第50話 蛇王の最後
父さんのおかげで一番の脅威になる蛇眼は潰せた。
ここからは俺の仕事になる。
流石に怒りながら周囲に尻尾をぶつけまくっているバジリスク相手に無策というわけにもいかない。
「アイガ、尻尾を掴んで動きを止めてくれ」
「ジ!」
アイガはバジリスクに向かってゆっくりと近づいていき、振り回している尻尾をガシッと両手挟んだ。
そのことでアイガの位置を把握したバジリスクは、アイガに巻きついて絞めつけようとした。
しかしアイガはそのまま6メートルもある蛇をブンブンと振り回して、地面に叩きつけた。
「……俺いるのか?」
「……いいから行きなさい」
俺と父さんはアイガの無茶っぷりに茫然としたが、俺も参戦するために慎重に近づいていく。
俺は手始めに未だ暴れているバジリスクの尻尾に狙いを定めてロックスピアを放ったが、オークの時とは違って貫通するどころか尻尾の半分くらいまで刺さるとそこで止まってしまった。
「硬いな……。
やっぱりここは柔らかい内部から攻撃するのがベストか?」
俺は暴れるバジリスクを観察しながら、アイガの方を見た。
「アイガ、少し時間を稼いでくれ!」
「ジ!」
俺は慎重且つ素早くアクアボールを発動し、その水球をどんどん大きくしていく。
大きさが約3メートルになった位で大きくするのを止める。
ここからが大変だ。
「圧縮!」
バジリスクも俺が何かやっているのは気付いたようだが、目も見えないし尻尾に岩が刺さっている。
さらにアイガが真ん中辺りを押さえているから、大きく動くことも出来ない。
俺は徐々に圧縮率を上げていき、水球の大きさが小さくなるにつれ、俺も集中しなければ危なくなってくる。
「クソ!
まだこの圧縮率じゃ駄目だ!
すまんアイガ、もう少しだけ耐えてくれ!」
アイガの腕がバジリスクが暴れるたびに、少しずつ欠けていく。
まぁその都度何処からともなく、石が飛んできてその部分にくっついているが……。
何にせよ急ぐに越したことは無い。
最低でも後5センチは圧縮しないと駄目だな。
「後少し……」
俺は脂汗を流しながら、水球を圧縮していく。
後2センチだ!
杖を握る手に力が入る。
「後1センチ!!」
自分の限界が近付いている。
訓練ではもっと早く水球を圧縮できたが、やはり実戦で使うのは話が別だな……。
精神力の減りが半端じゃない。
これを外したら魔法で倒すのはおそらく無理だろう。
頭部の硬さは尻尾よりも硬かったはず……ならその硬さを突破する魔法は今の俺には使えない。
自分の力で倒したかったら、ミスは許されないわけだ!
上等じゃないか!
「圧縮完了!
アイガそいつを放して、一気に後退。
後は俺がやる!」
「ジ!」
アイガがその拘束を解くと、バジリスクは少し暴れただけで尻尾に刺さっていた俺のロックスピアを砕いた。
もう見える範囲からアイガは離れていたから、今アイツの近くにいるのは俺だけだ。
目を潰されたバジリスクに自身のことを認識させるために俺は、足元に落ちていた石を蹴っ飛ばしてぶつける。
そのことで俺の存在に気付いたバジリスクは、ものすごい咆哮を上げながら俺に向かって突撃してきた。
凄まじい速度で30メートルあった距離もみるみる内に縮められていく。
「よし、飛んでけコンプレッションボール!」
俺は、大きく開いた口の中に圧縮したアクアボールを放り込んだ。
そして突撃を避けるために、横っ飛びして転がった。
「解放!!」
俺がこの言葉と共にアクアボールの圧縮を解除すると、バジリスクの体はその長い身体の真ん中辺りから水の刃に両断され、周囲にバジリスクの血が溶けた大量の水が飛び散った。
一応血にも毒があると困るので、俺は自身を取り囲むように石のドームを作って血混じりの水を防ぐ。
念のため10秒位経過してからドームを解除するとそこは、血の海だった。
「生臭い……」
「当たり前だ馬鹿もの!」
俺は突然父さんに拳骨をされた。
「イタッ!
なにするんだよ父さん!」
「危うく俺に血が掛かるところだったじゃないか!
即死はしなくても具合悪くはなるんだぞあれ!!」
あぁそうだったんだ……。
「それはごめんなさい。」
「それとこの沼をどうするつもりだ!
まったく村長になんていえば……」
「あぁ……それならなんとかなるかも?」
俺はスイクンを召喚し、沼を綺麗にしてくれるように頼むと、特に嫌がることもなく綺麗にしてくれた。
まぁ目立つからお礼を言って、すぐ還したんだけどね。
因みに父さんは横でスイクンをジッとみていた。
「なんとかなったよ?」
「……それはいいんだ。
あれはなんだ?」
「あぁスイクンのこと?前話さなかったっけ?」
「あぁ……聞いてはいたが目で見ると印象が大分違う。
伝説といったか?
確かにあの神々しさは伝説になっても可笑しくない。
だからこそ他の子達よりも召喚する時には注意しなさい」
そんな父さんの助言を胸に刻み、報告のため村へと戻る。
その後バジリスクの死骸を村まで持って帰って倒したことを証明すると、村長はホッとしたようにため息をつく。
やることを終えた俺達が村から帰ろうとすると、途中でばったり会ったおっちゃんに夕食を食べていかないかと誘われた。
しかし今から帰れば夕食までに帰れるので、丁重にお断りして帰路に着くことに。
帰り道の馬車の中。
一気に疲れが出てきたのか、俺は眠い目を擦っていると、ふと父さんは俺に一言こう言った。
「良くやったな」
その一言は俺の心に深く響き、今さら自身が生死を掛けた戦いを無事に終えたということを実感した。
そして俺も今日のお礼をアイガへと言う。
「ありがとうアイガ。
今日は助かったよ。
これからもよろしくな!」
「ジ!」
俺はアイガと拳同士をぶつけて、互いに今日の健闘を称え合った。
あぁぁぁぁやっぱり戦闘きついよぉ。
ギブミィ臨場感w