第64話 姦し三人娘+1
あの後学院長室に三人を連れていって、今回のことを説明した。
「その二人も呼び出した方が良いのじゃないかの?」
「いえ、あの二人には僕の方から厳重注意をしましたので、もし次に何かしたときは連れて来ます。
ですから今回は許してあげてください」
これで呼び出しされたら俺の言葉が嘘になっちゃうからな。
それに今頃きっと仲良くご飯でも食べてるだろう。
邪魔したら悪い。
唯でさえタバサ嬢は特殊な立場ゆえに、友達が作り難いのだから……。
翌日授業を終えるとキュルケに呼び止められた。
なんか連鎖的に横に立っていたタバサ嬢を見ると、偶々目が合ったので会釈をしておいた。
「昨日はありがとうね?」
「僕がした事なんて殆どないよ」
「それでも……あいつらを捕まえてくれたのはレッド先生だしね」
本当に昨日はヴィリエ達を捕まえる位しかやってないしなぁ……。
そんなことより教室内でこういった話をしたのは不味かったな。
ルイズ嬢が立ちあがってこっちに近づいてきている。
「ツェルプストー! あんた兄様に何の用よ!」
「兄様ってどういうこと?
たしかレッド先生は、ドリュウズ家の長男だったわよね?」
学院ではそう呼ぶなって言ったのすっかり忘れてるなこの子……。
いつかは口滑らすと思ってたけど、いくらなんでも早すぎないか?
「兄様は兄様よ!」
「貴方には聞いていないの、私はレッド先生に聞いているの」
「確かに俺はドリュウズ家の長男だけど、まぁ……長い付き合いで妹みたいな存在だからね」
なんか俺がルイズ嬢に睨まれているのが謎なんだが、キュルケは納得したようだ。
しかしキュルケは、ルイズをちらっと見て薄く笑いながら俺の腕に自分の腕を絡ませた。
これは……嫌な予感がするぞ?
しかも男子からの目線が厳しくなったし……。
「あ…あんた、何してんのよ!(羨ましいじゃないの!!)」
「この間助けてもらったお礼がまだだったわね。
今夜私の部屋に来ませんこと?」
「な、なななな!!」
勘弁してくれ……ルイズ嬢を弄りたいなら俺を巻き込まないでくれ。
っていうかモンモランシー嬢も微妙に睨んでいるのはなんでだ?
「いい加減にしなさいよ!
それにレッド兄様があんたなんかの部屋に行くわけないじゃない!」
「別に貴方には関係ないでしょう、妹分さん?」
「あ〜〜〜〜〜〜!!!! ムカつく!!! やっぱりツェルプストー家はヴァリエール家の天敵ね!!」
なんか俺放置されてね?
でも腕掴まれてるから逃げれない。
周囲の視線が痛い……特に男子の。
俺はとりあえずキュルケを俺の腕から外して、二人を落ち着かせるために話しかける。
「二人とも先ず落ちつけ。
とりあえず僕の答えはだ……まず礼はいらないよ。
それに部屋に行くなんて、君の彼氏に悪いだろうしね」
「あら、レッド先生ったらそんなことを気にしてらっしゃったの?
それに彼らは彼氏じゃなくてお・と・も・だ・ちよ」
「(夜に部屋で会う約束とかしてたら普通にお付き合いしてると思うんだけど……)」
あぁやっぱり何人か机に突っ伏した。
そりゃ凹むよなぁ、幾ら自分以外にも彼氏がいると分かっていても、その根底から覆されればそりゃ凹む。
っていうか普通に刺されてもおかしくないんだけど、大丈夫かキュルケ?
「なんにせよ遠慮しておくよ」
「そう、残念ね」
「当り前じゃない!!」
「ルイズ嬢も落ち着いて」
「でも!」
「いいから」
俺はそう言いながらルイズ嬢の頭を撫でる。
すると借りてきた猫の様に静かになってくれた。
あれ? モンモランシー嬢の眼がさらに険しく……。
後でご機嫌取りしとかないと、マルギッテさんが襲撃してくるかもしれない。
「僕はそろそろ部屋に戻って明日の授業の準備をしようと思うから、ここら辺で失礼しようかな?」
「そう、じゃあ気が向いたら私の部屋に来てね?
待ってるわ」
と一言残し、俺に投げキッスをして教室を出て行った。
微妙に嬉しかったのは内緒。
男子生徒からの視線がまた一段と痛くなったよ……。
そして何より痛いのは横にいる女の子の視線なんだけどね。
「兄様?」
「な、何かな?」
「今デレデレしてませんでした?」
「そ、そんなことないよ?」
「そうですか、もし兄様がツェルプストーの部屋に行く気だったら……」
「……だったら?」
「縄で縛って、そんな気が無くなるまでOHANASHIします」
……なのは式オハナシ!?
怖すぎるわ!!
「大丈夫だよ、少なくとも本気で好きにならない限り女性には手を出す気はないからね」
「信じますよ兄様?(ということはまだ私にも、ちぃ姉様にも本気で好きになってないということ? それとも他に理由が……)」
「あぁ大丈夫! 信じてくれ」
なんとかルイズ嬢も納得してくれた様で、俺はやっと針のむしろと化していた教室からの脱出に成功した。
結局その後部屋に帰ってきたものの授業資料の整理をやる気力も無く、そのままベッドに直行。
精神的疲労に引きずられた身体をベットに横たえた俺は急速に襲いかかる睡魔に身を任せていった。