また決闘……
第57話 逆鱗
新学期開始まであと数日と言うところで、俺は学院長に呼び出しを受けた。
どうやらシュヴルーズ先生とギトーに顔合わせするらしい。
俺はいつも通り指輪、杖、ローブを装備して部屋を出た。
学院長室に近づいていった俺だが、何か声が聞こえてくる。
「あ……に教……勤ま……は思え……!」
「じゃか……、彼はト…………グル……った…じゃ」
何やら揉めているようだ。
まぁとりあえず呼ばれてたから入らないとな。
「失礼します」
「おおぉ、いいところに来たの!」
「え? 何のことですか?」
部屋に入った俺を待ちかまえていたのは、おどおどしているシュヴリーズ先生と俺のことを不審げに睨んでいるギトーだった。
なんとなく嫌な予感がしたのでとりあえず一回戻ろう……。
「うっ!お腹か急に痛くなってきましたので、部屋で寝ることにします。
失礼し「させんよ!」うぉ! 学院長おろしてください!!」
帰ろうとする俺をレビテーションで浮かせるなよ!
足が地面に着かなくて落ち着かないじゃないか!!
「いやぁ、今丁度お主の話をしておったのじゃよ!
そうしたらギトー先生が、2年かそこらでトライアングルになるわけがないと言って聞かなくてのぅ」
「その通り! レッド君、君は学院にいた頃は土のラインだったはずだ……なのに今度会ったら水のトライアングル? そんなことはあり得ない!!」
「(うわぁやっぱウゼェ……)いや、何か偶々シックリきたというか、血筋の覚醒と言いますか……」
俺としてはなんとか落ち着いてもらって、面倒事を起こさないで欲しい、
しかしやはり甘かったようだ
「君は自分が本当に水のトライアングルだというのだな?
ならば私と決闘をしようではないか!」
「なんでそうなるんですか!?」
「トライアングルなら勝てないまでも、対抗は出来るだろう?
ならそれを持って君をトライアングルと認めよう」
あぁ……いきなりこんな展開かよ。
俺は救いの手を差し伸べてくれている人を探して、周囲の人たちを見回すとみんな目を背けている。
唯一オスマンだけがこっちを見ながら親指を立てて、俺に笑顔を向けていた。
「(あの爺これを狙ってたのか?!)いえいえ、スクウェアのギトー先生には敵いませんよ。
僕はまだ魔法を使いこなせてませんから。
それに怪我だってしたくありませんし」
……めんどくさいからという理由から話を切った訳じゃないんですよ?
ホントですよ?
「確かに私の魔法は君には強すぎかもしれないなぁ……」
「そうですよ、僕には強すぎますよぉ……(死ね!)」
「しかし君の実力は確かめなければならないのだよ。
故に魔法は当たる寸前で止める模擬戦の様な形で行おうじゃないか!
それなら怖くないだろう?」
はぁ……本当にウザったいなこの人。
適当にやって負けるか?
俺がうんざりして黙っていると、ギトーは怖がっていると判断したらしい。
「いやぁロジャー殿の息子とはいえ、その様な逃げ腰なら今まで聞いた彼の噂話も嘘かも知れませんなぁ!
ハッハッハッハッハ!」
「…………あ?」
いや聞き間違えかもしれないな………。
気のせいだろう。
「ましてやクシャナ夫人でしたか?あの歳でラインなんてどうかと「ギトー先生!!」……なんですかなコルベール先生」
「少し言いすぎではないでしょうか?」
「私は事実を語ってるにすぎないでしょう?」
「ですが!」
「コルベール先生、もういいです。
……いいですよギトー先生。
決闘でしたか? お受けしますよ」
「おや? 大丈夫ですか?」
「えぇ、ですがそのままでは面白くありませんから、相手に勝った方が相手に一つだけ言うことを聞かせるというのはどうでしょうか?」
「ほぅ……それは面白いですね。
ですがそれではこちらが有利過ぎますねぁ、それでもいいのですか?」
「えぇ、負けるつもりなんか微塵もありませんからね。
例え僕がドットクラスだろうが、あなたには負けませんよ」
「き……君は馬鹿にしているのか!?」
俺が馬鹿にしている? 今さら何言ってやがる。
人の力量すら見切れねぇ阿呆が!
ピーチクパーチク囀りやがって……調子こいてんじゃねぇぞ?
「いいだろう、表へ出たまえ!!」
「上等!」
俺の周囲の人たちはこの展開についていけていない。
しかし唯一学院長だけがジッと俺の方を見ていた。
俺とギトーはそのまま決戦の地となる中庭へと向かう。
「っは!? どうするんですか学院長?!」
「そうですわ!」
「落ち着くんじゃ二人とも。
二人は中庭に向かったということはこの鏡で見れるということじゃ。
ならじっくり観戦しようではないか」
「「なぜそんなに落ち着いてるんですか!」」
「おぉ……二人には話とらんかったかの?
レッド君は確かにトライアングルじゃ……ギトー君には勝てんかもしれんの?
しかし彼は手助けがあったとはいえ、2人でバジリスクを倒すほどの手練じゃ」
「バ……バジリスク!?
あの剣も通らない硬い鱗に包まれた蛇の王を!?」
「レッド君がそこまで………」
「それにギトー君は確かにスクウェアかもしれんが、実戦経験が少なすぎる。
儂としてはレッド君が負けるとは思えんのじゃ」
「しかし万が一というものがあるのですよ!?」
「それもそうじゃな……ならコルベール君に、審判兼見届け人になってもらうおうかの?」
「……分かりました。
いざとなれば二人を止めます」
「頼んだぞコルベール君」
「頑張ります」
そう一言言ってコルベールはレッドとギトーを追いかけて、急ぎ中庭へと向かった。
後ろで今までの表情とは違った真剣な表情で呟くオスマンに気付かずに……。
「見定めさせてもらうぞ? お主の力……。
お主が2年でどれだけ成長したのかを…………の」
「オールド・オスマン今何かおっしゃいまして?」
「いんや? 何にも言っておらんよ。
二人とも怪我がないといいのぅ」
教師陣のなかで反対しそうなギトーを力押しします。