第63話 赤と青
翌日の授業は、昨日よりも空気が悪かった。
キュルケのそばに昨日ヴィリエと一緒にいた女子生徒がいることから、おそらく昨日のことはタバサがやったとでも言っているのだろう。
「(本当に度し難い)今日の講義はここまでにします」
俺はそう言って教室を出ようとすると、タバサが俺に近づいてきた。
「今日の放課後中庭に来て」
「突然だね、理由を聞いてもいいかい?」
「決闘の立会いを頼みたい」
何で俺?……それ以前に立会いなんて必要なのか?
っていうかいつの間にキュルケは決闘を申し込んだのやら。
「どうして僕に声を掛けたのかな?」
「…………」
「話したくないなら、まぁ別にいいんだけどね」
まぁいいか、怪我を未然に防げるならそれはそれで。
それにこのイベントに俺がいたところで問題ないだろう。
「分かりました、放課後に中庭に行けばいいんだね」
タバサはコクッと一回だけ頷いて教室を出た。
放課後か……まだ時間があるけど、念のため部屋に帰って用意しておくか。
「どうやら逃げないで来た様ね!」
「逃げる必要性を感じない」
「そうよね! あんな喧嘩の売り方してきたんだから!」
「何のことを言っているかわからないけど、決闘は受ける」
「……ところで何でレッド先生がいるのかしら?」
「立会人として呼ばれてね。
僕としては余り口を出す気はないんだけど、怪我をしないでくれると嬉しいかな?」
「それは難しい相談ね」「難しい」
「(なんだかんだいって仲いいんじゃないか?)それじゃあ二人とも準備はできている?」
「えぇ」
「……」(コク)
俺はとりあえず辺りを見渡してヴィリエ達が何処かで見ているのではないかと探してみると、普通にいた。
草場の影に隠れているようだけど、女の子のスカートが少しはみ出ているぞ。
後で二人に教えてあげよう。
「それでは……始め!」
俺の声と同時に二人はバックステップして、相手から距離をとる。
どうやら先ずは撃ち合うらしい。
「ファイアー・ボール!」
「エアカッター」
キュルケの放った大きな火球は、タバサの放った風の刃に切り裂かれ消滅したが、タバサの放ったエアカッターも同じく消滅したため一旦仕切り直しになった。
「(思ったよりやるわね……)甘く見てたわ」
「(意外と強い)本気で行く」
二人を包む空気が変わり、より実戦的な雰囲気を醸し出し始める。
「フレイムボール!」
「ウィンディアイシクル」
先ほどより規模の大きな撃ち合いが始まったが、ここからは流れが違った。
氷の矢が相手目掛けて無数に飛んでいくが、炎に当たった矢は蒸発してしまっている。
しかし一発の炎球で全ての矢を防ぐのは不可能。
いくつかの矢がキュルケへと飛んでいき、身体をかすめていく。
ここで魔法の行く末だけを見ていた俺はタバサが走り出していることに気付いた。
「(何をする気だ?)」
その小さな体を最大限に生かして、凄まじい勢いでキュルケへと近づいていくが、キュルケはウィンディアイシクルを避けるのが精いっぱいで、タバサのことが見えていない。
気付けばタバサはキュルケの真後ろに立っていた。
「貴方の負け」
「何時の間に!?」
「貴方が必死に避けている間に、身をかがめて後ろに回った」
やっぱり実戦経験の差が大きいか……。
キュルケの背中に杖を突きつけて勝利宣言をするタバサは少し誇らしげだった。
「勝者はタバサ!」
「……負けちゃったわね。
でも貴方が犯人じゃないことは分かったわ。
貴方だったらあんなことをする必要がないもの。
正面から私に決闘を申し込めばいいのだから」
「それに関しては僕に心当たりがあるかな?」
「どういうこと?」
俺はもうバラしても大丈夫だろうとヴィリエ達が隠れている場所を指さした。
「なんかあそこに隠れてる人がいるみたいなんだよね?」
「……へぇぇ、怪しいわねぇ」
「怪しい」
3人でそこをジッと見ると、彼らもヤバいと思ったのか後ろに向かって走り出したのだが、流石に逃がす訳にはいかない。
「アースハンド」
「うわっ!」「「キャッ!」」
三人の生徒が足を掴まれて転んだので、そのまま土の腕で拘束する。
「貴方達は、タバサが犯人だと言っていた……」
「わ、私たちはヴィリエにそう言えって言われて……しょうがなかったのよ!」
「な、何を言っているんだ!君たちこそキュルケに好きな人を取られたから仕返しがしたいと言っていたじゃないか!」
「………どっちもどっちだよ。
とりあえず君たちのことは学院長に伝えておくので、しっかり絞られるといい。
もちろん親御さんにも手紙を送ることになるから覚悟しておくように」
俺がそう言うと3人は項垂れたように、そこに座りこんだ。
「この3人の処遇はこれでいいとして、二人はどうしようか」
「へ?」「……?」
「あ、説明してなかったかな? この学院決闘禁止されてるんだよね」
「な、何ですって!?」「………」
「………なんてね、今回は見逃しておくよ。
でも次は見逃さないからね?」
「もう、驚いたじゃない!」
「ビックリした」
「ごめんごめん、でも二人ともとりあえず怪我の治療をしようか。
かすり傷とか結構あるみたいだからね」
俺はそう言って二人にヒーリングを掛けていった。
二人の傷がなくなるのを確認して終わったことを伝えようとすると、二人が向かい合っていることに気付いた。
「今回は巻き込んでしまってごめんなさい」
「気にしてない」
「それにしても貴方強かったわね、正直驚いたわ」
「貴方も強かった」
「もしよかったら今度一緒に買い物に行かない?
美味しいケーキのお店見つけたのよ!」
「……」(コク)
どうやら二人は原作通り仲良くなったみたいだな。
良かった良かった。
俺は二人を尻目に、黒幕三人を連れて学院長室へと向かった。
原作イベントを一つ消費
タバサに若干目をつけられました。
キュルケからはいい人だと思われてますが、フラグが立つほどではありません。