第51話 人生の岐路
あのバジリスク戦から1年。
ついに俺は水のトライアングルへと進化を遂げた。
まぁ成ったばっかりだから出来ることが凄く増えたわけではないけど、一つの目標だったから嬉しさは大きい。
しかしその嬉しい気分に水を差す事態が起こった。
なんと家にオスマン学院長がやってくるという手紙が来たのだ!
理由は分からないが、なんか父さんに相談があるらしい。
「父さんって学院長と知り合いなの?」
「あぁ、本当に知り合い程度だがな」
「父さんの交友範囲の広さは凄まじいね……もしかしてガリアやゲルマニアにも知り合いがいたりするんじゃないの?」
俺がそう冗談めかしていうと、父さんは何も言わずに俺から目を逸らした。
……いるのかよ!!
なんか突っ込んでもいいことなさそうだから、とりあえずスルーすることにした。
「ところで今回どんなことを相談されるの?」
「いや、俺も知らん。
手紙にも書いていなかったからな……」
学院でなんかあったのか?
俺としては微妙に嫌な予感がするんだけど……。
それからしばらくして、家の前に馬車が到着した。
俺と父さんは、オスマンを出迎えるために玄関へと向かう。
「突然の来訪となりましたが出迎えていただけるとは、申し訳ないですな」
「いえいえ、こちらこそしっかりとした出迎えも出来ずに申し訳ない」
そんな社交辞令の応酬を横で見ていた俺なわけだが、ちょいちょいオスマンが俺の方に目線を向けてくるのが気になる。
今回の訪問は俺に関することなのか?
「レッド君も元気そうじゃな」
「はい、学院長こそ元気そうでなによりです」
「まだまだ若者には負けんよ!
ホッホッホッホ」
こうしてみると好々爺なんだけどなぁ……。
学院ではただのセクハラ爺なんだよなぁ。
普段からずっとこうだともっと威厳出るのに。
「ところで今日は何の相談でこちらに?」
「少し長くなりそうな話がありましてな……」
二人は話を進めるために客間へと向かって行った。
まだ話の中身は分からないが、学院長から父さんに話ねぇ。
なんだかんだ言ってやり手のオールド・オスマンから父さんに相談となると………なんだ?
あぁわからねぇ!!
でも学院長の表情を見るに、あんまりいいことじゃなさそうだ。
その後客間に到着すると三人は椅子に座って、紅茶を使用人が人数分配り、とりあえず全員一口飲む。
俺と父さんは学院長の向かい側に座り、オスマンが話し始めるのを待った。
「今回儂がドリュウズ殿を尋ねた理由は、レッド君をスカウトに来たのじゃ」
「スカウト?!」
「ほう、スカウトとは……」
俺は思わず立ちあがって、驚きをあらわにした。
学院長がスカウトということは、秘書か教師ということだろう。
だがオスマンの性格上、秘書は外せる。
なら教師ということになる……だとしたら何故俺?
「オールド・オスマン、貴方は何故家の息子を教師にしたいと?」
「それはレッド君が、教育者としての才能を持っていると感じたからかの。
レッド君は学院にいた時にテリー君とアンディ君と共に授業以外の時間に魔法の訓練をしていたのじゃが、その際にレッド君は二人にアドバイスという形で指導を行っていた。
するとどうじゃ!
3年間でテリー君は学園屈指の火属性の魔法使いに、アンディ君も目覚ましい成長を遂げた」
「テリー君達のことは少し聞いていたが、本当なのかレッド?」
「いや、アドバイスしただけで僕は特に何も……。
あれは二人の才能だと思うんですけど?」
「確かに二人に才能があったのは事実じゃ……しかしその才能を見つけ、開花させたのはお主じゃ!
頼む!
教師になってくれんか?」
「どうするんだ、レッド?」
「それにもう一つ理由があっての……来年先生が一人自領に戻ってしまうので教師が一人足りなくなってしまうのじゃ。
新しい先生が見つかるまで……三年!
三年だけ教師をしてみないじゃろうか?」
これはちょっと想定外の展開だな……。
でも原作まで学院に近づくのはちょっとなぁ。
どうしようか?
「何も今すぐにというわけじゃない。
来年までに決めてくれればいいんじゃ」
「でも18の教師となると、流石に厳しいんじゃ……」
「確かに厳しいかもしれん。
しかしお主以外の適任者が思い浮かばんのじゃよ。
それにお主本当は、土のトライアングルじゃろ?」
「!?」
「気付いておらんと思ったのか?
伊達に長生きしとらんわい。
お主が実力を隠してた事なんぞお見通しじゃ」
「そうですか……でもやっぱりすぐに返事は出来ません」
確かに原作の舞台に近づくのは危険が大きい。
でも未来がどの様に動くか、ある程度分かるのも大きい。
危険と言えば危険だが、虎穴に入らずんば虎児を得ずとも言うしな……。
せっかく一年猶予をくれるなら、じっくりと考えてみよう。
「それでもいいんじゃ、お主の意思が最優先じゃからの。
それじゃ儂は学院に戻るとするか」
「オールド・オスマン、夕食でも食べていきませんか?」
「いや仕事も残っておるし、折角じゃが今回は遠慮させてもらうことにする」
「では玄関までお送りしましょう」
そう言って父さんと学院長は客間から出て行った。
俺はどうしたらいいかな……。
これから先戦争になるこの国において、何処も安全ではないかもしれない。
なら学園にいた方が少しは展開が読めるか?
俺はそんなことを考えながら、ぬるくなった紅茶を口に含んだ。
これでも無理矢理感があるかもしれませんが……