第60話 恩師の娘と幼なじみの妹
入学式も終わり、部屋に帰った俺は机の上で授業資料を整理していた。
しかしドアの外に人の気配がしたので、資料を仕舞い来客の到着を待つ。
するとノックが三回聞こえたので、「どうぞ?」と一言告げた。
「失礼します……ってそれよりレッド兄様!
本当に教師になったんですね!」
「あぁ……成り行きに近いんだけどね?」
「それでも会えて嬉しいわ。
この間は留守にしているときにいらっしゃったと聞いて、本当に驚いたのよ?」
そう言えばいなかったなぁ……カトレアさんの記憶が強すぎて頭の隅に追いやられてたよ。
「ところで兄様は「ストップ」え?」
「ここでは先生だからね、プライベートの時は良いんだけど、学院では気をつけてね?」
「あ、そうですね」
「(まぁそれ以上に目立つしな……ヴァリエール家の3女に兄と呼ばれると目をつけられるかもしれない)分かってくれたなら何にも問題ないかな」
「そう言えば入学式の時に私の他にも何人か声を……」
その時ドアを叩く音が俺の部屋に響き、ルイズ嬢の話が中断された。
ドアは俺が返事をする前に開けられ、その人物が明らかになった。
「失礼しますレッドさ……ん?」
「あぁ、久しぶりだねモンモランシー嬢」
「……誰?」
「あぁ二人とも初対面なのか……なら紹介しようかな?
今入ってきたのはモンモランシ家の長女でモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ」
「……よろしく」
「そしてこっちが、ヴァリエール家の三女でルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
「……どうも」
「二人とも同じ新入生みたいだから、これから仲良くね?」
「「………」」
「どうかしたのか?」
「「何でもないわ(ですわ)」」
なんか微妙に空気がおかしい気がする。
なんでだ?
まぁそれはいずれわかるだろ……それよりもモンモンは何か用かな?
「ところでモンモランシ嬢は何故僕の部屋へ?」
「あぁ! 忘れてましたわ!!
なんでレッドさんが教師をしているのですか?!」
「あなたそんなことも知らないの?」
「何ですって?!」
え? 何でいきなりこんな展開?
っていうか普通にルイズ嬢が喧嘩売りにいったけど、仲悪いのか?
「兄様は学院長直々の交渉で教師にスカウトされたのよ!」
「そうだったの……ってそれより兄様って何なの?!」
「兄様は兄様よ! 小さな頃から家族ぐるみで親交があったから、兄様を兄様って呼んじゃ可笑しいって言うの?(最近だと兄弟って言うよりも………)」
この子……いきなりバラしたな。
まぁ学院っていうより寮だからさっきの話に当てはまらないのかもしれないんだけど、この速度は想定外ですよ。
「まぁそれなら納得できました(少し羨ましいけど……)」
「そう、なら私と兄様は話があるから他に用がないなら部屋を出てくれると嬉しいのだけど?(この子今は問題ないけど、何かの拍子でライバルに成りかねない気がするのよ)」
「な!? 何で貴方にそんなことを言われなければならないの!」
「久しぶりの兄妹の会話なのだから気を使ってくれてもいいじゃない?」(要約:邪魔どっかいけ)
「あら? 私も昔レッドさんに大きな悩みを解決してもらった時のお礼をしっかりしていないから、その話をしたいのだけど?」(要約:なんか二人にさせるのは嫌!)
なんか部屋が寒いっていうか、熱いっていうか、黒い空気に包まれてきている気がする。
アイガに会いたい……っていうか助けてくれ!
俺がそんなことを考えていると二人は同時に俺の方を向いて、一斉に言い放った。
「「どっちと話すんですか!?」」
「………とりあえず今日はもう遅いから、部屋に帰った方がいいと思うよ?」
「今日はここまでね……」「……今度はこの子がいない時に来よう」
「とりあえず今度からはいきなりじゃなくて、先に言っておいてくれると助かるかな?
今日はお茶の用意も出来なかったからね。
それじゃあ明日は僕の初めての授業だから、また明日ね?」
「おやすみレッド兄様」「おやすみなさいレッドさん」
二人はそう言って俺の部屋から退出した。
俺はそこでやっと今日が終わったと感じ、気を抜くことが出来たのだった。
余り長い時間じゃなかったけれど疲労が大きかったから、とりあえず資料整理は明日の朝に回して今日は早めに寝ることに。
実は俺の部屋の外には、男友達の弟君がいたのだが疲れていた俺はそんなことに気付くこともなく、ベットの上で目を閉じた。
〜ギーシュ side〜
ドアから漏れるあの二人の舌戦を聞いていた僕は、ノックしようとした手を止めた。
「レッドさん……貴方はクレイとゴーレムの腕だけでなく、バラの扱いまで僕より上手なんて!
これはやはり彼に師事を受けるしかない!
……それにしてもモンモランシーといったかな? あの子可愛い子だったなぁ。
もしよければレッドさんに紹介してもらおう」
僕はレッドさんの部屋から出てきた金髪の女の子に思いを馳せながら、自室へと戻って行った。
〜side out〜