第66話 弟子一号
虚無の日、あの後普通に寮に帰ったのだが、夜に部屋にギーシュが部屋に突如やってきた。
「レッドさん! モンモランシーのことを紹介してください!!」
「へ?」
いきなり来た上に自分に紹介を頼むというギーシュらしくない行動に戸惑っている俺に、矢継ぎ早に言葉を続ける。
「彼女は僕にって他のバラ達とは違う!! 彼女はまるで咲くはずの無い金のバラ。
僕には彼女が輝いて見える!!
一目見たその時から彼女のことが頭から離れないんです!
こんなに一人の女性が気になったことは今まで経験がない!
だからお願いします!!」
ギーシュはそう言い切ると俺に深く頭を下げた。
……これギーシュか?
なんかこんな熱い奴じゃなかった気がするんだけど。
「自分から声を掛ければいいんじゃないかい?」
「今までだったらそうしたんです……でも彼女に話しかけようとすると胸が痛くなって、話そうと思った言葉が頭から飛んでいく。
だからレッドさんに仲介をお願いしたいと思ってきました!!」
「(これは……マジみたいだな。)紹介するのは良いけど、その前に聞きたいことがある」
「何でしょうか?」
「もしギーシュ君がモンモランシー嬢とお付き合いすることになったとする」
「彼女と付き合う……」
「まぁ最後まで聞いてくれ。
それはもちろん結婚とかまで考えているんだよね?」
「彼女と結婚………キ、キキキキキキキスとかしたり…………!!」
「(あぁ青春してるなぁ……)だから最後まで聞いてくれ。
っていうか僕の質問に答えてくれ」
「っは!! はい、結婚を前提にお付き合いを……」
「なら君の表現で言う他のバラ達を愛でるのが御法度なのは分かるな?」
「!?」
「(ここ驚くとこなのか?!)当り前だろう? 付き合っている男性が他の女性に心惹かれているのを見て喜ぶ女性なんていないよ?」
「そ……そうだったのか」
「後彼女と付き合うなら魔法を、というか戦闘で強くならなければ恐らく駄目だ」
「そ、それなら大丈夫だと思いますよ?
なんてったって今の時点で土のラインですから!!
確かにレッドさん程ではないですけど、そこそこ強い自信はあります」
ギーシュ君……そこそこじゃ駄目なんだよ……。
あの人はそんなに甘くない。
っていうかあの人はカリーヌさんと同じ匂いがする。
娘と結婚するなら私を超えていきなさい!とか素で言う人だ。
「そこそこじゃ……駄目だ」
「駄目?」
「一応言っておくと、僕は彼女の家と面識がある。
そしてモンモランシー嬢の母親にあったことがある……っていうか少しだけど魔法を教えてもらっていたんだ」
「はぁ……?」
「そこで分かったのは凄腕の水メイジであることと、モンモランシー嬢を溺愛していることだ」
「いいことじゃないですか」
「じゃあその娘に突如彼氏が出来たらどう思う?」
「!?」
「確かにマルギッテさんはモンモランシー嬢の幸せを願って許可を出してくれるかもしれない。
だが最低条件は出されるはずだ」
「そ……それは?」
「多分だけどマルギッテさんとの決闘に勝つこと」
「……その人はどの位強いのですか?」
どの位か……流石に公爵夫人まではいかないと思う。
父さんと割といい勝負か?
でもギーシュは俺の父さんの強さを知らないからなぁ。
……強さで表すと何が妥当かな?
「成体の水竜位かな?」
「竜種!? しかも成体ですか!?」
「(まぁブレスの代わりに魔法、爪の代わりに剣と思えばこんな感じだろう)僕の母さんと話しているときに竜種を倒したって言ってたからそのぐらいだと思うよ?」
「………」(ガタガタガタ)
………頑張れギーシュ!
君の明日は明るい………といいな!!
「な、なら僕を鍛えてくれませんか!」
「僕が?」
「はい! 兄さんから聞いた話だと、トライアングルクラスの土メイジなんですよね!
それに近接戦闘も目を見張るものがあるとか……」
「(確かに少し前に模擬戦して勝ちはしたけど、そこまでの腕じゃないと思うんだが……剣は受けがデフォルトだったし)別にいいんだけど、僕の戦闘方法は結構特殊だから近接の指導は基礎しかできないよ?」
格闘技を教えるのはあんまり気が進まない。
あれはテリーを見てテンションが抑えられなくなったから教えただけだしね。
だから近接なら立ちまわりと剣の基礎位しか教えられない。
「それでもいいです!!」
「魔法はコツを教えるから、後は自己鍛錬が主になるよ?
僕自身も修行中の身だからね」
「それでもいいです!!」
「ふぅ………なら朝早くに森の入口で待っているから、動きやすい格好で来てくれるかな?」
「はい! よろしくお願いしますレッド先生!!」
まだ教師生活にも慣れていないのに、やることが増えちゃったなぁ。
まぁ人に教えるのは結構楽しいし好きだからいっか。
ギーシュが俺に一礼して部屋から出ていくと、俺は椅子の背もたれに身を預け、ギーシュ強化計画を脳内で組み立て始めた。
「先ず魔法はクリエイトゴーレムを主軸に考えていこう。
剣技についても先ずは、突きと薙ぎのメリットデメリットを教えて………」
俺は明日教える内容を考えながら、夜を過ごした。
ギーシュ改造計画始動!!
まぁテリー程付きっきりではないから、そこまで進化はしませんが、ラインの中なら上位クラスまでイケる位までは……。