第67話 薔薇のための修行
朝になって、俺が森に向かうと既にギーシュはそこにいた。
「早いね」
「ハイ! 彼女のためですから!!
……それでレッドさんの横にいるゴーレムは一体何ですか?」
「あぁ、教えてなかったっけ?
僕の使い魔でアイガって言うんだ。
今回はギーシュ君の訓練に参加してもらおうと思ってね」
「ジ!」
「は、はぁ」
まぁパッと見普通のゴーレムだしね。
この世界に自我を持つゴーレムって少ないみたいだしな。
それにしても暑苦しい………見た目に合わないぞそのキャラ。
とりあえず初めての個人レッスンを始めますか!
「じゃあ先ず一番得意な魔法を使ってみてくれ」
「ハイ!」
ギーシュはバラの花びらを一枚取ると、地面に投げた。
すると地面から原作通りの青銅のワルキューレが出てきた。
「どうですか!?
前にレッドさんが作ったあの美しいゴーレムを目標に作ったのですが!!」
……あれ? 俺が切っ掛けでこのゴーレム出来たの?
それは予想外だなぁ。
「はは……とりあえず見た目は良いんじゃない?
でも実戦では微妙かな?」
「な、なんででしょうか?」
「一つ、無手なら攻撃力に欠けるし一撃の重さは岩のゴーレムに比べると大分軽い。
これじゃ岩のゴーレムより動きが速いのが生かしきれてないよ?」
「そう言われてみれば……」
「二つ、ゴーレムを作る演出は確かに綺麗かもしれない。
でもバラの花弁を千切って投げるというアクションよりも、普通に杖でやった方が早い。
魔法戦において発動の早さは勝敗を分ける重要なファクターの一つになる」
「………はい」
ハッキリ言いすぎたかな?
少し凹んでるみたいだ。
「別に落ち込む必要はないんだよ?
今言ったことは確かに戦闘においてのデメリットになるけど、今僕がそれを君に教えたことでギーシュ君は自身のゴーレムの欠点を知った……なら改良もできるだろう?」
「………そうですね!!
俯いているより、前向きに先に進む方がいいですよね!」
やっぱりこの子誰?
俺と言うイレギュラーの所為か?
「そ、そうだね。
とりあえず改善案として、先ずその攻撃力不足は問題だから武器……持たせてみようか」
「武器ですか……」
「そう、武器だよ。
長剣、短剣、ナイフに槍、斧やハルバート。
武器の種類は沢山あるから自分に合ったのを選ぶといい」
「あれ? 弓や銃は無いんですか?」
「ゴーレムにそこまでの精密動作させるなら、結構大変だよ?
それだったら自分でやった方がまだ楽じゃないかな?」
「……それもそうですね」
「それでギーシュ君はどの武器を持たせるのかな?」
しばらく悩んでいたようだけど、結局長剣を選んだようだ。
俺としてはナイフがおススメなんだけど、ギーシュが選んだのだからそれでいいか。
「長剣を選んだのか……ところでギーシュ君は剣の心得有るのかな?」
「兄さんが使っているのを見たことがあるくらいで、本格的に習ったことは有りませんね」
そっか……なら一応基礎から講義しよう。
「まず剣についてなんだけど、あまりキレ味に過度の期待をしない方がいい」
「え? 剣って切るものですよね?」
「確かにそうなんだけど、剣のキレ味っていうのはすぐに落ちてしまうんだ。
鎧等を切ろうとすれば刃が欠けることもあるし、血でキレ味が鈍ることもある」
「………」
「まぁ上段で構えて、剣の重さと自身の力で振り下ろせばあまりキレ味が良くなくても叩き斬ることは可能なんだけどね。
さらに言うなら刃が薄ければそれだけキレ味は上がるんだけど、その代わり強度は下がるから諸刃の剣になる。
ここまでは分かったかな?」
「はい」
ここまでが長剣の説明になるかな?
「じゃあ次は剣の使い方についてかな?」
「はい」
「とりあえず人間が剣を持って闘う場合は、斬られないことが必須になるのは分かるよね?
だから剣はまっすぐ構えて、姿勢もまっすぐに。
足は左を前にして肩幅に開いて、膝をリラックスさせる。
そして肘を張って、裏刃を使えるようにする。
これが基本の構えになる。
剣を前に構えて、小さく振る様に斬ると相手が多人数の場合にも対応できるんだ」
「へぇ〜」
「次は斬りおろし、突き、斬り上げの特性について説明しようかな」
「それは何となくわかります!」
「なら簡単に説明しようかな?
斬り下しは自分の力以外に剣の重みが加わるから威力が高いが、剣線を読まれやすい。
突きは線の攻撃ではなく点の攻撃になるために何処かを狙いたい場合は使えるけど、少しズレただけで相手に刃が刺さらずに鎧の表面を滑ってしまう可能性がある。
最後に切り上げは、斬りおろしから繋げる場合が多いが腕にかかる負担も大きいし、勢いは斬りおろしに比べて落ちてしまう」
「はい……」
「ここで問題です!
相手が一人の場合ゴーレムに向いている剣を用いた戦法はなんでしょう?
ゴーレムは五体まで使用可能とします」
「え?! 突然すぎませんか?!」
いや何となく唯聞いているだけだと面白くないかなって思って。
「チックタックチックタック……」
「しかも時間制限付き!?」
「早く答えないとギーシュ君を地面に埋めて、横に筋肉質の男の裸体像錬金するよ?」
「え!? え〜と………はい分かりました!」
「はい、ではギーシュ君回答は?」
「取り囲むように五体を配置して、同時攻撃……でどうでしょうか?」
「………まぁいっか。 一応正解かな?」
「ふぅぅぅぅぅ、良かったーーーーーーーー!」
「(どんだけ嫌だったんだよ)まぁ正解なんて有ってないようなもんなんだけどね」
「え?!」
「もし竜巻を相手中心に発動させたら?
もし相手がそれに対応できるだけの身体能力を持っていたら?
なんてことを考えて行くと答えなんかないんだよ」
「じゃ…じゃあこの問題の意味なんてないんじゃ……?」
「でも咄嗟に最善、またはそれに準ずる答えを導き出すのは戦闘において大切なことだよ?」
「………もしレッドさんならさっきの答えをなんて答えますか?」
俺? 俺かぁ………。
「僕なら一体で正面から行かせて上段で斬り込んで、横から二体で胴体の辺りを突く。
そして回避される可能性を考えて後ろから一体のゴーレムで足の辺りを斬る。
最後の一体は僕本体の守りに置いておくかな?」
「そ……そうですか」
何で若干引いてんの?
これぐらい普通だと想うけど……。
「どうかした?」
「い、いえ何でもないです。」
「そっか、ならいいや。
じゃあ早速アイガと模擬戦でもしようか」
「い、いきなりですか!?」
「まぁ習うより慣れろっていう感じ?」
「………僕判断間違ったかも」
「ん? 何か言った?」
「いえ! 何にも言ってません!!」
「じゃあアイガの身体を少しでも削ったらギーシュ君の勝ちね」
とりあえずアイガに鉄壁三積みさせておこう。
それなら、ちょっとやそっとじゃ傷つかないだろう。
俺は小声でアイガに指示を伝えた。
「(アイガ、鉄壁三回積んでおいてくれ。
あとゴーレムは壊してかまわないけど、ギーシュには手加減してあげてくれ)」
「ジ」
これで大きな怪我はしないだろ。
さぁて……どこまで善戦できるかな?