ、まるで大きくなったテリーみたいな見た目だね」
「あぁ、親父なんだ。
いつかは超えてやると思ってるんだけど、まだ超えれてないからな!」
「そっか、早く超えられるといいね!」
その後俺の所為かもしれないけど、テリーをダンスに誘いに来る女性はマリー以外いないようだ。
お蔭で普段話すことの無い家族についての話題とかを話せて、有意義な時間になった。
それにしても怖さだけじゃなくて、普通にカッコいいと思うんだけど、何で俺に話しかけてこないんだろう?
なんか2人ぐらいは俺のことをガン見してたが、どうせ学院長とコルベール先生だろう。
後でテリーに聞いてみると、威圧感が半端じゃなかったらしい。
まぁアーカードさんだから仕方ないか……。
〜コルベール side〜
なんだ?!あの男は!?
誰の理想なんだ?
そんなことよりあんな危険そうな男を理想とするなんて!
「テリー君の近くにいるということは、まさかレッド君か?」
ということはもしかして外見が怖いだけなのか?
いやでも……
この後コルベール先生は延々と思考の海に沈んでしまい、周りの生徒から変な眼で見られ続けることになったが、見た目が髪があったころの自分だったため、誰だか気付かれることは無かった。
〜side out〜