第69話 弟子二号
翌朝もギーシュ君と訓練するために森の近くに行くと、そこにいたのは二人の生徒。
一人はギーシュ君………そしてもう一人はタバサ嬢か?
ギーシュ君も何故彼女がいるのか分からないらしく、困惑しているようだ。
俺はとりあえず事情を聴くために、アイガを引き連れて二人に近づいていく。
「おはようギーシュ君、今日もしっかり来ているね」
「あ、レッドさん! おはようございます。
当り前ですよ! 彼女のためですから!!
………ってそうじゃなくて彼女は何故ここに来ているのでしょうか?」
「それは僕も知らない。
だから今から聞こうと思ってね。
そう言うことでタバサ嬢、君はどうしてここに?」
俺は少し腰を曲げ、タバサ嬢の目線に合うようにしながら話かけた。
すると彼女は確りと俺の眼を見て、告げた。
「私に接近戦の訓練をつけてほしい」
「……随分急な話だね。 理由を聞いても?」
まぁ何となくわかるんだけどね。
恐らく任務に行く際に自身がより強くなることで、死ぬ可能性が減るからだろう。
彼女はそう簡単に死ねる身じゃないからね。
お母さんのことにジョゼフ王のこと。
分からなくもない……かな。
復讐云々に関しては俺に言えることは無い。
それは彼女が片づけなければならない案件だから……まぁ頼られれば間接的に多少力を貸すのは構わないけどね。
「前から考えていたこと。
貴方は接近戦において私より強い」
「それは……どうかな?
買いかぶりかもしれないよ?」
「あの素手での連撃は最初の一撃が当たったらもう抜けだせない」
見られてたのか?!
まぁ一目見ただけなら覚えられないだろうし、タバサ嬢にアレは厳しいだろう。
すっかりギーシュ君がポカンとしているが、今はそのままでいてもらおう。
「覗き見とは……少し趣味が悪いね」
「それに関しては否定できない。
ごめんなさい」
「いや、別にいいんだけどね。
但し他の人には内緒にしてくれれば嬉しいな(特に保護者の方にはね)」
「わかった」
「まぁそれに関してはもう終わったことだし、いいんだけど今後は覗かないでね?
僕としては手札を知られるのは好ましくないからね」
「………分かった」
本当に分かってるのかな?
なんかまた見に来そうだな……もっと森の奥でやろうかな。
「ところでタバサ嬢は接近戦の訓練を御所望だけど、僕は剣しか使えないよ?」
「? 素手で戦える……」
「あれは切り札に近くてね。
教えるのは少し戸惑ってしまうよ」
「……残念」
「それにあれはあまり女性向きではなくてね(公爵夫人やマルギッテさんは別だが)」
「………」
落ち込んでいる……のか?
何だこの罪悪感は!! まるで子供を苛めている様な気持ちは何だ!!!
「え、えっとタバサ嬢はトライアングルメイジなわけだし、もし戦うことがあっても接近させずに攻撃することが出来るんじゃないかい?」
「………もし近づかれた時に対処できないのは致命的」
「………それは正論だね」
さぁどうしようか………もし鍛えるとしたら彼女は実戦経験があるから、そう言った講義は必要ないだろう。
彼女に必要なのはより多くの経験と、近接技能。
しかし小柄な体の女性に使えて、尚且つ実戦でも役立つもの………あるっちゃあるが教えていいもんかな?
近接戦に持ち込まれた時に防げればいいなら、確かにあれは適している。
でも正直俺にとっても持ち札の一枚だ。
教えるなら俺が納得できる言葉が欲しい。
だから俺はタバサ嬢を試すことにした。
原作の中でどんな境遇だったかは、知っている。
だがここにいる彼女の気持ちは聞かなければ分からない。
故に俺は問いかける。
「タバサ嬢」
「………」
「俺は教えること自体……あまり気が進まない」
「………そう」
「だが君が力を欲しているのも分かる。
なら君は力を何に使う?」
これは以前コルベール先生に俺が聞かれたことだ。
俺が出した答えは平穏を守るため。
彼女の答えは俺を納得させてくれるだろうか?
