第72話 分霊の住む湖
実家に帰ってきた翌日。
俺は朝一で水筒の中にある水の精霊を湖に移すために、森の中に来ている。
結局昨日は家に着いたのが夜になってしまったから、湖に行けなかった。
家に帰ってきてからやれたことと言えば両親への報告位のものだ。
まぁまだ半年位しか経ってないから、報告と言っても話すことは少なかったけど……。
「さてと……湖に着いたわけだが、普通に入れればいいのかな?
混ぜろとしか言われてないから大丈夫だとは思うけど」
俺は若干の不安を胸に抱えつつも、水筒の中身を湖へと流しこんだ。
すると湖が一瞬光輝き、中心辺りが泡立ち始めた。
その水泡がなくなると、いつも通りの湖に戻ったが……。
「大丈夫か、これ?」
「問題ない」
「え!?」
俺が湖の変化に驚いていると、何処からか声が聞こえてきた。
周囲に人の気配はなく、目の前にあるのはいつもと変わらない湖だけ。
もしかして幻聴か?
それにしてはハッキリ聞こえたけど。
「それにしても少し驚いたなぁ……まさか湖が光るなんて。
人がいたら怪奇現象として噂に成りそうだな」
「水の精霊が怪奇現象とは、不遜な輩がいるものだな」
「………やっぱり貴方ですか」
目の前に水で作られた俺の姿があった。
何度見ても慣れないな。
色が付いていない自分を見るのは気持ちいいものではない。
「これで良かったですか?」
「これでいい。 知ってはいたが、ここは良い湖だな」
「そう言ってもらえて嬉しいですね。
俺のお気に入りの場所ですから」
まぁなんか新たな住人が増えたけど……。
悪い人じゃないからいいか。
「こっちの湖ではあまり派手なことしないでくださいね?
国に目をつけられそうなので」
「分かっている。
主は目立ちたくない、平穏に暮らしたいというのが夢。
その夢を邪魔するつもりはない」
「それなら良かったです」
「我としてもこのような湖が血や泥で汚れるのは好かない。
もし単なる者がこの森に攻めてきたなら、力を貸すのは吝かではない」
そんな仮定したくないなぁ……。
でもポケモンのことがバレたら、ロマリア辺りが異端を排するとか言いながら攻めてきそうだしな。
ある意味力強い味方が出来たのか?
「但し」
「但し?」
「今後森で召喚を行う際は我を呼べ。
特に水に関係するものなら絶対だ」
やっぱりポケモン目的だったかこの精霊!
っていうか大分ストレートに言ってきたな。
「それぐらいなら構いませんが、その際には周囲の索敵任せてもいいですか?
僕が索敵するよりも、貴方が水を使って索敵していただけた方が精度が高いと思いますので……」
「分かった」
「そうですか、助かります」
こうして俺の事情を知っている仲間?が一人増えた。
森から帰ってきた俺は使用人から、母さんが俺を呼んでいたことを聞き、部屋へと向かった。
「おかえりなさいレッド」
「ただいま母さん」
「突然だけど本題に入るわね。
貴方ここに帰ってくる前に、マルギッテのところに寄ってきたでしょ?」
「はい、寄ってきましたね」
「その時に水の精霊に渡りを通したんですって?」
「そうですね」
「彼女とても感謝していたわ。
そのお礼という形で、水の秘薬が送られてきたの」
早いな!
まぁ嬉しいんだけど、母さんは結局なんの用なんだろう?
「そしてここからが本題なんだけど、貴方確か秘薬の勉強殆どしてなかったわよね?」
「そうですね、資料も少なかったですし」
「それでここに秘薬の実物がある。
ということで夏休みの間秘薬の勉強をしましょう!」
確かに俺は傷を治すための水の秘薬位しか作れない。
っていうかそれ以外の情報が家の本になかった。
俺としてもモンモランシ嬢程の秘薬作りを目指してるわけではないけど、戦闘で役立ちそうな秘薬をつくることが出来れば、俺に出来ることも増える。
今後何が起こるか分からないので秘薬の知識はあって困るものじゃない。
「そうですね!
僕としても他の秘薬に興味がありますし、いい効果の秘薬を店で買うと安くありませんからね」
「そうね〜、特に戦闘に使える位効果が強いものとなると余計に高いもの。
なら作った方が安く済むわね。
家も裕福な貴族とは言えないから、秘薬の勉強はとても役立つでしょう」
それに水の精霊の協力も得られそうだから、秘薬作りの勉強はやっておいた方がいいだろう。
もし原作キャラが病で倒れでもしたら、俺の知っている未来とはかけ離れてしまう。
戦闘も大事だが、サポートも出来るようになっておくのがベストだ。
「じゃあ今日の夜から始めましょう」
「え? なんで夜なの?」
「昼ごろの強い日差しに照らされることで、材料が渇いたり、気化したり、変質してしまったら秘薬は出来ないからよ。
それに明るい間は私とお父さんとの訓練が有るでしょう?」
「そう……でしたね」
忘れてた……家にいる間は訓練をつけてもらうという話だったんだ。
「うふふ、この半年でどのくらい成長したか楽しみだわ」
「(こういうところはマルギッテさんに似てるなぁ)お手柔らかに」
「それはレッド次第ね」
そう言って母さんは少女の様に笑った。