第49話 石化の蛇王
ある日俺は父さんに呼ばれて、朝から領内の村に向かっていた。
何やら村の近くに魔獣がいるという話を聞いて、先に父さんが向かったのだが想定以上に厄介な相手らしく、俺にもお鉢が回ってきた訳である。
「それにしても父さん一人でどうにか出来ないっていうことは、かなりヤバいのか?」
「ジ?」
今回はアイガも連れてきている。
ある意味初の実戦となるアイガなのだが、特に気負いはしていないようだ……伝説は伊達じゃないか。
俺としては4戦目になるのか?
風竜、オーク、山賊、リークと来た。
ゲームの難易度的に言うと、ハード、ノーマル、イージー、チュートリアルか……順番おかしくね?
まぁ風竜は俺が倒したわけじゃないけど、対峙したのは事実だしね。
「それにしてもまたあの村か……おっちゃん元気にしてるかな?」
「ジジ?」
「あぁおっちゃんて言うのは………」
俺はアイガに酒場のおっちゃんのことを話した。
アイガとしてはあまり興味の無い内容だったらしく、相槌はしていたが深く聞き返してくることは無かった。
「遅かったなレッド」
「いや、これでも急いだんだよ?」
「ジ!」
「ところで父さん、厄介な魔獣ってなに?」
「あぁ……バジリスクだ」
「バジリスク?!
それは厄介すぎるでしょ……」
「しかも成体だ……本当に何でこんなところにいるのやら」
バジリスクとは、猛毒を持つ大蛇なのだが、最も厄介なのは成体まで育った個体が持つ石化の蛇眼。
見たら即死ってわけじゃないけど、かなり危険なのには変わりない。
石化を解く薬も売ってはいるんだが、その薬を作るためにバジリスクの毒が必要なので、否応なく値段は高く設定されている。
一応家にもあるにはあるが、片手で数えるくらいしかない。
「村に犠牲者は出てるの?」
「いや今のところ出ていないらしい……奇跡に近いがな」
「父さんは、姿確認したの?」
「あぁ、体長6メイルくらいのが一匹だ」
「いや……そんなの沢山いたら危なすぎるでしょ」
「それは言えてるな!」
父さんはまるでアメコミのように「HAHAHAHA」と高笑いをした。
………余裕あんじゃん父さん!
「はぁ……で、どうするの?」
「あぁ流石に正面から行くのは、厳しいからな……風下から近づいていって、先ず目を潰す」
「それが一番いいね」
「その後は……お前に任せる」
「は?!
幾ら石化の恐れがなくなったからって、即死級の猛毒持ちなんだよ?
実戦経験が少ない俺の手には余るよ……」
「誰だって始めてはあるもんだ。
俺も援護してやるから頑張ってみろ」
想像以上に厳しい戦いになりそうだなぁ……。
不意に俺は肩を叩かれたので、後ろを向くとアイガが自身に腕を向けて立っていた。
「アイガも手伝ってくれるって言ってる様だし、頑張ってみないか?」
「わかったよ……やるよ!」
どっちにしろ戦わなきゃいけないんだから、援護か前衛かの違いだろ!
なら何にも問題ないさ………んなわけないだろ!!!!
一発噛まれたら即死亡とか怖すぎるぞ。
でも父さんにしてもそれは同じだ。
なら父さんより動きが速い俺の方がまだ安全なのかもしれない。
それにまだ試してないから分からないけど、特性めんえき持ちの子を装備すれば毒は効かないはずだ!
俺はそう自分を勢いづけながら、父さんがバジリスクを見たという場所の辺りに向かって行った。
しばらく歩いた先にあった沼地にその姿はあった。
その姿はまさに蛇の王。
6メートルにもなる巨体をうねらせて、その沼が自分の物だと主張しているようにも見えた。
「あれか……そういえば聞いてなかったけどどうやって目を潰すの?」
「あぁ教えてなかったか、これだよ。」
父さんはそういって、自分の杖を指さした。
まぁそうだとは思ってたけど……でもどうやって?
「ゴーレムで気を引いて、ブレットで狙撃する」
「そっか……」
「レッドの方は準備出来ているのか?」
装備は一応しておいた。
死にたくないから今回はいつも以上に強いのを装備した。
Lv100のカビゴン……その名もト○ロだ!!
なんか伏字にされた気がする。
まぁいい、実はLv100でも1体までなら制御出来るようになったのだ!!
因みに地味に手の色が変わっているんだけど、手袋しているので父さんにもバレていない。
今ならアイガと力比べできる位の力はあると思う。
「出来てるかな?」
「よし!
じゃあ10数えてからバジリスクの前にゴーレムを出して気を引く。
そしてタイミングを見て、目を潰すから、そこからはお前の仕事だ。
気を抜くなよ?」
「了解!」
「ジ!」
「10、9,8,7,6」
「アイガ気合入れていくぞ!」
「ジジ!」
「5,4」
「(ふぅ、俺は死なない俺は死なない俺は死なない俺は……死なない!)」
「3、2、1」
「「0」」
父さんは0の合図とともにバジリスクの前に石製のゴーレムを5体作り出して注意を惹く。
そしてバジリスクの眼を見ない様にしながら、顔に向かって散弾銃よりも高い密度の石の弾幕を放った。
バジリスクが凄まじい声を上げながら苦しんでいるのを確認し、目が潰れているのが分かったらしく、俺の方を向いて一度深く頷いた。
こうして俺の5回目の実戦が幕を開けた。
正直石化は卑怯だと思います。
まぁ見たら死ぬ目の方がヤバいけど……そんなの直死の魔眼より質が悪いから!!!