第53話 公爵夫人からのお願い
学院長が来訪した日から約一カ月立った頃。
一通の手紙が家に届いた。
宛先を見るとヴァリエール公爵夫人から俺に宛てた手紙の様だ。
内容は簡潔。
少し話したいことがあるので、貴方を家に招待したい。
俺に話がある?
カトレアさんやルイズ嬢に関係することか?
あぁ!
分かんないなぁ!
どっちにしても行かないという選択肢は取れないのだから、行くことは確定している訳だ。
俺は父さんと母さんに公爵夫人からの手紙を見せて、ヴァリエール邸に行くことを告げる。
すると父さんには手紙に書いてあった話の内容に心当たりがあるのか、苦笑していたので父さんに尋ねてみると「行けば分かる」と一言言って話を切った。
これ以上問いただしても応えてくれないことは明確だったので、諦めてヴァリエール領へ行くことに。
「流石ヴァリエール……情報が早いな。
それにしても変わらないな、カリーヌ殿は。
頑張れよレッド……精神的に」
そう俺の背中に向けて小さくつぶやいた父さんの言葉を聞くことが出来なかった。
俺とアイガの短い二人旅。
馬車に揺られながら、ヴァリエール邸までの道のりをのんびりと進んでいく。
「アイガは今回呼ばれた理由思いつくか?」
「ジ?」
「分かんないよなぁ……っていうかそれ以前にアイガは公爵夫人に会ったことなかったよな」
「ジ?」
「あの人は怒らせると怖いから、絶対怒らせるなよ?
例えるなら……人間版レックウザだと思え!」
「ジ!?」
それからヴァリエール領に着くまで、アイガは小さく震えながら隅っこに座っていた。
ごめんアイガ、でもそれぐらい怖い人なんだよ。
一人で竜巻作れる位なんだから……。
そのことを思い出した俺も少し怖くなってきた。
俺とアイガは馬車の揺れに関係なく揺れながら、目的地へと着々と近づいていく。
短い旅の終着駅であるヴァリエール邸に着いた俺達を出迎えてくれたのは、もうすっかり大人なカトレアさんだった。
カトレアさんは俺を見つけるや否や、俺の腕を掴んで邸内へと歩き始めた。
「ちょ!?」
「お久しぶりですね、レッド君!」
「あぁ、お久しぶりです」
なんかテンション高いですねカトレアさん……。
っていうかアイガが使用人さん達に連れられて何処か行ったんですけど!?
しかもアイガ自身が手を振ってたから、自分からということか?
あいつ……逃げたな!?
俺はアイガへのお仕置きを考えながら、カトレアさんに客間へと案内されていく。
「今回はどんな御用でいらっしゃったの?」
「公爵夫人から話があるという手紙が届いて来たのですが、何か聞いていませんか?」
「いえ、私は聞いていませんね」
「ですよね」
そして客間の前まで案内された俺だったが、そこでカトレアさんは「また後で」と言って何処かに行ってしまった。
俺はとりあえず客間のドアをノックして中へと入る。
中には紅茶を飲みながら俺の方を見ている公爵夫人が座っていた。
「突然呼び出して御免なさいね?」
「いえ、そんなことよりも何か話があると手紙に書いてありましたが……」
「そうそう、貴方が学院の教師になるって言う話を風の噂で聞いたので、来年入学するルイズのことをお願いしようと思って呼んだの」
……何でその話を知っているんだ?!
あの時は学院長と俺と父さんしかいなかったはずだ。
学院長が話したのか?
俺がそんなことを考えているのを察したのか、公爵夫人は「風の噂よ?」と釘を刺してきた。
公爵夫人が発するプレッシャーで俺は、それ以上そのことを考えるのは危険と判断し話を逸らすことに。
「確かに学院からのスカウトは来ましたが、来年まで考える時間をくれたので、ギリギリまで考えようと思っています。
なのでまだ教師になるかは分かりません」
「そうなの……大きな選択だもの当然ね。
それとは関係なく、ルイズと仲良くしてあげてね?
あの子も昔ほど自分に自信がないわけじゃないけれど、やっぱり魔法のことを気にしているみたいだから……」
「はい」
「本当なら今日も会ってほしかったのだけど、少し用事があって出かけているのよ。
本当にタイミングが悪かったわ……」
いい母親なんだよなぁ……普段は。
だけど公爵夫人は偶にする暴走が怖いんだよ!
俺も少し前に「カトレアに相応しいかどうか試します」とか言いながら俺に決闘申し込んできたことがあったんだよ……あの時は父さんがなんとか抑えてくれたから助かったけど、危うく死ぬところだった。
「話はこの位にしておきましょうか。
ドアの前に待ち人もいるみたいだしね?」
「え?」
「いいから、今日はゆっくりしていきなさい」
「はぁ……」
俺は公爵夫人の謎の言葉に疑問を覚えつつも、俺は一礼して客間を後にする。
部屋から出た俺は先ほどの言葉の意味を理解した。
突然腕を掴まれれば嫌でも気付く。
「カトレアさん、どうして僕の腕を掴んでいるのでしょうか?」
「お母様とのお話は終わったのでしょう?
なら私の部屋に来てください!
お友達たちもレッド君が来るの楽しみにしているの!」
「は、はぃ。
ところで歩きにくいので腕を離しては……」
「い〜や!」
「そう……ですか」
胸が当たっているんだが……言えねぇ。
俺は自分の顔が赤くなるのを感じながら、カトレアさんに引きずられていった。
カトレアさんの顔も夕日の様に、赤くなっているのにも気付かずに……。
書き終わったのが消えるのは半端じゃなくダメージがデカイ。