第62話 赤髪に向けられた風の刃
授業も順調に進んで、一カ月ほどが経過した。
しかしこの頃教室内の空気が微妙におかしい気がする。
具体的に言うなら二人の生徒を中心に……。
確かあの男子生徒はヴィリエとか言ったかな?
なんか劣化ギトーみたいな性格してるんだよなぁ。
俺はとりあえず薄れつつある原作知識を元に記憶を探ってみた。
「あぁ〜思い出せないなぁ。
でも何か頭に引っ掛かる……」
「レッドさん? どうしたんですか?」
「あぁギーシュ君か。
そうだ! 最近教室の空気がおかしい理由わかる?」
自室に向かう途中、ぼやきながら歩いているとギーシュ君が話しかけてきたので、ちょっと尋ねてみることにした。
「そうですね……多分ですがヴィリエじゃないでしょうか」
「やっぱり彼か……彼は何故あんなに苛立っているんだ?」
話を聞いてみると、どうやらギトーの風の実習で自身よりもタバサ嬢の方が風の扱いが上手いと気付いて決闘を申し込んだのだが、あっけなく敗退した上に歯牙にも掛けられなかったそうだ。
それを逆恨みして何かを企んでいるらしい。
「それは……面倒臭いね。
でも何か起こりそうなのが余計に面倒臭い」
「やっぱりレッドさんもそう思いますか……」
今思い出したけど、これタバサとキュルケの決闘のやつか……。
なら俺は手出しできないな。
あの二人が仲良くなるきっかけを壊すわけにはいかないし。
「そう言えばレッドさんは今夜のパーティどうするんですか?」
「(って今日がパーティってことはイベントが起こるじゃねぇか!!)ご飯食べに行くかな?」
「相変わらずですね!」
「(一応気合入れとくか)バイキング形式だから色んな物食べられるしね」
俺はその後ギーシュと少しだけ話をして、パーティへ行くための準備に取り掛かった。
「今日は1年生にとって初めての学院パーティになるじゃろう。
授業や先のことは一旦置いて、この短い宴を精いっぱい楽しみなさい!
それではLet's Party!……今回はちょっとは若者っぽく言ってみたんじゃが?」
「20点ですね」
「下がった!?」
相変わらず辛口だなロングビル。
それにしても流石に3年のパーティ程ハッチャケてねぇな。
まだ初々しさがあふれ出てる。
所々で普段話したことない相手とコミュニケーションを取ろうとしているのが見えるし。
で全体を見渡してみると……やっぱりな。
ヴィリエと数人の女子が窓の近くで何か話している。
「(やっぱりキュルケに風魔法を放ってその罪をタバサに押し付けるのか……胸糞悪いな)クソ! もどかしい!」
「兄様?どうかしたんですか?」
「!? あ、あぁ知り合いが見つからなくて暇だったのが、つい口に出てしまってね。
それにしてもルイズ嬢は大分大人っぽくなったね」
「兄様ったら!」
そんな会話をしつつも俺は、キュルケとヴィリオから気を逸らさなかった。
なにか間違いがあって、怪我でもされたら困るからな。
あ! ヴィリエが動き始めたな。
カーテンに穴をあけて、杖だけ表に出して魔法を使う気か……周囲を女生徒達が囲んでいるから誰も気づいていないな。
「………ま!」
「(一応ポケットの中に予備の小さな杖を入れてあるから、いざとなればそれで)」
「…いさま!」
「(幾らあの二人が仲良くなるためとはいえ、止めたいなぁ)」
「兄様!」
「あ、あぁルイズ嬢……何の話だったかな?」
「兄様がちぃ姉様と何時も部屋でなにをやっているかよ!」
「だから何時も言っているだろう? 動物たちと遊んでいるんだよ。」
「嘘よ! だったら何でその時に私も呼んでくれないの?!」
「それはッ!? ちょっとルイズ嬢、話は後にしよう。
僕はやることが出来たようだ」
カーテンが揺れ始めている。
そろそろ撃つ気だな……。
杖が縦に振られると、そこから風の刃が飛び出してキュルケのドレスを切り裂いた。
突然のことに一瞬会場が沈黙に包まれる。
「キャーーーーーーーーーーーーーー!!」
流石に悲鳴を上げるキュルケをそのままにも出来ず、とりあえず応急処置だけでもと俺は杖を出した。
「プリズンロック」
その言葉と共に、キュルケの周囲を取り囲むように白い石の壁が作られる。
本来は上も完全に塞いで逃げられなくした後で下から追加攻撃するんだけど、如何せんこの魔法も使用回数に大分制限があるからなぁ。
ちなみにギトー戦で使わなかったのは、殺しかねなかったからという理由が一番大きい。
周囲の生徒は突然現れた石の箱に驚きながら辺りを見回している。
ヴィリエ達だけは俺の方を睨んでいたけど、そんなの微塵も気にせず俺はキュルケの元へと向かった。
「大丈夫ですかキュルケさん?」
「大丈夫なわけないじゃない!!」
「ですよね……今そちらにカーテンで作った簡易服を投げますので、それを着たら呼んでください」
俺はそう言って、ヴィリエ達のいない方の窓に行ってカーテンを引き千切ると錬金で簡単なバスローブの様なものを作って、上から放り入れた。
しばらく待っていると、小さな声で「着替えました」という声が聞こえたので、石の壁を崩す。
すると中から扇情的な格好のキュルケが現れた。
「え……あの壁はレッド先生だったんですか?!」
なんか目を見開いてビックリしてるなぁ……新鮮かも。
「そうですよ、誰かが放った魔法までは止められませんでしたが、一応あのままにしておくのもどうかなと思いましてね?
それに美女の裸は安売りしちゃいけないでしょ?」
と俺が慣れていないウィンクをすると、キュルケの不機嫌そうな顔は笑みへと変わった。
少しは気が紛れたかな?
でも笑いが収まってからは再び顔を歪めて何かを考え込んでいるようだ。
ここから先は原作通りになりそうだな。
「(しかしさっきからタバサ嬢がキュルケを見ているのはどういうこと……いや見ているのは俺か?)
それでは僕は一応学院長に説明に行かなければならないので、ここら辺で失礼しますよ」
「そう? お礼にダンスのお誘いでもしようかと思っていたのに」
「そんなことをしたら、君を想っている男性たちに恨まれてしまうから遠慮しておくよ」
俺はそう言って学院長に今回のことを報告に行った。
まぁ犯人のことは告げなかったけど……ここで犯人が捕まってしまうと二人が親友にならなくなるかもしれない。
仲直りした後なら普通に報告するんだけどね。
いきなりかな?いやでも設定上入学直後だったはずだから時間軸はこの位だったはず。