「私の……力の使い方?」
「そうだ。 僕の夢は大切な人と平穏な日々を暮らすこと。
その平穏を守るための力を、理不尽なことに抗えるだけの力を僕は求め鍛えている。
ギーシュ君を鍛えているのは、彼が好きな子のために力を欲しているから少しだけ鍛えてあげているだけだ」
後ろでギーシュ君が凹んでいるが、そんなの知ったことじゃない。
なんか「あれで少し?」とか聞こえるが、そんなもん知らん。
「君は自身の力を何に使う?」
「私は……母様を、一人の女性を守るために、もうこれ以上理不尽な目に遭わない様にしたい」
「(まぁ復讐のことは言わないか……話せる内容でもないしな)まだ他に理由がありそうだけど、まぁいい。
じゃあタバサ嬢君は守る力を欲するということでいいね?」
「守る力?」
「俺が教えるのは守るための剣。
筋肉が多い男性に近接戦闘を持ち込まれても、女性が防ぐことが出来る剣技。
簡単じゃないけどやるかい?」
「………」
タバサ嬢はコクリと力強く首を縦に振った。
「なら教えよう! 僕の持ち札の中でも最も信用している一枚(まぁポケモンを除いてだけど)。
マインゴーシュを!!」
「「マインゴーシュ?」」
ギーシュ君? 君には関係ないのだからそこで凹んでいなさい!!
君は大人しくゴーレムの使い方を考えるお仕事してればいいの!!
「そう、相手の剣線に自分の剣をそっと添えて、自分に当たらない様に軌道を逸らす剣。
タバサ嬢は身体が大きくないために、基本相手は突くか振り下ろしを主に使うだろう。
上下からの斬撃はこれが出来ればどうにかなる。
きっとこれが出来れば早々斬られることは無いでしょう。
突きに関しては練習中に対処法を教えて行くから覚えてください」
「………分かった」
「では明日僕が昔使っていたマインゴーシュ用の剣を持ってきますので、この時間に来てください」
あれなら俺が子供の時使ってたやつだからあんまり重くないし、握りも細い。
俺も剣持ってこないとなぁ……いや錬金で刃を潰した剣を作った方がいいかな?
「今日は?」
「今日はギーシュ君の訓練を見ててもいいですし、何か聞きたいことが「話が聞きたい」あれば……答えますよ。
ふぅ……ではこの間の話の続きをしますか。
ギーシュ君はアイガ君との模擬戦をお願いします。
ルールは昨日と同じですが、昨日と同じことはしないでください。
ああいった同時突撃は確かに有効な時もあるのですが、それは相手が格上の場合通用しません。
君は最終的に歴戦の猛者を相手にするのですから、もう少し作戦を練ってから攻撃した方がいいですよ?」
「はい! 出来れば作戦に関してアドバイスが欲しいんですが………」
「それを考えるのも訓練の内ですよ」
「………はい」
さぁて今日は少しでも削れますかね?
まぁアイガの長所はその防御力と再生力、そして物理攻撃力ですから……スピードで翻弄して、同じところを何回も攻撃すれば少しは削れるかな?
一応広域攻撃は制限してますし、近接攻撃しかしない様に言っているから、ギーシュ君の頑張り次第ですかね?
さてと……それじゃあ目を輝かせて俺の話を待ってくれている幼子に、俺の経験を含めたお話を聞かせますか。
最初杖が大きいから棒術や槍術を教えようかと思ったけど、あの小さな身体で槍とか使うと……某アニメにもなった無双の娘みたくなりそうだったから自重した。
他にも合気道とか考えたんだけど、あれって一朝一夕で実戦利用できる技能じゃないんですよね。
そこであまり筋力を使わないこれにしました。