外伝 タバサの興味
初めて見た時は特に何も感じなかった。
初めての授業を聞いて、彼は恐らく実戦経験があるのだろうと思い少し興味が出た。
そして………。
学院に来て初めてのパーティ。
今まで北花壇騎士団の仕事で何回かパーティに潜入したりしたことはある。
でも任務に関係なくパーティに参加するのは初めてだ。
何をしていいのか分からない。
とりあえず夕食を食べてなかったから、夕食をここで済まそう。
私は先ず目の前にあるサラダに手を伸ばし、口に運んでいった。
「!?」
苦い!……でも美味しい。
私は気付いたらサラダのボールを抱えて食べていた。
ボールの中にあったサラダを全て食べ終えると、お腹がいっぱいになったので、辺りを見回して観察してみることに。
眼に映るのは異性に話しかける人、ダンスを踊る人、そしてご飯を食べる人。
「(特にやることはない……帰ろう)」
私が帰ろうとしたその時、会場の中心で何かが起こったようだ。
飛び交う言葉に耳を傾けてみると、どうやら女生徒の一人の服が風魔法で切り裂かれたらしい。
「服だけ切り裂く……器用」
私は的外れな感想を述べつつ、その生徒を見ていると、いきなり彼女を取り囲むように石の壁が現れた。
少しだけ気になったので、その魔法を放った人を探してみると意外とすぐに見つけることができた。
魔法を放ったであろう人物がその壁へと近づいていくからだ。
「あの人は……水の授業の教師?
あのクラスの魔法を使うということは、得意なのは土の方。
ならなんで水?」
若干の疑問を覚えつつも癖で敵対した場合のシュミレーションを行う。
とりあえず上空からのウィンディアイシクルで先制攻撃を……そんなシュミレーションをしているといつの間にか騒ぎは収まり、パーティは終わっていたようだ。
翌日教室で本を読んでいた私に、昨日服が切り裂かれた女生徒が近づいてきた。
そして突然私が読んでいた本を取り上げる。
「昨日はよくもやってくれたわね!」
「?」
「あんな場所で私の服を脱がすなんて……どれだけ恥ずかしかったか貴方に分かる!?」
「なんのこ「決闘よ! 今日の放課後中庭で昨日やったことを後悔させてあげるわ!」……」
私の本………ふぅ。
後で返してもらいにいこう。
そんなことを考えていると、昨日彼女を助けた教師が入ってきた。
確か……レッドって言ったはず。
そうだ、彼に立会いを頼もう。
それなら手加減を間違えた時でもどうにかなるだろう。
私は授業が終わってから、彼を呼び止めた。
「今日の放課後中庭に来て」
「突然だね、理由を聞いていいかな?」
「決闘の立会いを頼みたい」
彼は不思議そうにしていたけど、今日の教室の状況を見てなんとなく状況を理解したようだ。
「どうして僕に声を掛けたのかな?」
「…………」
「話したくないなら別にいいんだけどね」
特に話したくないわけではないけど、いざという時のストッパーと言うと来てくれないかもしれないと思い口を開かなかった。
「分かった、放課後に中庭に行けばいいんだね」
彼は特に疑うこともなく、了承してくれたので私も頷きで返した。
決闘は私の予想以上に接戦だった。
まさか彼女がここまで強いとは……でも実戦経験が足りない。
あれでは唯の砲台、戦場では的になってしまうだろう。
結局私の勝ちで決闘は幕を閉じたけれど、どうやらこの場には私たち以外にも人がいたようだ。
彼女の誤解が解けた時に彼が草むらを指さしながら「あそこに隠れている人がいるみたいなんだよね」と言われて見てみると、スカートがはみ出ていた。
「……へぇぇ、怪しいわねぇ」
「怪しい」
三人でその草むらを見ていると、そこから人が飛び出した。
私は咄嗟にエアハンマーで吹き飛ばそうと思ったけれど、彼の方早く対応し、アースハンドで彼らを拘束した。
早い……私なら反応できただろうか?
距離にして40メイル位……もう少し対象が素早かったら厳しいかもしれない。
それだけでもレッド先生の戦闘能力が非常に高いことが分かった。
確かに上を見れば彼よりも上の人はいっぱいいるのかも知れない。
でも彼にはまだ何か隠し玉がある気がする。
私がそんなことを考えていると、彼が隠れていた三人から話を聞き出していた。
どうやらこの間私に決闘を申し込んだ男子生徒が私に罪をなすりつけて決闘させたらしい。
少し腹が立ったが、レッド先生が学院長の元に連れて行って説教すると言っているのでその怒りを呑み込んだ。
その後決闘した彼女……キュルケと一緒にケーキを食べる約束をした。
これが友達?
何か暖かい感じがする。
今までは任務ばかりで人との友好的な関わりなんて殆どなかった。
私も寂しかったのだろうか……。
次の虚無の日にキュルケに誘われて、ケーキを食べに行くことになった。
その際にキュルケがこの間のお礼をするためにと、レッド先生を呼ぼうという提案をした。
私としても彼には興味があったので、コクリと一度頷き了承の意を示す。
町に向かう途中で彼に色々聞いたのだけど、予想以上に実戦経験豊富の様だ。
そしてなにか特殊な戦闘技能を持っているらしい。
それが何かは教えてくれなかったが、実戦で使えるレベルなのだろう。
話の中で、有名な火のメイジの相棒で師匠ということが分かったけれど、それ以上に風のスクウェアにほぼ一方的に勝ったというのには驚いた。
確かにあのギトーとか言う先生は実戦経験が少ない、または無いのかもしれない。
でもクラスの違いは決して小さくない。
聞いてみれば魔法を止めるために投石したと言っていたが、確かに効率的だ。
相手の集中力を削いで、自身が一方的に攻撃できる。
普通の人はしない戦法だろうけど……人目を気にしないのならばかなり有効な手だ。
ケーキを出すお店に着いてからも色々と話を聞いたが、なかなか聞いていて面白い話もあった。
彼に接近戦の訓練を頼んでみようか……そうすれば特殊な接近戦というのも分かるかもしれない。
私はそんなことを考えながら、ケーキを食べているレッドを見ていた。